英雄じゃなくて声優です!

榛名

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第67話 異世界の英雄です

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真っ黒な光線がステージの中央に吸い込まれるように突き刺さり・・・爆発が起こった。

魔王の力を攻撃エネルギーとしてそのまま放つ・・・
ミズキが邪気光・・・イビルレイと名付けた『力』の基本的な使い方だ。

マユミとミーアは『二人の歌姫』の最中だったためにステージの左右に分かれていた。
おかげで直撃こそ免れたものの、爆発の衝撃で全くの無傷というわけにはいかない。

(いったい何が・・・)

マユミはとっさに身を伏せ、両手で頭をかばう。
すると続けざまに周囲で爆発が起こった・・・こちらは魔族達の火の魔術によるものだ。
爆発が収まったのを見計らって周囲を伺うが・・・粉塵が巻き上がって周りの様子がよく見えない。

「ミーアちゃん、大丈夫?」

マユミは自分と同じくステージ上にいたはずのミーアの姿を探す。
それらしき人影を見つける事が出来た。
マユミが駆け寄ると、気を失ったミーアがマインツに抱き抱えられる所だった。

「ミーアちゃんなら大丈夫だ!・・・それよりも、こいつは・・・」

マインツは油断なく周囲を見回す・・・
客達も、警備の兵士達も、動揺して動けずにいる者がほとんどだ。
派手な爆発の割りに被害は少ないようだ。

『我の声が聞こえるか、人間共よ』

「「!!」」

・・・その声は頭上からだった。

人々が一斉に空を見上げる・・・そこには蝙蝠のような翼を広げた巨漢が一人。
同じように翼を持つ者達を従えて、堂々とした雄姿で佇んでいた。

「ま、魔族・・・」

誰かがそう呟くのが聞こえた瞬間。
その魔族の男は、にやりと笑みを浮かべた。

『いかにも、我らは魔族と呼ばれるものだ・・・そして、我こそが・・・』

その姿を見た時から、人々は予感めいたものを感じていた。
そしてそれを肯定するかのように、男は言葉を続ける・・・

『我こそが第七、第七の魔王バルエルである!』

人々は完全にその迫力に飲まれていた。
生存本能が全力で逃げろと告げる、しかしどこへ?
果たして、この魔王から逃れられる場所があるだろうか・・・

(よし・・・いいわよバルエル・・・その調子その調子)

ミズキは観客達の中に紛れ込んでいた。
先程の派手な爆発は彼女が紛れ込むための目くらましが目的だったのだ。
・・・急に表れた彼女の事を気にする者など一人もいなかった。
作戦の第一段階は成功だ。


(あれが魔王・・・本当にいたんだ・・・)

その渋い声を良いなと思ったのは一瞬の事。
異世界の英雄達が倒してきたという宿敵だ・・・マユミはその姿をしっかりと目に焼き付ける。
その体格を比べればマユミなど幼児のようなものだ、そして先程の爆発・・・
やはりマユミには何一つ勝てる要素が思い浮かばなかった。

「何が魔王だ!」

・・・その声の主はセルビウスだった。
彼は剣を抜き放ち、真っ直ぐ魔王バルエルに突きつける。

「私が相手だ、かかってくるがいい!」

騎士の挑発に魔王は躊躇うようなそぶりを見せる。

(面白そうじゃない・・・バルエル、やりなさい)

銀色の騎士・・・まだ若いようだがこの場の人間の中では強そうだ。
彼我の戦力を測るにはちょうどいい相手だろう。
・・・ミズキは最小出力のイビルレイをバルエルの手元で発動して合図を送る。

『・・・いいだろう』

彼の元に魔王バルエルが降りてくる。
人々が息を飲む・・・果たして魔王の力とはいかほどのものなのか・・・

「剣の届く所まで降りてきた事を後悔するがいい!」

セルビウスとて銀の騎士団の精鋭だ、剣の腕には自信があった。
気合一閃、一気に間合いを詰めて斬りかかる。
その動きは魔王は反応出来ない、いや、反応しなかった。

「なにっ!?」

振り下ろされたセルビウスの剣は魔王に当たる前に弾かれた。
魔王は微動だにしない・・・まるで不可視の壁がそこにあるかのようだった。

邪障壁・・・イビルシールド、『力』を防御に転用した所謂バリアだ。

「くっ・・・この・・・」

セルビウスは諦めずに何度も剣を打ち付けるが、そのバリアは破られる事はなかった。

(これがミズキ様の御力か・・・)

バルエルは直前まで内心で怯えていたのだが、すっかり安心したようだ。
こうなると魔王を演じるための余裕も出てくる。

『どうした人間よ、お前の力はその程度か?』

「まだだ!食らええええええ!」

セルビウスは防御をもかなぐり捨てての全力の一撃を見舞う。
しかし、やはり障壁に阻まれ・・・あろうことかその剣は折れてしまうのだった。

「・・・」
『どうやら、そこまでのようだな』

折れてしまった剣に呆然とするセルビウスを、魔王がその剛腕でひと薙ぎした。
彼は数メートル吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。

「・・・かはっ」

・・・力の差は圧倒的だった。
倒れた騎士にとどめを刺すべく、魔王がゆっくりと歩み寄る。
薄れゆく意識の中で、セルビウスは目を逸らすことなく、魔王を睨み続けた。
・・・その視界に白いドレスの裾が翻った。

「マユミ・・・様?」

彼を庇うように両手を広げて・・・マユミが魔王の前に立ち塞がっていた。

『人間の娘よ・・・何のつもりだ』

魔王が訝しげに問う・・・見るからにひ弱そうな線の細い小娘だ。
・・・わざわざ殺されに出てきたのか?正気の沙汰ではない。

しかし・・・

「マユミ陛下だ・・・」
「マユミちゃん」
「マユミ姫」

観客達から声が上がる、彼らは期待に満ちた目で状況を見守っていた。

(これは・・・どういうこと・・・)

魔王がその力を見せつけたというのに、彼らは一向に逃げようとしない。
それどころかこの期待の眼差しだ・・・
まるで目の前のこの少女が、魔王をなんとかしてくれるかのように・・・

(これはまさか・・・いけない!)

ミズキがバルエルに合図を送ったのと同時に・・・

「私はマユミ、異世界よりこの地に召喚されし英雄です!第七の魔王バルエル、あなたを倒すために!」

・・・マユミが名乗りを上げるのだった。
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