英雄じゃなくて声優です!

榛名

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第25話 捕らわれの少女です

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グリュモール侯爵家は騒然としていた。
マユミが消息を絶ったのだ・・・マユミがなかなか戻らないので、迎えの馬車の御者が「女神の酒樽亭」まで様子を見に来て事件が発覚したのだ。

(やはり、マユミを一人にすべきではなかった)

マユミは自分に護衛がつくことを嫌っていたし、あの店の人間達ならマユミに危害を加える事はないだろうという信頼感はあっての事だったが、こうなってしまってはもう後悔しかない。
店の者達からの話ではマユミはとっくに帰ったものと思われていたらしい・・・マユミが店を出て馬車を停めてある広場まで行くわずかな時間を狙った犯行だと思われる。

「今すぐ街の門を封鎖しなさい!ゲオルグは急いで捜索隊の編成を!手の空いている者はあの店の周辺で目撃者がいないか探すのよ!」

侯爵が何か言うよりも早く、エレスナーデが次々と指示を出す・・・

「旦那様、お嬢様の指示は的確かと存じます、ここはお嬢様にお任せした方がよろしいかと・・・」
「う・・・うむ、エレスナーデ、マユミ殿の捜索に関してお前に全権を委ねよう・・・」
「お父様・・・ありがとうございます」

マユミのおかげで最近は親子関係が改善しつつある・・・こんな所で娘に嫌われたくない父であった。

「私は船着き場に向かいます、馬車を出しなさい」

もしも川から船で連れ去られていたら・・・最悪の事態の可能性を払拭するべく彼女は急いだ。

・・・・・・




マユミが目を覚ますと、そこはベッドの上だった・・・エレスナーデのベッド程ではないものの、なかなか高級品だ、低反発な素材がマユミの体重をやさしく受け止めている。
しかし少々肌寒い、今自分を包んでいるのは肌触りは良いが薄い布が一枚だけのようだ・・・おふとんが足りない・・・手探りではそれらしき物は掴めなかった。

しばらく手足を使ってふとん探しを続けた後・・・さすがに観念してマユミは起きる事にした・・・うっすらと目を開け・・・そこで自分の置かれている状況をようやく認識する。

「あれ・・・ここはどこ?それに私なんでこんな・・・」

今のマユミは全裸の上に薄布が一枚という恰好だった・・・どうりで肌寒いわけだ。

「おや、お目覚めかな・・・異世界の美少女マユミちゃん」

・・・声がした方に振り向くとそこには、奇妙な服装の人物・・・そういえば記憶にある・・・女神の酒樽亭を出たマユミにつきまとってきた人物だ。

「あなたは・・・」
「おっと自己紹介がまだだったね、ボクの名前はパンプル・ムゥス・・・以後よしなに頼むよ」
「あなたが私をここに?」
「うん、いや~マユミちゃんは軽くて助かったよ、出来るだけ丁寧に扱ったつもりだけど、どこか怪我したりしてないかい?」

特に身体に痛みはなかった・・・丁寧に扱ったというその言葉に嘘はないようだ。

「私の着ていた服はどこ?ちょっと寒いんだけど・・・あと楽器は?」
「ああ、それは申し訳ないことをしたね、後で毛布と暖かい食事を用意しよう・・・残念だけど服と楽器はしばらく預からせてもらうよ」
「かえしてくれる気はあるんだ・・・」

・・・返してと帰して、二重の意味で問う、果たして・・・その返答は・・・

「うん、それは約束するよ、絶望した君に自殺でもされたらこの世界の損失だからね」
「や、そんなことないと思うけど・・・」

また異世界の英雄とかそういうこと考えてる人なのだろうか・・・でもそれで助かるなら今回は良しとするマユミだった。

「それで私は・・・何かポーズの一つもとった方が良いのかな?」

周囲に散らばった素描と思しき紙、立て掛けられたキャンバス、そして何より目の前の人物・・・パンプル・ムゥスの手に握られた絵筆が雄弁に物語っていた。
マユミは絵のモデルとしてここに連れ去られて来たのだと・・・

「ははっ、面白い!こんな反応が返ってきたのは君が初めてだよ」
「や、こんな風に拉致られたら普通は怯えて反応とか出来ないでしょ・・・」

そう言った後に、その理屈だとやはり自分は普通じゃないのかと気付くマユミ。

(やっぱり危機感が足りないのかな・・・)

「普段ならこんな事はしないさ、ただこの街にはちょっと面倒な知り合いがいてね・・・出来れば彼女に遭遇することなく済ませたい」

・・・なぜか、エレスナーデの顔が脳裏によぎった。

(まさか・・・ね・・・)

さすがにそんな偶然はないだろうとその考えを振り払う。

「それで、ポーズというのはどんなものがあるんだい?」
「え、ええと・・・」

自分で言いだした事とはいえ・・・マユミはそういう事に詳しくなかった。
養成所時代に一度コスプレをしたことがあるくらいだ。
仕方がないのでマユミはグラビアアイドルがよくやるあのポーズをしてみることにした。

(でも下手に動くとこれ取れちゃうかも・・・)

身体に巻き付けただけの薄布を気にしながら、四つん這いになる。
いわゆる女豹のポーズと呼ばれるやつだ・・・案の定、薄布が外れそうで怖かった。

「その姿勢は猫か!なんて愛らしいんだ」
「え・・・」

興奮したように紙に素描を始めるパンプル・・・
女豹と言うには、マユミは色気が足りなかったようだ。

マユミはしばらくその姿勢のまま、周囲に散らばる紙・・・素描を眺める。
もちろんそのどれにもマユミが描かれている・・・上手い、そして枚数が多い。
いったい何枚あるのか・・・見ただけではとても数えきれない。

(こんなに枚数描ける人がいるなら、こっちでアニメとか作れないかな・・・)

マユミは声優として、そんな願望を抱かずにはいられなかった。
その後も、おそるべき速度で描き続けるパンプルに合わせて思いつく限りのポーズをするマユミ・・・だんだん適当なポーズになってくるが、パンプルは文句を言うこともなく、ひたすら描き続けていた。

「あの・・・パンプルさん?」
「パンプルで構わないさ」

一枚描き上げてはその辺に放り、次の素描を始める・・・マユミに応えながらもパンプルの手は止まる事がない。

「パンプルはいつもこういう絵を描いてるの?」
「ああ、美しい少女達の姿を美しく描くのがボクの至上の喜びなのだよ」
「風景画とかは?ほら湖とか川とか・・・」
「ああ、少女達が水浴びをする風景は美しいな、今度描こう・・・素晴らしい発想だよマユミちゃん」
「・・・」

(自分の好きな絵しか描かないタイプだこの人)

おそらく、描く能力はあるが興味なしといったところか・・・それで画家をやっていけるというのだからやはり相当な腕があるのだろうか・・・

(でも逆に言えば興味さえ持たせられれば・・・)

・・・かくして、マユミは一計を案じた。
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