男子高校生たちの

ハリネズミ

文字の大きさ
上 下
5 / 35

なんだ、夢オチか

しおりを挟む
風邪をひいた。
昨日は久しぶりに温かくて薄着をしてうたた寝をしてしまった。
それが原因か。

今日は平日なので共働きの両親もいないし、渚も学校へ行っている。
俺は一人しーんと静まる家の中でぼーっと天井をみつめていた。

高熱の為に身体の節々が痛く、喉もひりつきつばを飲み込むのも痛い。
ベッドサイドに置かれた水の入ったペットボトルを取り、そういえば…と考える。


***

あの日も俺は風邪をひいて高熱を出して寝ていた。
ほんの数か月前のまだ俺たちがただの幼馴染だった時の話。

高熱により意識が朦朧としていた。
「哲、苦しいか?」
「ん」
渚の声がする。
「ちょっと我慢な」
渚の少し冷たい手で汗で濡れたパジャマを脱がされ手早くタオルで全身を拭かれ、新しいパジャマに着替えさせられた。

うわ―…いい夢―。渚の手気持ちいい―――。

熱のせいなのかなんなのかふわふわと気持ちいい。
くふふっと息が漏れる。
「なんだよ。何笑ってるんだよ。ま、楽になったんならよかったけど」
楽しそうにそう言いながら額にかかる前髪をよけてくれる。

「渚……す、き」
思わず呟いた一言。

「え?何が?」
夢でなら言ってもいいよな。
現実では絶対に言えないけど、夢の中でなら……。
渚のひんやりした手を掴み頬をすりすりと擦り付ける。

「渚が好き……だ。すごく…すごく好き」

途端に渚の手が熱を持って熱くなる。
「え、え?えっと…恋愛的な意味で?―――本気?」
慌てる声に渚の戸惑いが伝わってくる。
すごくよくできた夢だな。
あぁでも本物の渚ならどういう反応するんだろう。

「ん。どうしようもなく渚の事が恋愛的な意味で、好きだ」

数拍置いて渚の言葉。
「―――――哲。付き合おっか」
「嬉しい…」
たとえ夢であっても付き合おうって言ってくれた渚。
このまま死んでもいいくらい嬉しい。

目が覚めたのは翌日の朝で、妙にすっきりしていて熱もすっかり下がっていた。
きょろきょろと部屋を見回し、あぁやっぱりアレは夢だったんだな、と分かっていた事だけどがっかりした。

夢落ちなんて、ベタすぎるぞ自分!
自分にツッコミを入れ、ん―――と背伸びをした。
病み上がりにしては妙にすがすがしい朝だった。

すっきりした顔で家族に挨拶をし朝食を食べ、いつも通り学校に向かった。



-終-
しおりを挟む

処理中です...