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第52話 石窯焼きカリカリピザです
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マユミとミーアによる朗読会も4回目を終えた頃・・・傭兵達のリーダー、トゥーガが声を上げた。
「野営地だ、フェザール、馬車をこっちに回せ!」
「・・・」
御者台にはフェザールと呼ばれた無口な男が座っていた。
彼は無言のまま馬を操り、馬車を街道から脇に外してゆく・・・
野営地・・・街道の脇には広場のようなものがあった。
ちょっとした運動場くらいの大きさの開けた空間に、街道を旅してきた商隊と思しき他の馬車が2台停車している。
よく見ると、井戸や石で組まれたかまどのような物があった。
(まるでキャンプ場みたい・・・)
マユミが小さい頃に両親と行った山の麓のキャンプ場にどことなく似ている・・・そんな風に思って眺めていると・・・
「この南西街道沿いには、こういった野営地がいくつか点在しているんです・・・街道を行く商人や旅人達の為に、付近の領主が定期的に整備しているんですよ」
「へぇ~」
おそらく、この街道の治安の良さはそれ故なのだろう。
先客として野営の用意を進めていた商隊の面々が、なごやかな雰囲気でマユミ達の馬車を出迎えた。
「お邪魔します」
こちらの代表としてエレスナーデが優雅に挨拶する。
続けてマユミとミーアが馬車から降りてくるのを見て、相手方の代表が目を丸くする。
「この商隊の主、エディンです・・・どこぞのご令嬢姉妹とお見受けしますが、いやはやお美しい」
「あら、お上手ですこと・・・これも商人の知恵かしら?」
「たしかに我々商人には『相手の褒める所を見つけて褒めろ』という訓辞もありますが、本心ですよ・・・こちらはむさ苦しい男共ばかりで申し訳ない限りです」
「いえいえ、お気になさらずに・・・」
男所帯でここまで旅してきたからだろうか、美人三姉妹としてマユミ達は彼らの注目を集めていた。
すらっとした長身美女のエレスナーデ、小柄な美少女マユミ、幼いミーアと三者三様の魅力が男達のニーズを幅広くカバーしているのだろう。
なんにせよ歓迎ムードなのはありがたかった。
「マユミ、いい匂いがする」
「そうだね、私もお腹が空いてきたよ」
先程見かけたかまどを使って何か料理をしているようだった。
マユミ達の声が聞こえたのか、エディンが声を掛けてきた。
「よろしければ、ご一緒にいかがでしょう?」
「え、良いんですか?」
「はい、お嬢様方のお口に合うかどうかはわかりませんが・・・」
「全然大丈夫です、行こうミーアちゃん」
「うん」
二人とも喜んで彼らの夕食の輪に加わっていった。
「うちの子達はすっかり釣られてしまったようね・・・それで、おいくら払えばいいのかしら?」
「いやいや、お代は結構ですよ・・・うちはそこまで商売熱心ではないので」
「あら・・・なら私もお言葉に甘えようかしら」
「はいぜひ、そうしていただければ皆も喜びます」
どうやら彼は、商人にしては欲のない人物のようだ。
しかしその人柄は好感が持てる、どこかでまたこの商人達と関わる事があれば贔屓にしよう・・・そう考えるエレスナーデ。
ひょっとしたそう思わせる事がこの商人の狙いなのかもしれないが、それはそれで構わなかった。
「ええと・・・俺たちは混ざっていいのか?」
男たちを代表してトゥーガが居心地が悪そうに尋ねる・・・もちろん彼らは快く迎え入れるのだった。
かまどから出てきたのは色鮮やかな赤と黄色のピザを思わせる料理だった。
カリカリに焼けたパンの上にチーズとトマトのソースが乗っている。
どうやらこのトマトを使ったソースが彼らの主力商品のようだ。
「たくさんあるので遠慮せずにどうぞ」
「はい、ありがとうございます・・・あつっ」
「ははっ、焼きたてだから気を付けなよ」
「はい・・・ミーアちゃんも熱いから気を付けてね」
火傷をしないように指先をうまく使ってピザを持つ・・・竪琴の練習用に着けていた右手の手袋が思わぬところで役に立った。
パンの部分は思った以上にカリカリで、欲張って食べると顎が疲れそうだ。
隣のミーアを見ると、彼女はリスのようにカリカリと少しずつ食べていた。
エレスナーデは最初苦戦していたが、ミーアの食べ方に倣ったようだ・・・二人してカリカリと音を立てて食べている。
男性陣は顎の力も強いのか、豪快にかぶりついていた・・・とろけたチーズが伸びる様がとてもおいしそうだ。
(うぅ・・・顎も鍛えないといけないのかな・・・)
どちらかと言えば後者の食べ方でがんばって食べるマユミであった。
ピザに続いてトマトを使ったスープが出てくる・・・こちらもなかなかおいしい。
にぎやかに夕食が進んでいく。
「貴女方は港町から来たのですね・・・どうでしたか?」
「観光目的だったのだけれど、楽しく過ごせたわ」
「新市街のエプレってお店が、お洒落でお勧めかな」
「そうですか、その店にうちの商品を持ち込んでみるのもいいかもしれませんね」
どうやら彼らの商隊はこれから港町に向かう所らしい、マユミ達とは逆方向だ。
情報交換のついでにちゃっかり『エプレ』の宣伝をするマユミ・・・仕事抜きにしてもあのお店はマユミのお気に入りだった。
食事も一段落ついたところで、マユミはひと仕事始めようと企む。
「ミーアちゃん、今日練習した『二人の歌姫』は覚えてる?」
「うん・・・今からやるの?」
「うん、ごちそうになったお礼も兼ねて・・・ね」
「わかった、がんばる」
「じゃあミーアちゃんはそこで・・・」
ミーアをその場に置いて、マユミはちょうどいい位置を探して移動する。
・・・出来れば対照的な配置が望ましい。
「お、アレをやるのか」
「おいレスター、そこ邪魔だからどいてやれ」
「え?俺邪魔なんですか?」
「いいから早くどけ」
マユミの意図に傭兵達が気付いたようだ、なかなか目ざとい。
トゥーガが若い傭兵レスターに席を空けるように叱責する・・・彼が座っていた位置は確かにマユミの配置にちょうど良かった。
「ええと、これは何が始まるのですか?」
「ふふっ、それは見ての・・・いえ聞いてのお楽しみかしら」
マユミが何かを始めようとしている事は彼らにも伝わったようだ。
エレスナーデはその問いを、悪戯っぽい笑顔で受け流す。
無事配置についたマユミは商人達を見回すと、口を開いた・・・
「ええと、皆さん・・・私とこの子、ミーアちゃんは吟遊詩人みたいな事をやってまして・・・よかったら聞いてもらえますか?」
そう言って席に着いたマユミは、竪琴を構え手袋を外す・・・
(そういえば・・・曲の方はレパートリー増えてないや・・・)
物足りないと感じた原因はこれかもしれない。
しかし彼女には音楽センスというのが乏しいようで、作曲など出来る気がしなかった。
やはり自分は声優として・・・声で勝負するしかないのか。
(これ・・・歌った方が良い?・・・)
ミーアは思った。
練習の時は気にならなかったが、こうして大勢の人間に囲まれながらやると・・・歌わないのがすごく不自然に感じたのだ。
特に終盤の姉妹が互いの歌で気付くあたりからは歌った方が盛り上がるのは明白だ。
しかし練習もなしに勝手に歌うわけにはいかない、今はマユミに合わせて演じる事に専念する。
そんな二人の胸中とは裏腹に、商人達は二人の演技に大いに盛り上がり、絶賛するのだった。
「お疲れ様、今回も大成功ね・・・って二人とも、なぜそんなに落ち込んでいるの?」
「うぅ・・・今の自分の限界を感じたというか・・・」
「まだまだ、課題がいっぱい・・・」
拍手喝采の中、がっくりと肩を落とした二人だった。
「野営地だ、フェザール、馬車をこっちに回せ!」
「・・・」
御者台にはフェザールと呼ばれた無口な男が座っていた。
彼は無言のまま馬を操り、馬車を街道から脇に外してゆく・・・
野営地・・・街道の脇には広場のようなものがあった。
ちょっとした運動場くらいの大きさの開けた空間に、街道を旅してきた商隊と思しき他の馬車が2台停車している。
よく見ると、井戸や石で組まれたかまどのような物があった。
(まるでキャンプ場みたい・・・)
マユミが小さい頃に両親と行った山の麓のキャンプ場にどことなく似ている・・・そんな風に思って眺めていると・・・
「この南西街道沿いには、こういった野営地がいくつか点在しているんです・・・街道を行く商人や旅人達の為に、付近の領主が定期的に整備しているんですよ」
「へぇ~」
おそらく、この街道の治安の良さはそれ故なのだろう。
先客として野営の用意を進めていた商隊の面々が、なごやかな雰囲気でマユミ達の馬車を出迎えた。
「お邪魔します」
こちらの代表としてエレスナーデが優雅に挨拶する。
続けてマユミとミーアが馬車から降りてくるのを見て、相手方の代表が目を丸くする。
「この商隊の主、エディンです・・・どこぞのご令嬢姉妹とお見受けしますが、いやはやお美しい」
「あら、お上手ですこと・・・これも商人の知恵かしら?」
「たしかに我々商人には『相手の褒める所を見つけて褒めろ』という訓辞もありますが、本心ですよ・・・こちらはむさ苦しい男共ばかりで申し訳ない限りです」
「いえいえ、お気になさらずに・・・」
男所帯でここまで旅してきたからだろうか、美人三姉妹としてマユミ達は彼らの注目を集めていた。
すらっとした長身美女のエレスナーデ、小柄な美少女マユミ、幼いミーアと三者三様の魅力が男達のニーズを幅広くカバーしているのだろう。
なんにせよ歓迎ムードなのはありがたかった。
「マユミ、いい匂いがする」
「そうだね、私もお腹が空いてきたよ」
先程見かけたかまどを使って何か料理をしているようだった。
マユミ達の声が聞こえたのか、エディンが声を掛けてきた。
「よろしければ、ご一緒にいかがでしょう?」
「え、良いんですか?」
「はい、お嬢様方のお口に合うかどうかはわかりませんが・・・」
「全然大丈夫です、行こうミーアちゃん」
「うん」
二人とも喜んで彼らの夕食の輪に加わっていった。
「うちの子達はすっかり釣られてしまったようね・・・それで、おいくら払えばいいのかしら?」
「いやいや、お代は結構ですよ・・・うちはそこまで商売熱心ではないので」
「あら・・・なら私もお言葉に甘えようかしら」
「はいぜひ、そうしていただければ皆も喜びます」
どうやら彼は、商人にしては欲のない人物のようだ。
しかしその人柄は好感が持てる、どこかでまたこの商人達と関わる事があれば贔屓にしよう・・・そう考えるエレスナーデ。
ひょっとしたそう思わせる事がこの商人の狙いなのかもしれないが、それはそれで構わなかった。
「ええと・・・俺たちは混ざっていいのか?」
男たちを代表してトゥーガが居心地が悪そうに尋ねる・・・もちろん彼らは快く迎え入れるのだった。
かまどから出てきたのは色鮮やかな赤と黄色のピザを思わせる料理だった。
カリカリに焼けたパンの上にチーズとトマトのソースが乗っている。
どうやらこのトマトを使ったソースが彼らの主力商品のようだ。
「たくさんあるので遠慮せずにどうぞ」
「はい、ありがとうございます・・・あつっ」
「ははっ、焼きたてだから気を付けなよ」
「はい・・・ミーアちゃんも熱いから気を付けてね」
火傷をしないように指先をうまく使ってピザを持つ・・・竪琴の練習用に着けていた右手の手袋が思わぬところで役に立った。
パンの部分は思った以上にカリカリで、欲張って食べると顎が疲れそうだ。
隣のミーアを見ると、彼女はリスのようにカリカリと少しずつ食べていた。
エレスナーデは最初苦戦していたが、ミーアの食べ方に倣ったようだ・・・二人してカリカリと音を立てて食べている。
男性陣は顎の力も強いのか、豪快にかぶりついていた・・・とろけたチーズが伸びる様がとてもおいしそうだ。
(うぅ・・・顎も鍛えないといけないのかな・・・)
どちらかと言えば後者の食べ方でがんばって食べるマユミであった。
ピザに続いてトマトを使ったスープが出てくる・・・こちらもなかなかおいしい。
にぎやかに夕食が進んでいく。
「貴女方は港町から来たのですね・・・どうでしたか?」
「観光目的だったのだけれど、楽しく過ごせたわ」
「新市街のエプレってお店が、お洒落でお勧めかな」
「そうですか、その店にうちの商品を持ち込んでみるのもいいかもしれませんね」
どうやら彼らの商隊はこれから港町に向かう所らしい、マユミ達とは逆方向だ。
情報交換のついでにちゃっかり『エプレ』の宣伝をするマユミ・・・仕事抜きにしてもあのお店はマユミのお気に入りだった。
食事も一段落ついたところで、マユミはひと仕事始めようと企む。
「ミーアちゃん、今日練習した『二人の歌姫』は覚えてる?」
「うん・・・今からやるの?」
「うん、ごちそうになったお礼も兼ねて・・・ね」
「わかった、がんばる」
「じゃあミーアちゃんはそこで・・・」
ミーアをその場に置いて、マユミはちょうどいい位置を探して移動する。
・・・出来れば対照的な配置が望ましい。
「お、アレをやるのか」
「おいレスター、そこ邪魔だからどいてやれ」
「え?俺邪魔なんですか?」
「いいから早くどけ」
マユミの意図に傭兵達が気付いたようだ、なかなか目ざとい。
トゥーガが若い傭兵レスターに席を空けるように叱責する・・・彼が座っていた位置は確かにマユミの配置にちょうど良かった。
「ええと、これは何が始まるのですか?」
「ふふっ、それは見ての・・・いえ聞いてのお楽しみかしら」
マユミが何かを始めようとしている事は彼らにも伝わったようだ。
エレスナーデはその問いを、悪戯っぽい笑顔で受け流す。
無事配置についたマユミは商人達を見回すと、口を開いた・・・
「ええと、皆さん・・・私とこの子、ミーアちゃんは吟遊詩人みたいな事をやってまして・・・よかったら聞いてもらえますか?」
そう言って席に着いたマユミは、竪琴を構え手袋を外す・・・
(そういえば・・・曲の方はレパートリー増えてないや・・・)
物足りないと感じた原因はこれかもしれない。
しかし彼女には音楽センスというのが乏しいようで、作曲など出来る気がしなかった。
やはり自分は声優として・・・声で勝負するしかないのか。
(これ・・・歌った方が良い?・・・)
ミーアは思った。
練習の時は気にならなかったが、こうして大勢の人間に囲まれながらやると・・・歌わないのがすごく不自然に感じたのだ。
特に終盤の姉妹が互いの歌で気付くあたりからは歌った方が盛り上がるのは明白だ。
しかし練習もなしに勝手に歌うわけにはいかない、今はマユミに合わせて演じる事に専念する。
そんな二人の胸中とは裏腹に、商人達は二人の演技に大いに盛り上がり、絶賛するのだった。
「お疲れ様、今回も大成功ね・・・って二人とも、なぜそんなに落ち込んでいるの?」
「うぅ・・・今の自分の限界を感じたというか・・・」
「まだまだ、課題がいっぱい・・・」
拍手喝采の中、がっくりと肩を落とした二人だった。
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