英雄じゃなくて声優です!

榛名

文字の大きさ
49 / 90

第49話 ぷりてぃできゅあきゅあです

しおりを挟む
都内某所の録音スタジオ・・・その控室でマユミは先輩の声優に囲まれながら座っていた。

ブースにはマイクスタンドが4本、蜘蛛を思わせる形をした衝撃吸収用のサスペンションに仰々しく設置され存在感を放っている。
『sm』と刻印がされたそれらのマイクは一本が数十万円もする高性能なマイクだ・・・さすがヒット曲のレコーディングも行わる本格的なスタジオである。
今日は大人気アニメ『プリティキュアーズ』のレコーディングがここで行われる・・・マユミはその主役とも言うべき白キュア役であった。

「おはようございます!」

予期せぬ人物のスタジオ入りに、マユミは慌てて席から立ち上がって挨拶をする。
新たに控室に入ってきたその人物は、マユミもよく知るベテラン声優のK氏・・・今や大御所と呼ばれ存在だ。
全力で挨拶したマユミの声に勝るとも劣らない声量で挨拶が返ってくる。

「おはようございます!君、なかなか良い声だね」
「あ、ありがとうございます!」

かつてはヒーローの役を多くこなしてきたK氏だ、これまでにマイクを何本壊してきたと言われるその声量には定評がある。
しかし今や彼のギャラは簡単に起用出来る額ではなくなっている・・・今回限りのゲストキャラとしての友情出演だった。

「君の声量なら僕もがんばって声を出してみようかな、今日はよろしくお願いします」
「きょ、恐縮です、よよよろしくおねがいします!」

マユミはすっかり緊張しきっていた・・・なにしろ憧れの大先輩との共演だ、無理もない。

「マスミ、硬くなってる・・・落ち着いて・・・」
「大丈夫ダヨ、リラックス、シテルヨ」
「全然リラックス出来てない・・・よ?」

この作品におけるマユミの相方、黒キュア役は金髪の少女だ、最近増えてきた外国人の声優である。
必死に日本語を勉強したのだろう、日本語がとても綺麗だった。
一方、マユミは片言になっていて、これではどちらが外国人かわからない。

「そろそろテスト始めます、皆さんよろしくお願いします」

音響助手・・・アフレコにおけるAD的立ち位置の人物が収録の開始を告げる。
主役であるマユミ達は最初に指定されたマイク前に立つ・・・この作品ではマイクを占有出来るので、芝居に集中出来て助かっていた。

テストではまず声優陣が各々、台本から読み取って解釈した芝居を演じる、それを聞いて音響監督や演出が指示を出す流れだ・・・台本の解釈の違いを修正したり各人の演技のバランスを整えるのだ。
特に今回はK氏の演じる敵キャラとの戦闘シーンでの声量差が危ぶまれたが、マユミはなんとか食いついていけるだろうと判断されたようで、K氏に対して声を抑えるような指示はなかった。

そして一通りの指示が終わると、本テスが始まる・・・ここからは音声の録音が始まるのだ。
テストという事にはなっているが、本番と変わらない。


プリティキュアーズ 第15話『熱血教師の悩み』

「皆さん初めまして、教育実習でこの学校に来ました森川です、短い間ですが皆さんとたくさんの事を学んでいこうと思います、よろしくお願いします!」

主人公たちの通う学校にやって来た教育実習生、森川・・・新人教師として情熱に燃える彼だが、初めて味わう教育の現場はなかなか大変なようで・・・

「森川先生っていくつなんですか?」
「どこに住んでるんですか?」
「彼女いますか?」
「ええと21歳、D市から通ってるんだ、彼女は残念ながらいないね」

さっそく生徒たちの質問攻めにあう彼だが、その一つ一つにしっかりと答えている。
まっすぐに生徒たちに向き合う良い教師といった感じで主人公達とも打ち解けていく、だが・・・

「森川先生、生徒の相手もいいですが・・・あまりくだけた言葉遣いはしないでください、教師は生徒達の模範にならないといけないですから」
「あ・・・はい・・・すいません」
「授業のレポートもまだ全然書けてないみたいですけど、急いでくださいね、今日の分の提出は明日の朝までですが・・・チェックさせられるこっちの身にもなってくださいね」
「は、はい急ぎます」

放課後の職員室に一人残されレポートを書く森川だが・・・

「先生、ちょっといいですか?」
「教科書のここがわからないんですけど・・・」
「みゆきちゃんが転んでひざ擦りむいちゃって・・・」

生徒達の対応に追われる森川・・・赴任したばかりで学校のこともよくわからない中、真面目な彼はそれでも一生懸命生徒達の面倒を見るが・・・

「あれ森川先生?まだいたんですか?」
「はい、まだやることがあって・・」
「そうですか・・・ここの鍵を渡しておくので、戸締りお願いしますね」
「はい・・・」

夜遅くまで残ってレポートを書き上げる森川、しかし翌朝・・・

「何ですかこれ?」
「授業のレポートですけど・・・」
「生徒の誰々がこの科目が得意だとか苦手だとか・・・そんな事ばかり書いてどうするんですか?もっと授業全体についてをですね・・・」
「はい・・・気をつけます」
「後で書き直してくださいね、このままじゃ上に出せないんで・・・今日の分も忘れずにお願いします」
「はい・・・」

(僕は・・・こんな事をするために教師になったんじゃ・・・)

過酷な労働環境、生徒の個性よりも授業効率優先の担当教員との価値観の違い・・・心身共に衰弱していく森川だった。


「森川先生・・・顔色悪いけど大丈夫かな・・・」
「私達で何か元気が出るような・・・そうだ、先生の歓迎会をしようよ」
「それいい!みんなでやろうよ!」

森川を元気づけようとあれこれ考える主人公達・・・そこへ・・・

「フフフ・・・抑圧された心の闇を感じるわ・・・さぁ我が下僕となりなさい・・・」
「な、何だあんたは?!うわぁああああ!」

・・・敵の幹部によって森川は醜い化け物と化すのであった。

「暴れなさい、モラハラー!」
「モォーラハラー!」

「先生がモラハラーに?!」
「なんてことするのよ、絶対許さない!」

変身してモラハラーと戦うキュアーズ達。

「モラッモラッ!モラモラモラモラモラモラモラモラモラッ!」
「くっ・・・強い・・・」
「にっくき白キュアも今日で見納めかしら?さぁ潰してしまいなさい!」
「モッラー!」

化け物モラハラーとなった人物は文字通り「モラハラー」としか喋れないのだが、ベテラン声優K氏はその言葉だけでうまく表現してくる、その声の迫力が、マユミに重くのしかかった・・・

「う・・・あぁぁ・・・」

(・・・まるで演じてる私まで押しつぶされそうに重い・・・重い?)

本当に身体が重い・・・まるで何かがマユミの身体にのしかかっているかのような・・・

・・・そして、マユミは目を覚ました。

「あ、あれ・・・」
「おはよう、マユミ」

ここは伯爵の城・・・新たに加わったミーアの為に用意された部屋。
ベッドに横たわるマユミの上には金髪の外国人声優・・・ではなく、半妖精のミーアが覆いかぶさっていた。

「ミーアちゃん・・・そろそろ起きよっか?」
「うん!」

元気よく飛び起きるミーア・・・傷はだいぶ良くなっているようだ。
対してずっとミーアに乗っかられていたのか、マユミの身体には疲労が残っていた。
すっかりマユミに懐いてしまったミーアがマユミと一緒に寝たがるので、添い寝をしてあげているのだが・・・彼女にはなるべく早く一人で寝られるようになってもらわねば、マユミの身が持ちそうにない。

ミーアはマユミの朝の練習にもついて来る。
最近はミーアも一緒に発声練習をするようになっていた。

「そろそろミーアちゃんと一緒にやる題材も探さないと・・・バートさん、何か良い話ありませんか?」
「すいません、私はもうネタ切れです」

また海の乙女のような話が出てくるのを期待したが、さすがに無茶振りだったようだ。
やはり自力で探すしかないだろう。

「後で本屋さんを探してみようか・・・」
「うん、私も手伝う」
「ありがとうミーアちゃん、頼りにしてるよ」

そう言ってミーアの頭を撫でるマユミ・・・彼女の髪質は柔らかく、撫で心地が良かった。
ミーアも撫でられるのが嬉しそうだ。

その日マユミは『海猫亭』と『エプレ』で仕事した後、新市街で小さな本屋を見つける。
この国は植物性の紙が普及しているおかげか、一般人でも手が届く値段で本が買えるようだった。

「ミーアちゃん、あんまり話が長いのはダメだからね」
「うん、わかった」
「マユミ、私たちは手伝わなくていいの?」
「うんごめん・・・私たちの仕事用だから私たちで見つけたいんだ」

エレスナーデ達も協力を申し出てくれたのだがマユミは丁重にお断りする。
今回は演じる役者側の感覚で探した方が良いと判断したのだ。
あまり待たせるのも悪いので、さっさと見つけてしまおう・・・
店の本棚からちょうど良さそうな厚みの本に狙いをつけて、いくつか目を通す・・・

『二人の歌姫』『仔猫マヤンの冒険』『ウッズの旅』『梟亭奇譚』etc・・・

せっかくなので買える範囲の金額で何冊か買い漁る事にした。
この中のどれか一つでも当たりがあればいい・・・
侯爵領に戻るまでには全部読み終える事が出来るだろう。

「そうだナーデ、ミーアちゃんの身体だけど、そろそろ大丈夫みたい」
「そうね・・・そろそろ帰りの用意を始めるわ」

来た時は船で川を下ったが、帰りは馬車で陸路を行くことになるらしい。
・・・船酔いを心配しなくて済むのでほっとしたマユミだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

処理中です...