50 / 90
第50話 港町にお別れです
しおりを挟む
侯爵領への帰還・・・
馬車や護衛の手配などの準備はエレスナーデに任せ、マユミはマユミで動き回ることにした。
まずは診療所だ、ミーアの傷はしっかり回復したか・・・医者の判断を仰がなければならない。
「ふむ・・・ここ数日の彼女を見ていて特におかしな様子もなかったのですね?」
「はい、私にはもうすっかり元気になったように見えます」
すっかり塞がったミーアの傷口を触診しながら、医者はマユミからミーアの様子を聞き出す。
・・・日々の食事量や排泄など細かい質問が続いた後、医者は深く頷いた。
「さすがに完治・・・と言うにはまだ早いですが、もう大丈夫でしょう」
「それは旅に出しても良いってことですか?」
「ええ、ですが無理はさせないようにお願いします、痕が残ってしまいますからね」
「わかりました・・・私達はもうすぐ出立すると思います、それで治療費の方を・・・」
「そうですね、銀貨で20枚になりますが・・・」
「はい、大丈夫です」
数日の入院とこれまでの通院を思えばかなり良心的な価格だ、まけてくれたのだろうか・・・
おかげでマユミの稼ぎでなんとか払うことが出来た。
「ありがとうございました!」
「・・・ありがとうございました」
マユミの真似をするようにミーアも医者に頭を下げた。
「こうして見ると本当に姉妹のようですね・・・どうかお大事に」
医者は満足そうな表情を浮かべ、二人を見送っていた。
・・・・・・
マユミ達が次にやって来たのは『海猫亭』だ。
入り口で迎える木彫りの海猫もこれで見納めかと思うと感慨深い。
「そうか、お嬢ちゃんがいなくなると少し寂しくなるな・・・」
「良かったらあの絨毯はこのまま使ってください」
「そいつはすまねえな、じゃあ俺からは・・・こいつを持っていきな」
「これは・・・眠り猫?」
バクストンが手渡したのは、手のひらサイズの木彫りの海猫・・・
港で日向ぼっこしながら気持ちよさそうに眠っている姿を模して彼が彫った物だった。
・・・どことなく日本の名所を思い出す姿だった。
「なかなか可愛いだろう?この街の土産に良いかと思ってな」
「ありがとうございます、大事にしますね」
「もしヴィーゲルのやつがまたここに来たらちゃんと伝えておいてやるよ、お前の可愛い弟子はしっかりやってるってな」
「あはは・・・あんまり大げさな事は言わないでくださいね」
・・・・・・
バクストンに別れを告げ、最後に訪れるのは『エプレ』だ。
いつも通り元気に出迎えるエプレに、マユミが別れを告げる・・・
「そっかぁ・・・出来ればずっと居てほしかったけど、仕方ないわね」
「このお店にももっと貢献出来たらよかったんだけど・・・」
「お店の事なら大丈夫、またお父さんと二人で守っていくわ・・・ああそうだ、お父さん」
何事か思いついたようにエプレが厨房の方へ駆けていく・・・
エウロンと共に戻ってきた彼女はマユミに瓶を一つ差し出した。
「これは?」
「うちで使ってる特製ジャムよ、お土産に持ってって」
「いいの?ありがとう」
「君達にはずいぶんと助けられたからね・・・一つと言わず3つ4つ持って行ってくれても良いんだが・・・」
「いやいや、充分ですよ、大事にいただきますね」
マユミ達のそんなやり取りは客席の常連客にも聞こえていた。
「なんだ、マユミちゃんは今日で最後かい?」
「あ、はい・・・侯爵領の方に帰る事になりまして・・・」
「じゃあ最後に一曲頼むよ」
「ええと・・・まぁいっか、じゃあ店長さん、ちょっと歌いますね」
「じゃあ最後くらいは僕達もゆっくり聞かせてもらおうかな・・・」
そう言ってエウロンは店先の看板を畳む・・・今だけは臨時休業だ。
「さぁエプレも座りなさい」
「ふふっちゃんと聞くのは初めてだから楽しみね」
「うわ・・・緊張するなー」
「でもマユミ、楽しそうな顔してる」
「えへへ・・・まぁね、じゃあ始めます」
はにかみながらマユミは手袋を外す・・・これがこの街での最後の仕事だ、全力を尽くそう。
ポロロン・・・マユミの指が弦を弾く・・・そして物語を語り始めるのだった。
・・・・・・
・・・
「・・・ありがとうございました」
語り終えたマユミに拍手が応える・・・エウロンとエプレと居合わせた常連客だけの贅沢な時間。
マユミの最後の仕事が今、終わりを告げたのだった。
「面白かったよ、マユミちゃん」
「お客さんが殺到するのも納得ね・・・これで最後なのが本当に残念だわ」
「う・・・ごめんなさい」
二人が楽しんでくれたのがわかるだけに、申し訳なくなるマユミだった。
「マユミちゃん、どうかお元気で・・・また会える日が来るのを祈ってるよ」
「はい、そのうちまた来ますね」
「絶対また来てね、きっとその頃にはお店ももっと立派になってるから!」
「うん、またね」
マユミ達を見送った後・・・二人は入り口の看板を元に戻す・・・ここからは通常営業だ。
感傷に浸っている場合ではない・・・早くも新しい客が店にやって来た。
「いらっしゃいませ!」
「相変わらず元気そうだね、エプレちゃん」
「おやマードックさん、帰ってきたんですね」
常連客のマードック・・・行商人をやっているらしい。
彼は旅先からこの街に戻るたびに毎回『エプレ』に顔を出しにきていた。
席に腰を下ろすと彼は旅の土産話を始める・・・
「それで、今回は侯爵領まで行ってきたんだが・・・」
「おや、あの子達の居た所ですか」
「あの子達?」
「さっきまで吟遊詩人の子がいましてね・・・侯爵領へ帰ると言ってました」
「ほう・・・偶然もあるものだ・・・それで侯爵領だが、予定より街に着くのが遅れてしまってな・・・門が閉まって入れなかったんだよ」
「それは・・・大変でしたね」
「いや、あれは焦った・・・夜の街の外で立ち往生よ、いつ獣が出てくるかわかったものじゃない・・・だが後になって、その事で領主様から謝罪にとこいつを頂けてな・・・」
そう言って彼は荷物から一枚のキャンバスを取り出す・・・何かの絵画のようだ。
「見てくれ、なかなかすごいだろう?」
「!!」
得意げにその肖像画を見せびらかすマードック。
たちまち親娘の目が絵画に釘付けになった。
「なんでも異世界より現れた少女を描いたものだとか・・・次代の英雄かも知れないという触れ込みだ・・・って、二人ともどうしたんだ?」
自慢げに絵の説明をしていたマードックだったが・・・どうも二人の様子がおかしい。
「お父さん、これって・・・」
「どう見ても、マユミちゃん・・・だよな?」
「マユミちゃんだって?」
・・・二人の声を聞きつけて常連客も集まって来る。
『異世界の少女の肖像』と題されたその肖像画には、見覚えのある・・・さっきまで店にいた、黒髪の美少女が描かれていた。
・・・・・・
・・・
マユミ達が挨拶回りをしていた頃、エレスナーデはアビダス商会へとやって来ていた。
「あのアビダスという商人ですが・・・どうやら噂程の悪人ではないようです」
・・・彼とその商会について調べていたゲオルグはそう結論付けた。
「不正を働く者や借金の返済が滞った者達には容赦がないそうですが、対価を払った者に関しては責任を果たすようで・・・伯爵や富裕層には信頼が置かれているらしいです」
「そう・・・なら帰りの馬車は彼の商会を頼ってみようかしら」
そういう理由でアビダス商会へとやって来ていたのだ。
「いらっしゃいませ・・・おや、あなたはたしか・・・」
「馬車を一台探しているのだけど・・・護衛付きで侯爵領グリューエンまで・・・都合がつくかしら?」
「ほほう・・・して、ご予算はどの程度でしょうか?」
「銀貨で70枚・・・でどうかしら?」
商売の話になったその瞬間、アビダスの表情が変わる・・・
「無茶は言わないでほしいですね、銀貨100はいただかないと・・・」
「御冗談でしょう?銀貨75枚までなら、出してもいいのだけれど」
「いやいや、うちはちゃんと料金分の安心をお届けしますので・・・銀貨95枚でいかがですか?」
「銀貨80枚・・・言い忘れてましたけど、これはグリュモール侯爵家からの依頼よ」
「グリュモール侯爵家の方でしたか・・・しかし・・・80枚はさすがに・・・せめて85枚でどうでしょうか?」
「それでいいわ・・・値段分の働きは期待してるわよ?」
「もちろん、お値段以上の働きをお約束しますとも・・・」
にやりと笑みを浮かべる二人・・・どうやら商談は成立したようだ。
「では明日の朝、伯爵の城まで馬車をよこしてくださるかしら」
「はい、畏まりましたおきゃ・・・お嬢様」
お客様をお嬢様に言い直す・・・これを機に侯爵家との繋がりが出来れば、銀貨数百枚の利益を出して見せる自信が彼にはあった。
故に彼は、その金額よりもワンランク上の馬車を用立てたのだった。
・・・・・・
そしてやって来た出発の朝。
「お世話になりました!」
「僕の方こそ侯爵にはお世話になっていたからね、帰ったらお父上にぜひよろしく伝えておいてください」
当初の予定よりもだいぶ長く、しかも一名増えて、伯爵にはかなり世話になってしまった・・・頭を下げるマユミ達に伯爵は笑顔で答える。
「はい、ありがとうございました」
「どういたしまして、また何かあった時はいつでも当家を頼ってください」
「それでは失礼いたします・・・マユミ、ミーアちゃん、忘れ物はない?」
「うん大丈夫、行こうミーアちゃん」
「ゲオルグ殿も侯爵によろしく伝えてください・・・当家はいつでも侯爵家と共にあると・・・」
「はっ、必ずや」
一足先に馬車に乗り込むエレスナーデ・・・マユミとミーアが後に続く・・・
最後にゲオルグが伯爵に一礼してから馬車に乗り込むと、御者台の男が鞭をふるった。
「・・・」
・・・遠ざかる馬車を伯爵は無言で見送る。
(あれが・・・異世界の・・・新たな英雄ですか・・・侯爵よ・・・)
・・・いったい、これからどんな運命が彼女を待ち受けるのか。
今はただ、その旅の無事を祈るレマーナ伯だった。
馬車や護衛の手配などの準備はエレスナーデに任せ、マユミはマユミで動き回ることにした。
まずは診療所だ、ミーアの傷はしっかり回復したか・・・医者の判断を仰がなければならない。
「ふむ・・・ここ数日の彼女を見ていて特におかしな様子もなかったのですね?」
「はい、私にはもうすっかり元気になったように見えます」
すっかり塞がったミーアの傷口を触診しながら、医者はマユミからミーアの様子を聞き出す。
・・・日々の食事量や排泄など細かい質問が続いた後、医者は深く頷いた。
「さすがに完治・・・と言うにはまだ早いですが、もう大丈夫でしょう」
「それは旅に出しても良いってことですか?」
「ええ、ですが無理はさせないようにお願いします、痕が残ってしまいますからね」
「わかりました・・・私達はもうすぐ出立すると思います、それで治療費の方を・・・」
「そうですね、銀貨で20枚になりますが・・・」
「はい、大丈夫です」
数日の入院とこれまでの通院を思えばかなり良心的な価格だ、まけてくれたのだろうか・・・
おかげでマユミの稼ぎでなんとか払うことが出来た。
「ありがとうございました!」
「・・・ありがとうございました」
マユミの真似をするようにミーアも医者に頭を下げた。
「こうして見ると本当に姉妹のようですね・・・どうかお大事に」
医者は満足そうな表情を浮かべ、二人を見送っていた。
・・・・・・
マユミ達が次にやって来たのは『海猫亭』だ。
入り口で迎える木彫りの海猫もこれで見納めかと思うと感慨深い。
「そうか、お嬢ちゃんがいなくなると少し寂しくなるな・・・」
「良かったらあの絨毯はこのまま使ってください」
「そいつはすまねえな、じゃあ俺からは・・・こいつを持っていきな」
「これは・・・眠り猫?」
バクストンが手渡したのは、手のひらサイズの木彫りの海猫・・・
港で日向ぼっこしながら気持ちよさそうに眠っている姿を模して彼が彫った物だった。
・・・どことなく日本の名所を思い出す姿だった。
「なかなか可愛いだろう?この街の土産に良いかと思ってな」
「ありがとうございます、大事にしますね」
「もしヴィーゲルのやつがまたここに来たらちゃんと伝えておいてやるよ、お前の可愛い弟子はしっかりやってるってな」
「あはは・・・あんまり大げさな事は言わないでくださいね」
・・・・・・
バクストンに別れを告げ、最後に訪れるのは『エプレ』だ。
いつも通り元気に出迎えるエプレに、マユミが別れを告げる・・・
「そっかぁ・・・出来ればずっと居てほしかったけど、仕方ないわね」
「このお店にももっと貢献出来たらよかったんだけど・・・」
「お店の事なら大丈夫、またお父さんと二人で守っていくわ・・・ああそうだ、お父さん」
何事か思いついたようにエプレが厨房の方へ駆けていく・・・
エウロンと共に戻ってきた彼女はマユミに瓶を一つ差し出した。
「これは?」
「うちで使ってる特製ジャムよ、お土産に持ってって」
「いいの?ありがとう」
「君達にはずいぶんと助けられたからね・・・一つと言わず3つ4つ持って行ってくれても良いんだが・・・」
「いやいや、充分ですよ、大事にいただきますね」
マユミ達のそんなやり取りは客席の常連客にも聞こえていた。
「なんだ、マユミちゃんは今日で最後かい?」
「あ、はい・・・侯爵領の方に帰る事になりまして・・・」
「じゃあ最後に一曲頼むよ」
「ええと・・・まぁいっか、じゃあ店長さん、ちょっと歌いますね」
「じゃあ最後くらいは僕達もゆっくり聞かせてもらおうかな・・・」
そう言ってエウロンは店先の看板を畳む・・・今だけは臨時休業だ。
「さぁエプレも座りなさい」
「ふふっちゃんと聞くのは初めてだから楽しみね」
「うわ・・・緊張するなー」
「でもマユミ、楽しそうな顔してる」
「えへへ・・・まぁね、じゃあ始めます」
はにかみながらマユミは手袋を外す・・・これがこの街での最後の仕事だ、全力を尽くそう。
ポロロン・・・マユミの指が弦を弾く・・・そして物語を語り始めるのだった。
・・・・・・
・・・
「・・・ありがとうございました」
語り終えたマユミに拍手が応える・・・エウロンとエプレと居合わせた常連客だけの贅沢な時間。
マユミの最後の仕事が今、終わりを告げたのだった。
「面白かったよ、マユミちゃん」
「お客さんが殺到するのも納得ね・・・これで最後なのが本当に残念だわ」
「う・・・ごめんなさい」
二人が楽しんでくれたのがわかるだけに、申し訳なくなるマユミだった。
「マユミちゃん、どうかお元気で・・・また会える日が来るのを祈ってるよ」
「はい、そのうちまた来ますね」
「絶対また来てね、きっとその頃にはお店ももっと立派になってるから!」
「うん、またね」
マユミ達を見送った後・・・二人は入り口の看板を元に戻す・・・ここからは通常営業だ。
感傷に浸っている場合ではない・・・早くも新しい客が店にやって来た。
「いらっしゃいませ!」
「相変わらず元気そうだね、エプレちゃん」
「おやマードックさん、帰ってきたんですね」
常連客のマードック・・・行商人をやっているらしい。
彼は旅先からこの街に戻るたびに毎回『エプレ』に顔を出しにきていた。
席に腰を下ろすと彼は旅の土産話を始める・・・
「それで、今回は侯爵領まで行ってきたんだが・・・」
「おや、あの子達の居た所ですか」
「あの子達?」
「さっきまで吟遊詩人の子がいましてね・・・侯爵領へ帰ると言ってました」
「ほう・・・偶然もあるものだ・・・それで侯爵領だが、予定より街に着くのが遅れてしまってな・・・門が閉まって入れなかったんだよ」
「それは・・・大変でしたね」
「いや、あれは焦った・・・夜の街の外で立ち往生よ、いつ獣が出てくるかわかったものじゃない・・・だが後になって、その事で領主様から謝罪にとこいつを頂けてな・・・」
そう言って彼は荷物から一枚のキャンバスを取り出す・・・何かの絵画のようだ。
「見てくれ、なかなかすごいだろう?」
「!!」
得意げにその肖像画を見せびらかすマードック。
たちまち親娘の目が絵画に釘付けになった。
「なんでも異世界より現れた少女を描いたものだとか・・・次代の英雄かも知れないという触れ込みだ・・・って、二人ともどうしたんだ?」
自慢げに絵の説明をしていたマードックだったが・・・どうも二人の様子がおかしい。
「お父さん、これって・・・」
「どう見ても、マユミちゃん・・・だよな?」
「マユミちゃんだって?」
・・・二人の声を聞きつけて常連客も集まって来る。
『異世界の少女の肖像』と題されたその肖像画には、見覚えのある・・・さっきまで店にいた、黒髪の美少女が描かれていた。
・・・・・・
・・・
マユミ達が挨拶回りをしていた頃、エレスナーデはアビダス商会へとやって来ていた。
「あのアビダスという商人ですが・・・どうやら噂程の悪人ではないようです」
・・・彼とその商会について調べていたゲオルグはそう結論付けた。
「不正を働く者や借金の返済が滞った者達には容赦がないそうですが、対価を払った者に関しては責任を果たすようで・・・伯爵や富裕層には信頼が置かれているらしいです」
「そう・・・なら帰りの馬車は彼の商会を頼ってみようかしら」
そういう理由でアビダス商会へとやって来ていたのだ。
「いらっしゃいませ・・・おや、あなたはたしか・・・」
「馬車を一台探しているのだけど・・・護衛付きで侯爵領グリューエンまで・・・都合がつくかしら?」
「ほほう・・・して、ご予算はどの程度でしょうか?」
「銀貨で70枚・・・でどうかしら?」
商売の話になったその瞬間、アビダスの表情が変わる・・・
「無茶は言わないでほしいですね、銀貨100はいただかないと・・・」
「御冗談でしょう?銀貨75枚までなら、出してもいいのだけれど」
「いやいや、うちはちゃんと料金分の安心をお届けしますので・・・銀貨95枚でいかがですか?」
「銀貨80枚・・・言い忘れてましたけど、これはグリュモール侯爵家からの依頼よ」
「グリュモール侯爵家の方でしたか・・・しかし・・・80枚はさすがに・・・せめて85枚でどうでしょうか?」
「それでいいわ・・・値段分の働きは期待してるわよ?」
「もちろん、お値段以上の働きをお約束しますとも・・・」
にやりと笑みを浮かべる二人・・・どうやら商談は成立したようだ。
「では明日の朝、伯爵の城まで馬車をよこしてくださるかしら」
「はい、畏まりましたおきゃ・・・お嬢様」
お客様をお嬢様に言い直す・・・これを機に侯爵家との繋がりが出来れば、銀貨数百枚の利益を出して見せる自信が彼にはあった。
故に彼は、その金額よりもワンランク上の馬車を用立てたのだった。
・・・・・・
そしてやって来た出発の朝。
「お世話になりました!」
「僕の方こそ侯爵にはお世話になっていたからね、帰ったらお父上にぜひよろしく伝えておいてください」
当初の予定よりもだいぶ長く、しかも一名増えて、伯爵にはかなり世話になってしまった・・・頭を下げるマユミ達に伯爵は笑顔で答える。
「はい、ありがとうございました」
「どういたしまして、また何かあった時はいつでも当家を頼ってください」
「それでは失礼いたします・・・マユミ、ミーアちゃん、忘れ物はない?」
「うん大丈夫、行こうミーアちゃん」
「ゲオルグ殿も侯爵によろしく伝えてください・・・当家はいつでも侯爵家と共にあると・・・」
「はっ、必ずや」
一足先に馬車に乗り込むエレスナーデ・・・マユミとミーアが後に続く・・・
最後にゲオルグが伯爵に一礼してから馬車に乗り込むと、御者台の男が鞭をふるった。
「・・・」
・・・遠ざかる馬車を伯爵は無言で見送る。
(あれが・・・異世界の・・・新たな英雄ですか・・・侯爵よ・・・)
・・・いったい、これからどんな運命が彼女を待ち受けるのか。
今はただ、その旅の無事を祈るレマーナ伯だった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜
Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる