英雄じゃなくて声優です!

榛名

文字の大きさ
53 / 90

第53話 歌の妖精です

しおりを挟む
朝靄に霞む野営地。

馬車の中に作られた簡易寝台でマユミは目を覚ました。
・・・普段は座席に収納されている折り畳み式の簡易寝台だが、その寝心地は悪くなかった。
一見して他と変わらない普通の見た目に反して、実は高級な馬車なのかもしれない。

マユミは起きて早々に竪琴を準備する・・・なにか新しい曲の一つも思いつかないものか。
とりあえず色々音を出してみよう・・・そう思ってマユミが弦に指を掛けたその時・・・


・・・ララ・・・ラ・・・ララ~・・・


(この声・・・誰かが歌ってる?)

どこからか声がする・・・歌声のような・・・靄の向こうで誰かが歌っているのだろうか?

(まさか・・・『海の乙女』みたいなのがこの辺りにも・・・)

たしか『海の乙女』では歌のする方へ行くのが正解だったはず。
マユミは歌声に誘われるままに歌のする方へと向かった・・・すると・・・


「ララララ~♪ララランララ~♪ラ~ララ~♪」


一本の木の根元に腰かけ、その少女は歌っていた。

(あれは歌の妖精・・・じゃない、ミーアちゃんだ)

その姿からは妖精の姫の役をやっていた舞台の事が思い出された。
木の下で歌う彼女の姿は、とても様になっていた。
そして、その歌声はとても・・・

(上手い・・・)

思わず聞き入ってしまうマユミだったが、ミーアはすぐに気付いたようだ。

「マユミ、おはよう」
「あ、うん・・・おはよう」

・・・出来ればもっと聞いていたかったが、仕方ない。

「ミーアちゃん、今の歌って・・・」
「歌姫だから、歌った方が良いと思って・・・」
「まさか・・・『二人の歌姫』の歌を・・・ミーアちゃんが考えたの?」

まさか即興の作曲・・・だとしたら音楽面でもミーアは天才だ。
しかし、ミーアはマユミのその質問に首を振った。

「お母さんが昔歌ってたのを思い出してた・・・この歌、どうかな?」

元々は妖精族に伝わる森の歌なのだが、当時のミーアは今よりも更に幼かったのでうろ覚え・・・まして歌詞など覚えていなかった。
それでも話の雰囲気に合うと思って、一生懸命思い出していたのだ。

「うん、いい曲だね・・・」

(ミーアちゃんのお母さんか・・・会ってみたかったな・・・)

きっと素敵な人だったんだろう・・・あれだけつらい目に合っても素直に育っていたミーアを見ていればわかる。

「じゃあ、マユミも歌おう?」

ミーアの母について思いを巡らしていたマユミには、一瞬何を言われたのかわからなかった。

「え・・・」
「一緒に、歌おう?ラ~ララ~♪」

そして当たり前のように歌いだすミーア。
慌ててマユミも歌おうとするが・・・

「ら、ら~ら~ら~♪」
「マユミ、違う!ラ~ララ~♪」
「ら~らら~♪」

・・・彼女のレッスンはなかなか厳しかった。


くたくたになって馬車に戻ってきたマユミ達をエレスナーデが待ち構える。

「ふふふっ、今日はどの服を着せようかしら・・・」

彼女は港町でマユミとミーアの服をたくさん買い込んでいたのだ。
・・・その中には二人で仕事することを見越したのか、お揃いのデザインの服もあった。

どの服にしようか、しばし考えた彼女は商人達に三姉妹だと思われていたのを思い出す。

「ちょうど色違いで三人分買った服があったわ、これにしましょう」

・・・エレスナーデは赤、マユミは青、ミーアには緑。
色とサイズは違うものの服のデザインは同じ。
この服で三人が並ぶと、より一層三姉妹という感じが出る。

「マユミ、ミーア、私をお姉様と呼んでもよろしくてよ?」

などと嘯くエレスナーデ・・・すっかりご満悦のようだ。

「や、さすがにそれは・・・ちょっと・・・」
「えっ・・・」

難色を示すマユミ、エレスナーデはどこか寂しげだ。

「あ、でもミーアちゃんにお姉ちゃんとか呼ばれてみたいかも・・・」
「お姉・・・ちゃん?」

((か、かわいい))

首をかしげながら、とりあえず言ってみたミーア。
それを見てまったく同じ反応を示すマユミとエレスナーデだった。


その後、商人達と一緒に朝食を食べる・・・そろそろ出発の時だ。

「ではお嬢様方、良い旅を・・・」
「ええ、皆さんもお元気で・・・」

お互いの来た方向へと馬車が進んでいく・・・
互いの馬車はどんどん遠ざかっていき・・・すぐに見えなくなった。


去りゆく商人達の馬車の中では・・・

「しかし、美しい姉妹だったな・・・」
「噂に聞いた異世界の少女とやらも、あれくらい綺麗なのかねぇ」
「いやいや、エレスナーデさん程の美女じゃないだろう」
「たしか黒髪の美少女って話だろ?マユミちゃんみたいな感じなんじゃないか?」
「それなら俺は断然マユミちゃんを選ぶな、声まで可愛いし」
「声ってならミーアちゃんの歌声聞いたか?あれは綺麗だった・・・」
「お前ミーアちゃん派かよ・・・」
「いいいや、あの子を見てると家に置いてきた娘を思い出すんだよ!」
「お前んとこの芋娘と比べちゃミーアちゃんに失礼だろ」
「誰が芋娘だ、うちの子だってなぁ・・・」


港町に着くまで、彼らはそんな会話に夢中になっていた・・・終始にぎやかな商人達だ。


一方、マユミ達はというと・・・


「ラ~ララ~♪ララ~ラララ~♪」
「ら~ららら~♪ら~ららら~♪」
「・・・マユミ、ぜんぜん違う」
「ふぇぇ・・・」

ミーアによる歌のレッスンが続いていた・・・
途中まで黙って聞いていたエレスナーデだが、ふいにその疑問を口にする。

「その歌だけど・・・歌詞はないの?」

その質問に、ミーアの表情が陰る。

「思い出せなくて・・・ごめんなさい」
「あ、いいのよ、ミーアちゃんは悪くないわ」
「昔の話だろうし・・・しょうがないよ」

泣き出すと思ったのか、慌ててフォローする二人だが・・・

「でも歌詞は、あった方が良いと思うから・・・」

ミーアはそのことで真面目に悩んでいるようだった。
・・・しかし、どうしても思い出せないのだ。
真剣に思い悩む彼女を見て、エレスナーデは決断する・・・

「・・・わかったわ、歌詞は私に任せなさい」
「ナーデ?」
「わ、私も何かしたいと思っていたのよ・・・だから二人は練習に専念なさい」

これまでマユミの仕事をただ見てるだけになっていて悔しい思いをしていたのは事実だ。
もう話の内容は頭に入っているし、歌詞を考えるくらいなら出来るのではないか・・・そう思ったのだ。

「ナーデ、ありがとう」
「うまく出来るかはわからないわよ、自信はないですからね」
「ナーデなら大丈夫だよ」
「うん、ナーデを信じてる・・・」
「しょ、しょうがないわね・・・なるべく早く仕上げるわ」

二人に真っ直ぐ見つめられて照れたのか、エレスナーデはそっぽを向いてしまった。
・・・色々と器用なエレスナーデの事だ、きっと良い歌詞を用意してくれるに違いない。
二人からそんなプレッシャーをひしひしと感じるエレスナーデだった。

「じゃあ私たちは練習がんばろう」
「うん、マユミ、歌はやく覚えて」
「ふぇぇ・・・」

涙目になるマユミ・・・その後も歌の練習は続いたのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

処理中です...