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「なんだよ玄。思い出し笑いなんかして。気持ち悪いぞ」
「気持ち悪いってひどいなー」
ぷくりと頬を膨らませると、啓馬君は僕の膨らんだ頬を人差し指でつんつんとつついた。
「ほら、機嫌直さないと旦那が迎えに来るぞ」
「はる、帰ろうか」
と、タイミングよく声をかけてきたのは隣りの教室から僕を迎えに来た卜部君だ。
啓馬君が謂う所の『旦那』である。
卜部君の登場に教室内でヒソヒソと囁き合う声が聞こえる。
卜部君の噂は今も相変わらずだ。
だけど僕たちはちっとも気にしてなんかいなかった。
だって嘘だってわかってるから。
僕の知ってる卜部君は優しくて格好良くて、たまに暴走しちゃうけど誰よりも愛情深い可愛い人。
そして僕の一番愛しくて大切な人。
一年前の告白から色々あって付き合いだした僕たちは、二人で啓馬君に報告したんだ。啓馬君は幼馴染で友だちで卜部君とはまた違うけど大切な人だから。噂話を真に受けて卜部君の事を誤解したままではいて欲しくなかった。
卜部君の事を、僕たちの事をちゃんと見て欲しかった。
啓馬君は僕たちの話を最後まで黙って聴いてくれて、卜部君の事誤解してたって謝ってくれた。そして、全力で応援するって言ってくれたんだ。やっぱり啓馬君はすごいね。僕はそこまでは望んでいなかったんだ。ただ卜部君の事を色眼鏡で見て欲しくなかっただけ。そんな啓馬君だから僕は人として啓馬君の事が好きなんだ。
素敵な恋人の他にもこんなに素敵な友人がいて僕は世界一の幸せ者だね。
「なんだよ。人の顔見てにやにやして」
「にやにやだなんてひどいよー。啓馬君は意地悪だー」
と、またじゃれ合い始める僕たち。
「こーら。俺以外のやつといちゃつかないの。たとえ啓馬が相手でもダーメ。はるは俺の恋人だろう?」
と、卜部君に背後から僕を抱きしめられた。
「そんなつもりは…うん。ごめんね。僕が好きなのは卜部君だけ、だよ」
「はいはい。砂糖吐きそうなくらい甘いから。いちゃつくなら他所でやってくれぃ。独り身には辛いわ」
そう言って啓馬君は呆れたような声を出す。
一年前にはこんなやりとりを僕たち三人がするなんて思ってもみなかった。
少し勇気を持つだけで、少し自分を信じるだけで世界はこんなにも変わるんだ。
「悪いな。じゃあ俺たち帰るよ」
「じゃあね。啓馬君。また明日」
笑顔で友人に別れを告げ、恋人と手を繋ぎ教室を出た。勿論恋人繋ぎだ。
*****
「―――はる。俺の下の名前知らないわけじゃないよな…?」
「え?勿論知ってるよ?」
「ふーん……」
じーっと見つめてくる卜部君。卜部君が何を言いたいのか分かってはいるんだ。これまでにもちょいちょい言われてきた事だから。
でも、恥ずかしくて……なかなか呼べない。
「呼ばないと…キスする。呼んだらチュウする…。さぁどっちがいい?」
「ちょ…それってどっちにしろするんじゃない…」
いつの間にか卜部君の腕の中にいる僕。
あの日と同じ。場所は違うけど桜の木の下で卜部君に抱きしめられている。
「―――さ、さつ…き…君。好きだよ」
「ああ。―――玄、俺も世界で一番大好きだ」
目を細め見つめ合う。
桜の花びらがちらちらと舞い散る中、僕は皐月君と何度目かのキスをした。
とくとくと優しく刻まれる二人の鼓動。
今はもう『僕なんか』なんて事は言わない。
僕たちの間に『違い』はあっても、『差』なんてものは最初からなかったんだって分かったんだ。
卜部君の気持ち。僕の気持ち。
僕たちは同じ色をしてるから。
さくら色は幸せの色。
さくら色は恋の色。
幸せな僕たちの恋はきっと淡くて優しいさくら色をしている。
-終-
「気持ち悪いってひどいなー」
ぷくりと頬を膨らませると、啓馬君は僕の膨らんだ頬を人差し指でつんつんとつついた。
「ほら、機嫌直さないと旦那が迎えに来るぞ」
「はる、帰ろうか」
と、タイミングよく声をかけてきたのは隣りの教室から僕を迎えに来た卜部君だ。
啓馬君が謂う所の『旦那』である。
卜部君の登場に教室内でヒソヒソと囁き合う声が聞こえる。
卜部君の噂は今も相変わらずだ。
だけど僕たちはちっとも気にしてなんかいなかった。
だって嘘だってわかってるから。
僕の知ってる卜部君は優しくて格好良くて、たまに暴走しちゃうけど誰よりも愛情深い可愛い人。
そして僕の一番愛しくて大切な人。
一年前の告白から色々あって付き合いだした僕たちは、二人で啓馬君に報告したんだ。啓馬君は幼馴染で友だちで卜部君とはまた違うけど大切な人だから。噂話を真に受けて卜部君の事を誤解したままではいて欲しくなかった。
卜部君の事を、僕たちの事をちゃんと見て欲しかった。
啓馬君は僕たちの話を最後まで黙って聴いてくれて、卜部君の事誤解してたって謝ってくれた。そして、全力で応援するって言ってくれたんだ。やっぱり啓馬君はすごいね。僕はそこまでは望んでいなかったんだ。ただ卜部君の事を色眼鏡で見て欲しくなかっただけ。そんな啓馬君だから僕は人として啓馬君の事が好きなんだ。
素敵な恋人の他にもこんなに素敵な友人がいて僕は世界一の幸せ者だね。
「なんだよ。人の顔見てにやにやして」
「にやにやだなんてひどいよー。啓馬君は意地悪だー」
と、またじゃれ合い始める僕たち。
「こーら。俺以外のやつといちゃつかないの。たとえ啓馬が相手でもダーメ。はるは俺の恋人だろう?」
と、卜部君に背後から僕を抱きしめられた。
「そんなつもりは…うん。ごめんね。僕が好きなのは卜部君だけ、だよ」
「はいはい。砂糖吐きそうなくらい甘いから。いちゃつくなら他所でやってくれぃ。独り身には辛いわ」
そう言って啓馬君は呆れたような声を出す。
一年前にはこんなやりとりを僕たち三人がするなんて思ってもみなかった。
少し勇気を持つだけで、少し自分を信じるだけで世界はこんなにも変わるんだ。
「悪いな。じゃあ俺たち帰るよ」
「じゃあね。啓馬君。また明日」
笑顔で友人に別れを告げ、恋人と手を繋ぎ教室を出た。勿論恋人繋ぎだ。
*****
「―――はる。俺の下の名前知らないわけじゃないよな…?」
「え?勿論知ってるよ?」
「ふーん……」
じーっと見つめてくる卜部君。卜部君が何を言いたいのか分かってはいるんだ。これまでにもちょいちょい言われてきた事だから。
でも、恥ずかしくて……なかなか呼べない。
「呼ばないと…キスする。呼んだらチュウする…。さぁどっちがいい?」
「ちょ…それってどっちにしろするんじゃない…」
いつの間にか卜部君の腕の中にいる僕。
あの日と同じ。場所は違うけど桜の木の下で卜部君に抱きしめられている。
「―――さ、さつ…き…君。好きだよ」
「ああ。―――玄、俺も世界で一番大好きだ」
目を細め見つめ合う。
桜の花びらがちらちらと舞い散る中、僕は皐月君と何度目かのキスをした。
とくとくと優しく刻まれる二人の鼓動。
今はもう『僕なんか』なんて事は言わない。
僕たちの間に『違い』はあっても、『差』なんてものは最初からなかったんだって分かったんだ。
卜部君の気持ち。僕の気持ち。
僕たちは同じ色をしてるから。
さくら色は幸せの色。
さくら色は恋の色。
幸せな僕たちの恋はきっと淡くて優しいさくら色をしている。
-終-
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