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第23話 お肉が欲しいです
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その日のマユミは、いつもよりも早く目覚めた。
いつもよりも、と言ってもまだこの世界に来てから6日目ではあるが・・・
(そういえば、あっちではいつもこれくらいの時間に起きていたっけ・・・)
登り始めた朝日を眺めながら、マユミは現実世界での暮らしを思い出す・・・あの頃は気付かなかったが今の自分ならよくわかる・・・
無理に無理を重ねた生活でどれだけ自分の身体が消耗していたか・・・今は身体がすごく軽い、ずいぶんと健康的になったものだ。
マユミは枕元に置いた竪琴、そして自分の指を交互に見た・・・
指の傷は思ったより浅かったようで、今はもう痛みはない。
(大丈夫だとは思うけど・・・だいぶ気を遣ってくれてたからなぁ・・・今日はやめておこう)
下手をしたら傷跡が残る・・・そんなことを言っていたヴィーゲルの様子を思い出し、今日は師匠の顔を立てることにする。
では代わりに何をしようか・・・しばし考えたマユミは、今の自分の課題の一つを思い出した。
・・・・・・
・・・
執事ジーブスの朝は早い。
この屋敷で働く者達を取り仕切っているのだから、それは当然と言えた。
まずは料理人と話して朝食の献立を決める・・・本来は昼食分もこの時に決めてしまうのだが、最近はお嬢様方が外出先で昼食をとる事が増えてきたので、臨機応変な対応が求められていた。
続いて使用人達を集め、今日の仕事を割り振る・・・使用人と言っても皆それなりの家柄の子息達だ、教育は行き届いているので安心して仕事を任せられた。
マユミが来てからエレスナーデの性格が徐々に丸くなってきた事を鑑みて、ジーブスはそろそろメイドを雇い入れようかとも考えていた・・・やはり女性にしか気付きにくい事というのはあるのだ。
マユミとのやり取りを見ていて気付いたのだが、エレスナーデはおそらく年下に甘い・・・下手に知恵の回る大人よりも子供を一人、見習いとして入れてみるのが良さそうだ。
そんな事を考えつつ彼は次に庭の様子を見に行く事にした、庭師を呼ぶ頃合いを見図るのだ。
・・・だがそこで彼は、妙なものを目撃する事になった。
「あれは・・・マユミ様?」
少女が一人、庭を駆け回っていた・・・マユミだ。
だが問題はそこではない、彼女の出で立ちだ・・・ぼろ布で作られた・・・服と呼ぶにはおこがましいそれは、いつぞやのシンデレラの時の貧民服だった。
(ううぅ・・・もうダメ・・・)
マユミは早くもバテていた。
今の自分の体力のなさをどうにかしようとトレーニングを始めたのだが・・・
まずは軽くランニング、続いて全身の柔軟、腹筋、腕立て伏せ、スクワット・・・そんなメニューを、考えていた。
しかし現在、ランニングの段階でもう身体が悲鳴を上げている・・・どうやら昔の自分の感覚で飛ばし過ぎたらしい。
マユミは庭に倒れこむと、ぜぇぜぇと苦しそうに呼吸していた。
「マユミ様!」
その様子を見たジーブスが駆け寄ろうとする・・・救助が必要と考えたのだ。
だが彼が駆け寄ろうとした次の瞬間、倒れたままのマユミは突然、大きな声を出した。
「あ、え、い、う、え、お、あ、お」
それはただの発声練習・・・筋トレを諦めたマユミの方針転換なのだが、そんなことはジーブスにわかるわけもない。
倒れたまま奇声を発し続けるマユミを前に、すっかり固まってしまった。
(これは・・・まさか、悪魔憑き?)
良家の子息の中には時折、人が変わったように性格が豹変したり、奇異な行動を取り始める者がいる・・・そんな話を聞いたことがあった。
かつてこの大陸を支配したという魔王やその配下達の怨念が無垢な子供の身体に憑りついている・・・という話だが、実物を見たのは長い執事生活の中でもこれが初めてだった。
「マユミ様、どうか気をしっかりお持ちください!怨念などに屈してはなりません」
大事な客人を怨念から救うべく、ジーブスはマユミに語りかける・・・しかし・・・
「ふぇ?」
返ってきたのはずいぶんと間抜けな・・・自分が誰かに見られているなどと思ってもみなかったマユミの声であった。
「ししし執事さん?!・・・ここ、これは別にそういうのじゃなくてですね・・・異世界式の鍛錬とでも言いましょうかその・・・」
動揺してしどろもどろになるマユミ・・・自分でも何を言っているのかよくわからなかった。
「は、はぁ・・・さようでございますか・・・」
「だから大丈夫なんです、私は大丈夫ですからそんな目でみないでー」
気付けばマユミの周囲には、いったい何事かと使用人たちが集まって来ていた。
「大丈夫ですからね、私は頭のおかしい子じゃないですからね!」
・・・トレーニングする時は周りをよく見てやろう・・・そう心に決めるマユミ。
その後、自らの潔白?のために、マユミは声優式の発声練習というものをしっかりと解説するのだった。
「・・・ですから、仰向けに寝転がってこの発声練習をやるのは効果的なんです」
「なるほど・・・確かに効果的ですな」
まがりなりにもプロであるマユミから理にかなった説明を受け、使用人の新人教育の一環として採用してみるのも良いかと思ったジーブスであった。
「マユミがまた何か変なことを始めたみたいね・・・」
騒ぎを遠目に見ていたエレスナーデだったが、マユミが何事もなさそうに解説を始めたあたりで踵を返していた。
向かった先は浴室だ、あの様子ではマユミを入浴させる必要があるのは明白だ。
・・・この侯爵領は水源の豊富さに加えて水の魔術を扱える者が多い。
それ故か水回りの技術がとても発達していた、貴族の屋敷ともなれば浴室完備は当たり前なのだ。
エレスナーデは魔術で浴槽にお湯を注ぐ・・・先に水を出して温める派と直接お湯を出す派がいるらしいが、彼女は後者だった。
お風呂の用意が出来たので、マユミを迎えに行くことにする。
この国では毎日入浴する人間というのはそうそういないのだが、マユミは風呂好きらしいので二人は毎日入浴していた。
(きっとお風呂のない国ではマユミは生きていけないわね)
案の定、お風呂の用意をしたと伝えたら、マユミは喜んでついてきた。
「ありがとう、これじゃどっちがお嬢様かわからないね」
「気にしなくていいわ、あなたが汚れたままじゃ私も困るもの」
エレスナーデが海綿を用いてマユミの身体を洗う・・・少々くすぐったいが、マユミもそろそろ慣れてきたようだ。
彼女に身を委ね、なすがまま身体を洗うに任せているマユミ・・・こうしているとつくづく自分の身体の貧相さが気になった。
余計な肉が一切ないと言えば聞こえが良いが、必要な肉も足りてない。
スタイル抜群、出るところはしっかり出ているエレスナーデと比べればその差が際立った。
「もっと肉をつけたいな・・・」
「あなた身体を鍛えて戦士にでもなるつもり?」
つい口を出たマユミの呟きに妙な返事が返ってくる・・・先程のトレーニングのせいだろうか。
(たしかに筋肉もほしいけど・・・けど・・・)
「今私が欲しいのはこの肉だぁ!」
「ちょっと、暴れないで」
・・・エレスナーデのその柔らかな肉が羨ましいマユミだった。
いつもよりも、と言ってもまだこの世界に来てから6日目ではあるが・・・
(そういえば、あっちではいつもこれくらいの時間に起きていたっけ・・・)
登り始めた朝日を眺めながら、マユミは現実世界での暮らしを思い出す・・・あの頃は気付かなかったが今の自分ならよくわかる・・・
無理に無理を重ねた生活でどれだけ自分の身体が消耗していたか・・・今は身体がすごく軽い、ずいぶんと健康的になったものだ。
マユミは枕元に置いた竪琴、そして自分の指を交互に見た・・・
指の傷は思ったより浅かったようで、今はもう痛みはない。
(大丈夫だとは思うけど・・・だいぶ気を遣ってくれてたからなぁ・・・今日はやめておこう)
下手をしたら傷跡が残る・・・そんなことを言っていたヴィーゲルの様子を思い出し、今日は師匠の顔を立てることにする。
では代わりに何をしようか・・・しばし考えたマユミは、今の自分の課題の一つを思い出した。
・・・・・・
・・・
執事ジーブスの朝は早い。
この屋敷で働く者達を取り仕切っているのだから、それは当然と言えた。
まずは料理人と話して朝食の献立を決める・・・本来は昼食分もこの時に決めてしまうのだが、最近はお嬢様方が外出先で昼食をとる事が増えてきたので、臨機応変な対応が求められていた。
続いて使用人達を集め、今日の仕事を割り振る・・・使用人と言っても皆それなりの家柄の子息達だ、教育は行き届いているので安心して仕事を任せられた。
マユミが来てからエレスナーデの性格が徐々に丸くなってきた事を鑑みて、ジーブスはそろそろメイドを雇い入れようかとも考えていた・・・やはり女性にしか気付きにくい事というのはあるのだ。
マユミとのやり取りを見ていて気付いたのだが、エレスナーデはおそらく年下に甘い・・・下手に知恵の回る大人よりも子供を一人、見習いとして入れてみるのが良さそうだ。
そんな事を考えつつ彼は次に庭の様子を見に行く事にした、庭師を呼ぶ頃合いを見図るのだ。
・・・だがそこで彼は、妙なものを目撃する事になった。
「あれは・・・マユミ様?」
少女が一人、庭を駆け回っていた・・・マユミだ。
だが問題はそこではない、彼女の出で立ちだ・・・ぼろ布で作られた・・・服と呼ぶにはおこがましいそれは、いつぞやのシンデレラの時の貧民服だった。
(ううぅ・・・もうダメ・・・)
マユミは早くもバテていた。
今の自分の体力のなさをどうにかしようとトレーニングを始めたのだが・・・
まずは軽くランニング、続いて全身の柔軟、腹筋、腕立て伏せ、スクワット・・・そんなメニューを、考えていた。
しかし現在、ランニングの段階でもう身体が悲鳴を上げている・・・どうやら昔の自分の感覚で飛ばし過ぎたらしい。
マユミは庭に倒れこむと、ぜぇぜぇと苦しそうに呼吸していた。
「マユミ様!」
その様子を見たジーブスが駆け寄ろうとする・・・救助が必要と考えたのだ。
だが彼が駆け寄ろうとした次の瞬間、倒れたままのマユミは突然、大きな声を出した。
「あ、え、い、う、え、お、あ、お」
それはただの発声練習・・・筋トレを諦めたマユミの方針転換なのだが、そんなことはジーブスにわかるわけもない。
倒れたまま奇声を発し続けるマユミを前に、すっかり固まってしまった。
(これは・・・まさか、悪魔憑き?)
良家の子息の中には時折、人が変わったように性格が豹変したり、奇異な行動を取り始める者がいる・・・そんな話を聞いたことがあった。
かつてこの大陸を支配したという魔王やその配下達の怨念が無垢な子供の身体に憑りついている・・・という話だが、実物を見たのは長い執事生活の中でもこれが初めてだった。
「マユミ様、どうか気をしっかりお持ちください!怨念などに屈してはなりません」
大事な客人を怨念から救うべく、ジーブスはマユミに語りかける・・・しかし・・・
「ふぇ?」
返ってきたのはずいぶんと間抜けな・・・自分が誰かに見られているなどと思ってもみなかったマユミの声であった。
「ししし執事さん?!・・・ここ、これは別にそういうのじゃなくてですね・・・異世界式の鍛錬とでも言いましょうかその・・・」
動揺してしどろもどろになるマユミ・・・自分でも何を言っているのかよくわからなかった。
「は、はぁ・・・さようでございますか・・・」
「だから大丈夫なんです、私は大丈夫ですからそんな目でみないでー」
気付けばマユミの周囲には、いったい何事かと使用人たちが集まって来ていた。
「大丈夫ですからね、私は頭のおかしい子じゃないですからね!」
・・・トレーニングする時は周りをよく見てやろう・・・そう心に決めるマユミ。
その後、自らの潔白?のために、マユミは声優式の発声練習というものをしっかりと解説するのだった。
「・・・ですから、仰向けに寝転がってこの発声練習をやるのは効果的なんです」
「なるほど・・・確かに効果的ですな」
まがりなりにもプロであるマユミから理にかなった説明を受け、使用人の新人教育の一環として採用してみるのも良いかと思ったジーブスであった。
「マユミがまた何か変なことを始めたみたいね・・・」
騒ぎを遠目に見ていたエレスナーデだったが、マユミが何事もなさそうに解説を始めたあたりで踵を返していた。
向かった先は浴室だ、あの様子ではマユミを入浴させる必要があるのは明白だ。
・・・この侯爵領は水源の豊富さに加えて水の魔術を扱える者が多い。
それ故か水回りの技術がとても発達していた、貴族の屋敷ともなれば浴室完備は当たり前なのだ。
エレスナーデは魔術で浴槽にお湯を注ぐ・・・先に水を出して温める派と直接お湯を出す派がいるらしいが、彼女は後者だった。
お風呂の用意が出来たので、マユミを迎えに行くことにする。
この国では毎日入浴する人間というのはそうそういないのだが、マユミは風呂好きらしいので二人は毎日入浴していた。
(きっとお風呂のない国ではマユミは生きていけないわね)
案の定、お風呂の用意をしたと伝えたら、マユミは喜んでついてきた。
「ありがとう、これじゃどっちがお嬢様かわからないね」
「気にしなくていいわ、あなたが汚れたままじゃ私も困るもの」
エレスナーデが海綿を用いてマユミの身体を洗う・・・少々くすぐったいが、マユミもそろそろ慣れてきたようだ。
彼女に身を委ね、なすがまま身体を洗うに任せているマユミ・・・こうしているとつくづく自分の身体の貧相さが気になった。
余計な肉が一切ないと言えば聞こえが良いが、必要な肉も足りてない。
スタイル抜群、出るところはしっかり出ているエレスナーデと比べればその差が際立った。
「もっと肉をつけたいな・・・」
「あなた身体を鍛えて戦士にでもなるつもり?」
つい口を出たマユミの呟きに妙な返事が返ってくる・・・先程のトレーニングのせいだろうか。
(たしかに筋肉もほしいけど・・・けど・・・)
「今私が欲しいのはこの肉だぁ!」
「ちょっと、暴れないで」
・・・エレスナーデのその柔らかな肉が羨ましいマユミだった。
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