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第55話 お久しぶりです
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すやすやすや・・・
すやすやすや・・・
少女達が寝息を立てる。
長旅の疲れからか、マユミとミーアはぐっすりと眠っていた。
・・・ベッドの上には、パジャマ姿の二人の無防備な姿が転がっている。
二人は無意識のうちに布団を蹴り飛ばしてしまっていた。
無理もない・・・初夏の暖かな日差しが室内を容赦なく温めているのだ。
ここグリュモール侯爵領は王国内でも湿気が高い、比較的日本に近い気候をしていた。
「う、うーん・・・」
マユミが目を覚ました・・・その腕に抱きついて寝ているミーアの分、先に暑さに耐えかねたようだ。
軽く汗ばんだ身体を起こし、ミーアを振りほど・・・けないので、揺り起こしにかかる。
「ミーアちゃん、朝・・・じゃないか、もうお昼だよ」
「うぅ・・・ん・・・マユミ、おはよう」
マユミに支えられながら身を起こすミーア・・・まだ眠そうに目をこすっている。
・・・ミーアには悪いが、これからの季節を考えると別々に寝る習慣を身に着けてもらった方が良さそうだ。
「さ、ミーアちゃん、一緒にナーデの部屋に行こう」
「うん」
二人仲良く連れだってエレスナーデの部屋に行く。
コンコン・・・ドアをノックをするが、反応がない。
「あれ・・・ナーデ?」
どこかへ行っているのだろうか・・・もう時間が時間だけにその可能性も充分ありえる。
ドアに鍵は掛かっていないようで・・・マユミはドアを少しだけ空けて、中の様子を伺った。
「ナーデ?・・・あっ・・・」
すー・・・すー・・・
エレスナーデは部屋にいた・・・ベッドの中で静かに寝息を立てている。
長旅で疲れていたのは彼女も同じだったようだ。
「マユミ、これ・・・」
「?」
机の上に開かれた本に気付いたミーア・・・そのページには詩のようなものが書かれていた。
「これ・・・歌詞だ・・・」
おそらく彼女は夜遅くまで歌詞を作っていたのだろう。
その甲斐あって、歌詞は完成したようだ。
「ナーデ、ありがとう・・・」
まだ寝息を立てているエレスナーデの髪を撫でる・・・すると・・・
「ん・・・マユ・・・ミ?」
「あ、起きた・・・おはようナーデ」
「どうやら私、だいぶ寝過ごしてしまったよう・・・ええええええ!」
ようやく目が覚めたエレスナーデは、机に開いたままの歌詞本と、熱心にそれを読むミーアを見て奇声を上げた。
瞬く間に顔が真っ赤に染まっていく。
「あ、歌詞作ってくれたんだよね、ありがとう」
「待って、それは仮というか、その・・・まだ自信が・・・」
「や、勝手に見ちゃったけど・・・充分良い歌詞だと思うよ」
「そ、そう?」
「うん、バッチリだよ」
「ナーデ、ありがとう」
(よ、よかった・・・)
ミーアもお礼を聞いて、エレスナーデの力が抜ける・・・ようやく安心出来たようだ。
「それじゃナーデ、寝起きで悪いんだけど、着替えとお化粧お願いしていいかな」
「ええ、大丈夫よ・・・今日の服はどうしようかしら?」
「今日は『海の乙女』をやろうと思うんだけど・・・」
「『二人の歌姫』じゃなくていいのね?」
「さすがにすぐには歌詞を覚えられないよ」
「そう・・・じゃあこんな感じかしら・・・」
エレスナーデは丈の短い薄青の服を用意した、涼しげな雰囲気がポイントだ。
ついでにマユミの黒髪に青い宝石のついた髪飾りも付ける。
「海をイメージして青で纏めてみたわ」
「うん、いい感じだよ」
「私も、お願い・・・」
「はいはい」
続いてミーアには薄手の生地を多用した涼しげな服を着せる・・・この街で初顔見せとなるミーアの為に、少々派手目なチョイスだ。
「うん、我ながら良いコーディネートだわ」
その出来栄えにエレスナーデは満足げだ。
ミーアの動く度に、羽衣のような薄布がひらひらと舞う。
支度を整えた3人は『女神の酒樽亭』へ向かった。
・・・リタや常連客達は元気にしていただろうか・・・
もうずいぶんと顔を見せていないので、心配をかけているかも知れない。
「ほらナーデ、はやくはやく」
「もうマユミったら、そんなに慌てなくても・・・」
・・・元気よく屋敷を出ていく少女達を、侯爵は自室から眺めていた。
「・・・マユミ殿に変わりはないか?」
「はい、昨夜はお疲れのご様子でしたが、もうすっかりお元気になられたようです」
「そうか・・・」
ジーブスのその報告に、侯爵は渋い顔をしていた。
(いっその事、体調の一つも崩してくれた方が良い口実となったのだが・・・)
侯爵はその手に持った紙の束に蝋を垂らし、封をした。
「ジーブス、これを我が息子達に・・・」
「畏まりました・・・」
「侯爵様、お呼びでしょうか」
書簡を受け取り部屋を後にした執事と交代するように、もう一人の人物が部屋に入って来る。
「来たかゲオルグよ・・・お前達にも、そろそろ働いてもらう事になりそうだ」
「・・・はっ」
いつになく真面目な侯爵の様子に、ゲオルグは緊張した表情で姿勢を正した。
・・・・・・
・・・
『女神の酒樽亭』にやって来たマユミ達。
・・・その姿を見つけるや否や、客達から歓声が上がる。
「マユミちゃんだ、マユミちゃんが帰って来たぞ!」
「なんだって!」
「見間違えじゃないだろうな・・・おお、本物だ!」
「なんか一人増えてるな」
「こうしちゃいられねぇ、皆を呼んでこないと・・・」
店はたちまち大騒ぎだ。
「あはは、皆大げさだよ・・・」
「それだけアンタが愛されてるってことさ」
酒樽を片手にリタが出迎える・・・相変わらずの怪力っぷりだ。
「あ、リタさん、お久しぶりです」
「うんお帰り、港町は楽しかったかい?」
「はい、おかげでだいぶ長居しちゃいました」
「まぁ元気そうで何よりだよ・・・そっちの子は妖精族かい?珍しいね」
「え・・・妖精族?」
そういえばお芝居ではそんな役をやっていた事を思い出す。
あまりに似合っていたから気にしてなかったマユミだったが・・・
「いやほら耳が尖ってるだろう?」
「あれ・・・ミーアちゃんまだこの耳を・・・」
ミーアの耳は少々長細く、尖っていた。
・・・あの時は芝居用のメイクかと思っていたが、もうお芝居が終わってからだいぶ経っている。
マユミ注意深く観察した後、それに触ってみた。
「くすぐったい・・・」
「あ、これ本物だ・・・」
その耳にはしっかり血が通っていた、特殊メイクではない、本物だ。
「マユミ・・・あなたまさか・・・気付いてなかったの?」
エレスナーデは唖然とした顔でマユミを見ていた。
「うん、私そういうの初めて見たし・・・へぇ~」
興味深そうに見るマユミだが、ミーアとしては気持ちのいいものではなかったらしい。
「マユミ、見ないで・・・」
「あ、ごめん・・・でも良く似合ってると思うよ、かわいい」
「本当?」
「うん」
「なら、見ててもいい」
「え、いいの?」
こくり。
ミーアはまだ少し恥ずかしそうにしていたが、マユミに見られる分には文句はないらしい。
「たぶんこの子は混血よ、色々と事情があって今一緒に暮らしてるの」
「そいつは悪かったね・・・お詫びってわけじゃないけど、今日はおごらせてもらうよ」
「いいの?」
「まぁ店の方はたっぷり稼がせてもらえそうだしね」
そう言いながらリタが指差す方を見ると・・・マユミ帰還の報を受けて、客達が続々と集まって来ていた。
「本当にマユミちゃん帰って来たのか」
「元気そうでよかったぜ」
「またこの店に通う日々が始まるな・・・」
あっという間に店は満席になり、入りきれない客が外に溢れた。
「さ、皆お待ちかねだよ、挨拶の一つもしてやりな」
「はい、皆さんお久しぶりです、お元気にしてましたか?
私は行きの道中でいきなり船酔いになって大変だったです・・・」
店が笑い声に包まれる。
中にはマユミを心配する声もあったが、今目の前のマユミが元気そうなので皆気楽なノリだった。
「皆さんへのお土産代わりに、今日は港町で仕入れたお話をしたいと思います」
そしてマユミは語り始めた・・・船乗りたちを導く海の乙女の物語を・・・
すやすやすや・・・
少女達が寝息を立てる。
長旅の疲れからか、マユミとミーアはぐっすりと眠っていた。
・・・ベッドの上には、パジャマ姿の二人の無防備な姿が転がっている。
二人は無意識のうちに布団を蹴り飛ばしてしまっていた。
無理もない・・・初夏の暖かな日差しが室内を容赦なく温めているのだ。
ここグリュモール侯爵領は王国内でも湿気が高い、比較的日本に近い気候をしていた。
「う、うーん・・・」
マユミが目を覚ました・・・その腕に抱きついて寝ているミーアの分、先に暑さに耐えかねたようだ。
軽く汗ばんだ身体を起こし、ミーアを振りほど・・・けないので、揺り起こしにかかる。
「ミーアちゃん、朝・・・じゃないか、もうお昼だよ」
「うぅ・・・ん・・・マユミ、おはよう」
マユミに支えられながら身を起こすミーア・・・まだ眠そうに目をこすっている。
・・・ミーアには悪いが、これからの季節を考えると別々に寝る習慣を身に着けてもらった方が良さそうだ。
「さ、ミーアちゃん、一緒にナーデの部屋に行こう」
「うん」
二人仲良く連れだってエレスナーデの部屋に行く。
コンコン・・・ドアをノックをするが、反応がない。
「あれ・・・ナーデ?」
どこかへ行っているのだろうか・・・もう時間が時間だけにその可能性も充分ありえる。
ドアに鍵は掛かっていないようで・・・マユミはドアを少しだけ空けて、中の様子を伺った。
「ナーデ?・・・あっ・・・」
すー・・・すー・・・
エレスナーデは部屋にいた・・・ベッドの中で静かに寝息を立てている。
長旅で疲れていたのは彼女も同じだったようだ。
「マユミ、これ・・・」
「?」
机の上に開かれた本に気付いたミーア・・・そのページには詩のようなものが書かれていた。
「これ・・・歌詞だ・・・」
おそらく彼女は夜遅くまで歌詞を作っていたのだろう。
その甲斐あって、歌詞は完成したようだ。
「ナーデ、ありがとう・・・」
まだ寝息を立てているエレスナーデの髪を撫でる・・・すると・・・
「ん・・・マユ・・・ミ?」
「あ、起きた・・・おはようナーデ」
「どうやら私、だいぶ寝過ごしてしまったよう・・・ええええええ!」
ようやく目が覚めたエレスナーデは、机に開いたままの歌詞本と、熱心にそれを読むミーアを見て奇声を上げた。
瞬く間に顔が真っ赤に染まっていく。
「あ、歌詞作ってくれたんだよね、ありがとう」
「待って、それは仮というか、その・・・まだ自信が・・・」
「や、勝手に見ちゃったけど・・・充分良い歌詞だと思うよ」
「そ、そう?」
「うん、バッチリだよ」
「ナーデ、ありがとう」
(よ、よかった・・・)
ミーアもお礼を聞いて、エレスナーデの力が抜ける・・・ようやく安心出来たようだ。
「それじゃナーデ、寝起きで悪いんだけど、着替えとお化粧お願いしていいかな」
「ええ、大丈夫よ・・・今日の服はどうしようかしら?」
「今日は『海の乙女』をやろうと思うんだけど・・・」
「『二人の歌姫』じゃなくていいのね?」
「さすがにすぐには歌詞を覚えられないよ」
「そう・・・じゃあこんな感じかしら・・・」
エレスナーデは丈の短い薄青の服を用意した、涼しげな雰囲気がポイントだ。
ついでにマユミの黒髪に青い宝石のついた髪飾りも付ける。
「海をイメージして青で纏めてみたわ」
「うん、いい感じだよ」
「私も、お願い・・・」
「はいはい」
続いてミーアには薄手の生地を多用した涼しげな服を着せる・・・この街で初顔見せとなるミーアの為に、少々派手目なチョイスだ。
「うん、我ながら良いコーディネートだわ」
その出来栄えにエレスナーデは満足げだ。
ミーアの動く度に、羽衣のような薄布がひらひらと舞う。
支度を整えた3人は『女神の酒樽亭』へ向かった。
・・・リタや常連客達は元気にしていただろうか・・・
もうずいぶんと顔を見せていないので、心配をかけているかも知れない。
「ほらナーデ、はやくはやく」
「もうマユミったら、そんなに慌てなくても・・・」
・・・元気よく屋敷を出ていく少女達を、侯爵は自室から眺めていた。
「・・・マユミ殿に変わりはないか?」
「はい、昨夜はお疲れのご様子でしたが、もうすっかりお元気になられたようです」
「そうか・・・」
ジーブスのその報告に、侯爵は渋い顔をしていた。
(いっその事、体調の一つも崩してくれた方が良い口実となったのだが・・・)
侯爵はその手に持った紙の束に蝋を垂らし、封をした。
「ジーブス、これを我が息子達に・・・」
「畏まりました・・・」
「侯爵様、お呼びでしょうか」
書簡を受け取り部屋を後にした執事と交代するように、もう一人の人物が部屋に入って来る。
「来たかゲオルグよ・・・お前達にも、そろそろ働いてもらう事になりそうだ」
「・・・はっ」
いつになく真面目な侯爵の様子に、ゲオルグは緊張した表情で姿勢を正した。
・・・・・・
・・・
『女神の酒樽亭』にやって来たマユミ達。
・・・その姿を見つけるや否や、客達から歓声が上がる。
「マユミちゃんだ、マユミちゃんが帰って来たぞ!」
「なんだって!」
「見間違えじゃないだろうな・・・おお、本物だ!」
「なんか一人増えてるな」
「こうしちゃいられねぇ、皆を呼んでこないと・・・」
店はたちまち大騒ぎだ。
「あはは、皆大げさだよ・・・」
「それだけアンタが愛されてるってことさ」
酒樽を片手にリタが出迎える・・・相変わらずの怪力っぷりだ。
「あ、リタさん、お久しぶりです」
「うんお帰り、港町は楽しかったかい?」
「はい、おかげでだいぶ長居しちゃいました」
「まぁ元気そうで何よりだよ・・・そっちの子は妖精族かい?珍しいね」
「え・・・妖精族?」
そういえばお芝居ではそんな役をやっていた事を思い出す。
あまりに似合っていたから気にしてなかったマユミだったが・・・
「いやほら耳が尖ってるだろう?」
「あれ・・・ミーアちゃんまだこの耳を・・・」
ミーアの耳は少々長細く、尖っていた。
・・・あの時は芝居用のメイクかと思っていたが、もうお芝居が終わってからだいぶ経っている。
マユミ注意深く観察した後、それに触ってみた。
「くすぐったい・・・」
「あ、これ本物だ・・・」
その耳にはしっかり血が通っていた、特殊メイクではない、本物だ。
「マユミ・・・あなたまさか・・・気付いてなかったの?」
エレスナーデは唖然とした顔でマユミを見ていた。
「うん、私そういうの初めて見たし・・・へぇ~」
興味深そうに見るマユミだが、ミーアとしては気持ちのいいものではなかったらしい。
「マユミ、見ないで・・・」
「あ、ごめん・・・でも良く似合ってると思うよ、かわいい」
「本当?」
「うん」
「なら、見ててもいい」
「え、いいの?」
こくり。
ミーアはまだ少し恥ずかしそうにしていたが、マユミに見られる分には文句はないらしい。
「たぶんこの子は混血よ、色々と事情があって今一緒に暮らしてるの」
「そいつは悪かったね・・・お詫びってわけじゃないけど、今日はおごらせてもらうよ」
「いいの?」
「まぁ店の方はたっぷり稼がせてもらえそうだしね」
そう言いながらリタが指差す方を見ると・・・マユミ帰還の報を受けて、客達が続々と集まって来ていた。
「本当にマユミちゃん帰って来たのか」
「元気そうでよかったぜ」
「またこの店に通う日々が始まるな・・・」
あっという間に店は満席になり、入りきれない客が外に溢れた。
「さ、皆お待ちかねだよ、挨拶の一つもしてやりな」
「はい、皆さんお久しぶりです、お元気にしてましたか?
私は行きの道中でいきなり船酔いになって大変だったです・・・」
店が笑い声に包まれる。
中にはマユミを心配する声もあったが、今目の前のマユミが元気そうなので皆気楽なノリだった。
「皆さんへのお土産代わりに、今日は港町で仕入れたお話をしたいと思います」
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