英雄じゃなくて声優です!

榛名

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第81話 月下の告白です

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魔王討伐に向けて、弓兵部隊の編制と魔術師の招集が行われることが決まった。
銀の騎士団は前衛として盾役を担う事になる。

「マユミ様も『力』が発現する可能性がありますので、後衛にて従軍願います」
「はい・・・ええと、それはミズキちゃんもですか?」
「彼女も異世界から来た、というのならマユミ様と共にご同行願いたいのですが・・・」

・・・視線がミズキに集まる。
傍目にはマユミ以上に幼い少女だ・・・辺境伯と言えど彼女を従軍させるのには抵抗があった。

「私はそれで構わないわ・・・最も、役には立たないと思うけどね・・・」

・・・どこか投げやりに答えるミズキ。
なにせ彼女は討伐しようという魔王本人なのだ。
どの道、戦場に行かないわけにはいかない・・・むしろ好都合と言えた。

「お二人には魔王・・・いえ、魔族の一体すら我々が近づけさせません、どうかご安心ください」

辺境伯が力強く二人に宣言する。
彼はミズキの態度を不安や絶望によるものと解釈したようだ。

「ありがとうございます」
「・・・ございます」
「ミズキちゃん?」

何か考え事をしているのか心ここにあらずといった様子で空返事を返すミズキ。
すぐ傍で心配そうに覗き込むマユミにも気付くのにも数秒の時間を弄した。

「ん・・・ああ、ちょっと疲れてるみたいだから先に休ませてもらうわ・・・あ、これ読んでね」
「うん・・・」

紙の束・・・彼女が書いた台本をマユミが受け取ると、ミズキは頼りない足取りで去っていく。

(これを書いたから疲れていたのかな・・・)

パラパラとめくって台本に軽く目を通す・・・インクの滲み具合から彼女の苦労が見て取れた。
エレスナーデも興味を引かれたのか、隣から台本を覗き込んだ。

「そういえば作家と言っていたわね・・・私も読んでいいかしら?」
「うん、後でミーアちゃんも一緒に三人で読もっか」
「ではマユミ様、我々も準備する事が増えましたので、この件は後日改めてということで、失礼します」
「あ、はい・・・よろしくお願いします」
「御意に・・・」

空気を読んだのか、辺境伯はセルビウスを引き連れ・・・マユミに一礼すると、玉座の間を後にした。
部屋には、マユミとエレスナーデの二人だけが残された。

「じゃあ、ミーアちゃんの部屋に行こう・・・ナーデ、つかまって」
「ありがとう」

マユミはエレスナーデの隣に立ち、彼女の体重を受け止める。
非力なマユミにとっては少々重たいが、しっかりと支えた。

「・・・こんな風にマユミに支えられるのは複雑な気分ね」
「ひ弱な小娘に支えられて歩くのはプライドが傷つく?恥ずかしい?」
「うん・・・少しだけ・・・でも悪くないわ」

以前のマユミと出会う前の自分なら、こんな風に他人を頼る事など出来なかっただろう。
どうにも非力なこの少女が、今はとても頼もしく感じられる。
マユミになら、自分の身を安心して任せることが出来る・・・その感覚が心地良かった。

「ナーデ・・・ごめん、ちょっと休んでいい?」
「あ・・・」

つい全力でマユミに寄りかかってしまっていた。
エレスナーデは慌てて自分の方に重心を寄せようとする・・・

「あ、いいの!ナーデはそのまま楽にしてて」
「でも・・・」
「私もナーデに頼られて、力になれて嬉しいから・・・これで良いんだよ」
「マユミ・・・」
「でも体力はもっとつけないとダメだね・・・私ももっと強ければナーデをひょいって運べるのになー」

それこそ勇者になった自分が、荷物を担ぐように軽々とエレスナーデを待ちあげる所を想像する。
しかしエレスナーデは、よりリアルに筋肉ムキムキになったマユミをイメージしたようだ。

「やめて、そんなマユミは見たくないわ!」
「そんなー」
「マユミは今のままで充分よ」
「そうかな・・・」
「そうよ、ずっとこのままがいいわ」
「や、それは・・・さすがにちょっと・・・」

二人は少しずつ、ゆっくりと移動したのだった。


・・・・・・


「やばいやばいやばい・・・どうしよう・・・」

自室に戻ったミズキはベッドの上で頭を抱えていた。
そのままベッドの上でごろごろと転がりながら、考えを纏めようとする。

・・・完全に油断していた。
まさかこんなにも早く魔王討伐なんて話になるなんて・・・
しかも英雄の力に頼るでもなく、魔王の持つ『力』への対策までしてきている。

お城での生活が快適過ぎて、ミズキは当初の目的を後回しにしていた。
なんだかんだ言ってマユミ達と過ごす時間は楽しかったのだ。
この世界でも作家として勝負出来ると燃えてもいた。
成功すれば、そのうち自分用に領地の一つも貰えるだろう・・・魔族達はそこに移住させればいい。

彼女は漠然とそんな風に考えていた・・・だがそれは悠長過ぎたのだ。

(だいたい魔族達は何も悪い事してないのに、急に討伐だなんて・・・)

そこで彼女は気付く・・・『している』のだ。
確かに魔族達は何もしてないかもしれない、だが魔王たるミズキは明確に『やっている』
帝都への奇襲・・・魔王による宣戦布告・・・充分過ぎる理由だった。

(くぅ・・・あの時の私が恨めしいわ)

過去に戻れたら自分をぶん殴っている所だ。

でもあの頃のミズキとしては、あれこそが最適解のつもりだった。
あのまま内側から人類の隙をついて『力』で攻撃し、侵略する気満々だったはずで・・・
魔王として転生したミズキにとって、人間など憎むべき敵に過ぎなかったはずで・・・

今だって最大出力でイビルレイを放てば街一つとまではいかないものの、半分くらいは吹き飛ばせる。
実際に撃ったわけではないが、彼女の『力』の感覚が、それくらいいけると言っている。
魔王討伐の軍勢など先手を取って吹き飛ばせばいいのだ。
だが今の彼女にはそれが出来ない、一方的な大量殺戮・・・その引き金を引く事なんて出来ない。

いったいどこで彼女は毒気を抜かれてしまったのか・・・やはりお城での贅沢な生活だろうか・・・
何にせよ、このままでは罪のない魔族達が彼女のせいで犠牲になってしまうだろう。
それはあまりにも理不尽だ・・・ミズキの大嫌いな理不尽だ。

『魔王様、第七の魔王ミズキ様!』

無邪気に自分を慕う魔族達の姿がミズキの脳裏に浮かんだ・・・

『ミズキ様の為に岩を削ってベッドをお作りしました』
『ううぅ・・・全身が痛くて寝れない・・・』
『お食事です、ミズキ様は一番大きい芋虫をどうぞ』
『ちょ、芋虫とか無理・・・』
『魔術でお身体を洗浄します、ささ、服をお脱がしします』
『や、やめなさいよ変態!』

・・・ろくな思い出がなかった。

「何よ・・・どいつもこいつも・・・馬鹿ばっかで・・・全然・・・使えなくて」

それでも・・・自分は・・・

ミズキの頬を、熱いものが流れ落ちた。


コンコン

「ミズキちゃん、起きてるかな?今みんなで台本を読んでいるんだけど・・・」

ドアをノックしたのはマユミだった。
台本の解釈について意見が分かれたので、作者のミズキに聞きに来たのだ。
・・・ミズキは乱暴に顔を拭うと、ドアを開けた。

「ちょうどよかったわマユミ様、今から二人きりで話せないかな?」
「ミズキちゃん?」
「出来れば誰にも聞かれないような・・・あの劇場が良いわ」
「いいけど・・・どうしたの?目が赤いよ?」
「・・・」

マユミの質問には答えず、ミズキはさっさと歩き始める。
よくわからないまま、マユミは黙ってついていった。

宵闇の大帝都劇場を満月が照らす・・・どこか幻想的な光景だった。
ミズキはステージの中央まで上がり、マユミの方へとゆっくり振り返る。

「思えば、全てはここからだったわね・・・」
「ミズキちゃん・・・」

こんな場所で思い出話でもするつもりだろうか・・・出来れば遠慮したい。
マユミは少し嫌そうな顔でミズキの言葉を待つ。

「マユミ様、私ね・・・ずっと隠していた事があるの・・・マユミ様をずっと騙していたのよ」
「ミズキちゃん・・・ダイアナ先生?何を言ってるの?」
「ある時は超絶美少女ミズキちゃん、またある時は天才作家水樹ダイアナ先生・・・」
「や、本当に何を言ってるのかわからないよ?ミズキちゃん?」

そこでマユミは気付く・・・ミズキは震えていた。
その一言がなかなか口から出せない・・・緊張した口から全然違うふざけた言葉が出てくる。

(しっかりしろ私、もう決めたんだ・・・)

ミズキは唇をきつく噛み締めた・・・鉄の味が口の中に広がる。

「その正体はっ!・・・だ・・・だ・・・」

声が上手く出てくれない・・・息がうまく出来ない・・・つらい。

(やっぱり、声優ってすごいな・・・)

声優というのは、こんな緊張感の中でも声を出して演じるのだろうか・・・いや、出していた。
あの時、この場所に立った彼女のよく通る声に・・・本物の英雄だと思い、ミズキは恐れたのだ。
目の前に立つ人物・・・その声優のマユミをミズキはしっかりと見つめた。

マユミは、声をろくに出せずに苦しみもがく彼女を滑稽と笑うこともなく・・・
真剣な顔で、次の言葉を待っていた。
そんな彼女を見ていると・・・なぜか少しだけ、喉が楽になったような気がした。

ミズキは今一度深く呼吸をすると、言おうとしていた言葉をようやく口にする。

「第七の魔王、ミズキ!・・・それが私の正体よ」
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