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第69話 傷痕です
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「おはようございます、マユミ陛下」
・・・部屋の外から声が聞こえる。
だがマユミはベッドの中・・・なかなか起きようとはしなかった。
「・・・」
どこか焦点の合わない目をしたまま、マユミはふとんをぎゅっと抱きしめていた。
・・・今彼女をそうさせているのは、決して寝心地の良さが理由ではなかった。
第七の魔王バルエルの襲撃から数日が経過した。
劇場に大勢の人々が集まった所を狙った奇襲とも言うべき魔王の襲撃。
それをごく僅かな被害で撃退出来たのは英雄マユミの功績であると人々は讃えた。
しかし、その被害は決して小さくはなかったのだ。
(ナーデ・・・私のせいで・・・)
エレスナーデは魔王によって重傷を負わされ治療中だった。
小さな傷口ではあったが腹部を貫通しており、しばらくは動く事も出来ない重体だ。
(私に戦う力がなかったから・・・)
『英雄、じゃなくて、声優、ですっ!』・・・マユミは最初の頃そう言っていた自分を思い出す。
・・・あんな事を言ってないでもっと強くなる努力をすべきだった。
自分には英雄として魔王と戦える力が秘められているのかも知れないというのに・・・
「マユミ陛下・・・」
部屋の外では女官達がマユミを待っている。
エレスナーデの代わりにマユミの着替えや化粧をする為に用意された人員だ。
仕事で来ている彼女達を、自分の都合でいつまでも待たせるわけにもいかなかった。
マユミは重い身体を動かしてベッドから起きあがる。
・・・身体のあちこちから痛みを感じた、筋肉痛だ。
今更ながらにマユミは筋トレを始めたのだが、そう簡単に強くなれるものでもない。
なにしろ元が弱すぎる、彼女の筋肉は運動をするとすぐに悲鳴を上げるのだ。
ようやく部屋から現れたマユミを女官達が着せ替え、化粧を施す。
彼女達もそれを生業とする者達だ、腕は悪くない。
だが何か物足りなく感じる・・・どうしてもエレスナーデと比べてしまうマユミだった。
「マユミ・・・おはよう」
「ミーアちゃん・・・」
身支度を済ませたマユミをミーアが迎える・・・彼女も浮かない表情をしていた。
マユミが辛そうにしていると彼女も辛いのだ。
「ミーアちゃんごめんね、私・・・こんなんじゃダメだよね」
「無理しないで・・・マユミはがんばってる」
「大丈夫大丈夫、今日は一緒にどこか出掛けよう」
ミーアを心配させまいと精一杯笑顔を作る、まだ少し硬い。
いずれは普段の自分に戻れるのだろうか・・・
エレスナーデは未だに面会謝絶だが、彼女以外はほとんどが軽傷で済んでいたのは幸いだった。
他に怪我人といえば、魔王に挑んで倒されたセルビウスだが・・・
「マユミ陛下!お出掛けですか?お供いたします!」
「セルビウスさん、その・・・身体の方は大丈夫なんですか?」
「これしきのこと、何の問題もありません!」
・・・セルビウスはあれ以来すっかり英雄マユミに心酔していた。
まだ怪我の治らぬ身体で、マユミの護衛を申し出てくる。
(あの魔王相手に一歩も退かず・・・マユミ陛下はまさしく本物の英雄・・・辺境伯の仰る通りだった)
「や、でも・・・そんなに簡単に治る怪我じゃなかったですよね?」
「いいえ、かすり傷です、問題ありませ・・・」
「えい」
「ぐぉあっ・・・何をする小娘・・・あ、陛下、私は大丈夫です、大丈夫ですとも!」
不意にミーアに叩かれ、苦悶の声を上げるが、セルビウスは諦めなかった。
さすがにその熱意を前に、マユミも根負けする。
「もう・・・ついて来るだけですからね」
「はっ、有り難き幸せ!」
「マユミにくっつかないで・・・」
喜々としてついて来るセルビウス・・・まるで犬のようだ。
それとは逆に、マユミを取られると思ったのか、ミーアは不機嫌そうだった。
「そういえば・・・あの子の容体はどうですか?」
マユミはもう一人の怪我人の事を思い出した、魔族に人質にされていた少女だ。
見た感じではミーアと変わらない年齢の少女だったはずだが・・・
「特にたいした怪我もなく、食欲もあって健康そのものだそうです、ただ・・・」
「ただ・・・?」
「なんと申しますか・・・その・・・この近くですので、お会いしてみてはいかがでしょう」
「そうなんだ・・・じゃあ行ってみようかな」
特にこれといった用事もないので、マユミは彼女がいるという診療所へ向かうことにした。
すると・・・
「おいしい!おいしいわこれ、おかわり!おかわりをはやく!」
「は、はぁ・・・」
診療所に似つかわしくない元気な声が響いていた・・・
マユミは、そこでもりもりと食事を平らげる少女、ミズキと遭遇するのだった。
「あ、あの子だ・・・」
「ん・・・あれは・・・!」
マユミとミズキ、二人の視線が合った。
急にミズキの表情が変わる・・・何やら怯えているような・・・
先程聞いた通り元気そうなので安心してマユミは声をかける。
「こんにちは」
「ええええ英雄様!ごごご機嫌うるわしう・・・」
「や、私そんな凄い人じゃないから、落ち着いて・・・ほら、深呼吸しよ、深呼吸」
「すーはーすーはー」
もはや有名人である英雄マユミを間近に見て緊張したようだ。
いささか申し訳なく思いながら、マユミは彼女を落ち着かせる。
「落ち着いたかな?私はマユミ、あなたの名前は?」
「・・・」
マユミのその質問にその少女は黙り込んでしまった。
(うわあああああああああああああ!)
ミズキはすっかりパニックを起こしていた。
(無事潜入成功って思った矢先になんで?なんでこの人が来てるの?まさか正体バレた?)
怪我人としてこの診療所に運び込まれた彼女は、この世界で初めての人間らしい暮らしを満喫していた。
石じゃないベッド、虫じゃない食事、水の魔術でもたらされたお風呂にトイレ、紙もある。
だがそんな幸せな暮らしは長くは続かないという事なのか。
「どうしたのかな?自分のお名前言えないのかな?」
彼女が思考停止している間も目の前の英雄・・・彼女の天敵は問うてくる・・・お前の名を名乗れと。
お前が魔王なんだろ?わかってるんだぞ?・・・彼女の頭にはそう変換された。
(ひぇぇぇえええええ)
・・・圧倒的な恐怖。
「た、たすけて・・・殺さないで・・・」
汗やら涙やらなんやら、全身から色々な液体が流れ出るのを感じた。
「・・・」
英雄はそんな彼女を無言で見つめている・・・どうやって始末しようかの算段でもしているのだろうか。
彼女の脳裏を走馬燈がよぎる。
・・・こんなことなら魔族の土地で密やかに暮らすべきだった。
・・・石のベッドでも我慢するべきだった、食べ物も虫で・・・それは嫌だな・・・
覚悟を決めて目を閉じる・・・せめて、せめて一撃で楽に死なせてくれと願いながら・・・
・・・そんな魔王ミズキを、英雄マユミは・・・
「怖かったんだね・・・もう大丈夫だからね」
やさしく抱き締めたのだった。
・・・部屋の外から声が聞こえる。
だがマユミはベッドの中・・・なかなか起きようとはしなかった。
「・・・」
どこか焦点の合わない目をしたまま、マユミはふとんをぎゅっと抱きしめていた。
・・・今彼女をそうさせているのは、決して寝心地の良さが理由ではなかった。
第七の魔王バルエルの襲撃から数日が経過した。
劇場に大勢の人々が集まった所を狙った奇襲とも言うべき魔王の襲撃。
それをごく僅かな被害で撃退出来たのは英雄マユミの功績であると人々は讃えた。
しかし、その被害は決して小さくはなかったのだ。
(ナーデ・・・私のせいで・・・)
エレスナーデは魔王によって重傷を負わされ治療中だった。
小さな傷口ではあったが腹部を貫通しており、しばらくは動く事も出来ない重体だ。
(私に戦う力がなかったから・・・)
『英雄、じゃなくて、声優、ですっ!』・・・マユミは最初の頃そう言っていた自分を思い出す。
・・・あんな事を言ってないでもっと強くなる努力をすべきだった。
自分には英雄として魔王と戦える力が秘められているのかも知れないというのに・・・
「マユミ陛下・・・」
部屋の外では女官達がマユミを待っている。
エレスナーデの代わりにマユミの着替えや化粧をする為に用意された人員だ。
仕事で来ている彼女達を、自分の都合でいつまでも待たせるわけにもいかなかった。
マユミは重い身体を動かしてベッドから起きあがる。
・・・身体のあちこちから痛みを感じた、筋肉痛だ。
今更ながらにマユミは筋トレを始めたのだが、そう簡単に強くなれるものでもない。
なにしろ元が弱すぎる、彼女の筋肉は運動をするとすぐに悲鳴を上げるのだ。
ようやく部屋から現れたマユミを女官達が着せ替え、化粧を施す。
彼女達もそれを生業とする者達だ、腕は悪くない。
だが何か物足りなく感じる・・・どうしてもエレスナーデと比べてしまうマユミだった。
「マユミ・・・おはよう」
「ミーアちゃん・・・」
身支度を済ませたマユミをミーアが迎える・・・彼女も浮かない表情をしていた。
マユミが辛そうにしていると彼女も辛いのだ。
「ミーアちゃんごめんね、私・・・こんなんじゃダメだよね」
「無理しないで・・・マユミはがんばってる」
「大丈夫大丈夫、今日は一緒にどこか出掛けよう」
ミーアを心配させまいと精一杯笑顔を作る、まだ少し硬い。
いずれは普段の自分に戻れるのだろうか・・・
エレスナーデは未だに面会謝絶だが、彼女以外はほとんどが軽傷で済んでいたのは幸いだった。
他に怪我人といえば、魔王に挑んで倒されたセルビウスだが・・・
「マユミ陛下!お出掛けですか?お供いたします!」
「セルビウスさん、その・・・身体の方は大丈夫なんですか?」
「これしきのこと、何の問題もありません!」
・・・セルビウスはあれ以来すっかり英雄マユミに心酔していた。
まだ怪我の治らぬ身体で、マユミの護衛を申し出てくる。
(あの魔王相手に一歩も退かず・・・マユミ陛下はまさしく本物の英雄・・・辺境伯の仰る通りだった)
「や、でも・・・そんなに簡単に治る怪我じゃなかったですよね?」
「いいえ、かすり傷です、問題ありませ・・・」
「えい」
「ぐぉあっ・・・何をする小娘・・・あ、陛下、私は大丈夫です、大丈夫ですとも!」
不意にミーアに叩かれ、苦悶の声を上げるが、セルビウスは諦めなかった。
さすがにその熱意を前に、マユミも根負けする。
「もう・・・ついて来るだけですからね」
「はっ、有り難き幸せ!」
「マユミにくっつかないで・・・」
喜々としてついて来るセルビウス・・・まるで犬のようだ。
それとは逆に、マユミを取られると思ったのか、ミーアは不機嫌そうだった。
「そういえば・・・あの子の容体はどうですか?」
マユミはもう一人の怪我人の事を思い出した、魔族に人質にされていた少女だ。
見た感じではミーアと変わらない年齢の少女だったはずだが・・・
「特にたいした怪我もなく、食欲もあって健康そのものだそうです、ただ・・・」
「ただ・・・?」
「なんと申しますか・・・その・・・この近くですので、お会いしてみてはいかがでしょう」
「そうなんだ・・・じゃあ行ってみようかな」
特にこれといった用事もないので、マユミは彼女がいるという診療所へ向かうことにした。
すると・・・
「おいしい!おいしいわこれ、おかわり!おかわりをはやく!」
「は、はぁ・・・」
診療所に似つかわしくない元気な声が響いていた・・・
マユミは、そこでもりもりと食事を平らげる少女、ミズキと遭遇するのだった。
「あ、あの子だ・・・」
「ん・・・あれは・・・!」
マユミとミズキ、二人の視線が合った。
急にミズキの表情が変わる・・・何やら怯えているような・・・
先程聞いた通り元気そうなので安心してマユミは声をかける。
「こんにちは」
「ええええ英雄様!ごごご機嫌うるわしう・・・」
「や、私そんな凄い人じゃないから、落ち着いて・・・ほら、深呼吸しよ、深呼吸」
「すーはーすーはー」
もはや有名人である英雄マユミを間近に見て緊張したようだ。
いささか申し訳なく思いながら、マユミは彼女を落ち着かせる。
「落ち着いたかな?私はマユミ、あなたの名前は?」
「・・・」
マユミのその質問にその少女は黙り込んでしまった。
(うわあああああああああああああ!)
ミズキはすっかりパニックを起こしていた。
(無事潜入成功って思った矢先になんで?なんでこの人が来てるの?まさか正体バレた?)
怪我人としてこの診療所に運び込まれた彼女は、この世界で初めての人間らしい暮らしを満喫していた。
石じゃないベッド、虫じゃない食事、水の魔術でもたらされたお風呂にトイレ、紙もある。
だがそんな幸せな暮らしは長くは続かないという事なのか。
「どうしたのかな?自分のお名前言えないのかな?」
彼女が思考停止している間も目の前の英雄・・・彼女の天敵は問うてくる・・・お前の名を名乗れと。
お前が魔王なんだろ?わかってるんだぞ?・・・彼女の頭にはそう変換された。
(ひぇぇぇえええええ)
・・・圧倒的な恐怖。
「た、たすけて・・・殺さないで・・・」
汗やら涙やらなんやら、全身から色々な液体が流れ出るのを感じた。
「・・・」
英雄はそんな彼女を無言で見つめている・・・どうやって始末しようかの算段でもしているのだろうか。
彼女の脳裏を走馬燈がよぎる。
・・・こんなことなら魔族の土地で密やかに暮らすべきだった。
・・・石のベッドでも我慢するべきだった、食べ物も虫で・・・それは嫌だな・・・
覚悟を決めて目を閉じる・・・せめて、せめて一撃で楽に死なせてくれと願いながら・・・
・・・そんな魔王ミズキを、英雄マユミは・・・
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