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ご退場願いまーす
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ベルガの屋敷は中も豪華で、目がチカチカした。
どことなく王城と似せている気もするが、至る所にあしらわれている金の飾り、自分の肖像画、石像などなどお金の使い方がえげつなく悪趣味な博物館に迷い込んだ気分だ。
黙々と前を行くメイドの背中を頼もしく思っていると、急に足が止まった。
「あら?あらあら、あら?」
わざとらしい声掛けに目を向ければ、キツい香水の匂いを振り撒き煌びやかなドレスに身を包んだ五、六人の女性達が行く手を塞いでいるではないか。
不審そうに囁き合う者も居れば、見下した視線を向けてくる者もいて剥き出しの敵意の中でも一際目を引く女性が一人前に出てきた。
だらしない程に胸元の開いた真紅のドレスを揺らしながら、わざとらしく小首を傾げる。
「あなた、どちら様かしら?ここは私の主人であるベルガ領主のお屋敷、今日の来客予定にない人間はお断りなのだけど」
豪勢な白の羽扇子で口元を隠しているものの、その口調はキツく咎めている。
訝しむ細目は更に鋭さを増して、威圧的だ。
「ルルプラ奥様。このお方はベルガ領主様の客人でございます。案内を……」
「聞こえなかったのかしら?私は知らないと言っているの」
「で、ですが……!」
「いちいち口答えするなっ!!私は、聞いてないと言ってるの!!!」
激昂する強い口調にメイドの身体がビクリと震えた。
見かねたロアルドが前に出ようとするのを瞬時に遮り、怒るルルプラに答えた。
「お客様、です」
“ねぇ、ロアルドの着ているコートのせいじゃないかしら?”
チュリからの耳打ちにロアルドは、ハッとする。
“あの子、ロアルドの事がちゃんと見えてないのよ。ベルガにはロアルドが女性に見えてたみたいだけど、ここに居る人達は違うみたい”
認識阻害コートが本来の役割を果たしている為、確かに存在はしているものの得体の知れない何かに疑心暗鬼になっているのだ。
自分が招いてしまった事態にロアルドは内心で毒づいた。
「ハァ。お話になりませんわ。ならば客人とやらに答えていただくまで」
パシン、と扇子を閉じてメイドの後ろにいるロアルドを指す。
「失礼ながら奥様。ベルガ領主様のお客様を案内しなくてはなりませんので、ご容赦ください。仔細はベルガ領主様へお願いします」
メイドが震える声で言い切ったと同時だった。
まさかここまで歯向かわれるとは思ってなかったのだろう、顔を真っ赤にさせて羽扇子を振り上げたルルプラから即座にメイドを自分の背に庇い、ロアルドが指を鳴らしたと同時に、ロアルドが煩わしいと思った存在全てが消え失せた。
人も、廊下に飾ってある悪趣味な家具も全部。
「……え?」
殺風景になった廊下を見て、メイドの困惑し切った声だけがやけに大きく響いた。
「あー、ごめん。びっくりしたよね。適当な部屋に移しただけだから安心して?」
ロアルドに頭を撫でられたメイドが顔を上げると、そこには青髪の青年がいた。
ベルガ領主が連れて来た客人の顔が靄が掛かった様に見えなかったのが嘘みたいに顔立ちのはっきりとした男性が爽やかな笑顔を向けている。
誰も、この得体の知れない客人を案内しようとはしなかった。私ですら怖かったけど確かに存在しているのは分かった。
だから案内しなければと妙な責任感から立候補しただけなのに……まさか。こんな、こんなことって。
「お、お客様ですか?」
「うん。ごめんね……分かんなかったよね?」
「い、いえ!そんな。私こそ、すみません。見苦しい点をお見せしてしまい、ご迷惑をお掛けしました。本当、失敗ばかりしてて、いつもルルプラ奥様を怒らせてばかりで……」
自分で言ってて、情けなくなってしまった。
涙は流すまいと翠色の瞳から溢れ落ちそうになる涙の粒を唇を噛み締めて堪える。
「大丈夫、大丈夫だよ」
気がついたら抱きしめられていた。
背中に手を当てて、宥める様に優しく叩かれたら堰を切ったように涙が溢れた。
きっと、今みたいな事が何度も何度もあったんだろう。
理不尽な事で怒られ、訳が分からず自分を責めて自信をなくす。
そんな姿を見てアイツらは満足そうに微笑むのだ。
剥き出しの悪意を間に受けてはいけない。
思い返すだけで腹が立ってくる。もし自分の妹が同じ目に遭ってたら全部消し炭にしてるくらい、こんなにも誰かを守らないとと思ったのは久しぶりだ。
思わず抱きしめる手に力が籠る。
「俺を守ってくれてありがとう」
「!!」
弾かれた様に身体を離す少女の表情はとても驚いている。
「そ、そんな。守るだなんて……私、ちゃんと守れてないです」
「そんな事ない」
「あ、あります!!」
「ないよ。だから覚えておいて?君が自分を責めるなら、その度に俺は君の素敵なところを何個も伝えるよ」
泣き腫らした赤い目元に残る涙を拭い取ると、翠色の瞳が不思議そうに見つめてくる。
「俺はロアルド・ジェルツ。良かったら名前、教えてくれない?」
いきなり過ぎて不審がられるかと思ったが、すぐに返事がきた。
「アニス・シルファード。私、アニスです」
「よろしくね、アニス」
差し出した手を、恐る恐る両手で掴むアニスはもう泣いていなかった。
照れくさそうに頬を赤らめ微笑みながら大きく頷きを返してくれた。
「はい!よろしくお願いします。ロアルドのご主人!!」
元気を取り戻したアニスに、奴らが戻って来る前に部屋まで案内してほしいと頼んでいると、終始見守っていたチュリの声が聞こえた。
“貴方って、なんて言うか……人たらし?”
「それ、褒めてる?貶してる?」
“ううん、訂正する。素敵!って言い換えとくわ”
「ありがとう」
チュリは廊下を進むロアルドの後ろを浮遊しながら、殺風景になった廊下を見渡した。
飄々としている彼の秘めた力の底知れなさに驚いていると視線を感じて振り返る。
「俺に頼った事、後悔してる?」
ロアルドの問いかけに、怖いと思ってしまった心を読まれたみたいでドキッとした。
けれど後悔はしてない。それだけは言い切れる。
“してないわ。益々、頼りにしてるから”
チュリの返答は意外だったのかロアルドは少しだけ驚いた顔をした後、そう?と素っ気なく答えて何事も無かった様にアニスの後を追いかけた。
どことなく王城と似せている気もするが、至る所にあしらわれている金の飾り、自分の肖像画、石像などなどお金の使い方がえげつなく悪趣味な博物館に迷い込んだ気分だ。
黙々と前を行くメイドの背中を頼もしく思っていると、急に足が止まった。
「あら?あらあら、あら?」
わざとらしい声掛けに目を向ければ、キツい香水の匂いを振り撒き煌びやかなドレスに身を包んだ五、六人の女性達が行く手を塞いでいるではないか。
不審そうに囁き合う者も居れば、見下した視線を向けてくる者もいて剥き出しの敵意の中でも一際目を引く女性が一人前に出てきた。
だらしない程に胸元の開いた真紅のドレスを揺らしながら、わざとらしく小首を傾げる。
「あなた、どちら様かしら?ここは私の主人であるベルガ領主のお屋敷、今日の来客予定にない人間はお断りなのだけど」
豪勢な白の羽扇子で口元を隠しているものの、その口調はキツく咎めている。
訝しむ細目は更に鋭さを増して、威圧的だ。
「ルルプラ奥様。このお方はベルガ領主様の客人でございます。案内を……」
「聞こえなかったのかしら?私は知らないと言っているの」
「で、ですが……!」
「いちいち口答えするなっ!!私は、聞いてないと言ってるの!!!」
激昂する強い口調にメイドの身体がビクリと震えた。
見かねたロアルドが前に出ようとするのを瞬時に遮り、怒るルルプラに答えた。
「お客様、です」
“ねぇ、ロアルドの着ているコートのせいじゃないかしら?”
チュリからの耳打ちにロアルドは、ハッとする。
“あの子、ロアルドの事がちゃんと見えてないのよ。ベルガにはロアルドが女性に見えてたみたいだけど、ここに居る人達は違うみたい”
認識阻害コートが本来の役割を果たしている為、確かに存在はしているものの得体の知れない何かに疑心暗鬼になっているのだ。
自分が招いてしまった事態にロアルドは内心で毒づいた。
「ハァ。お話になりませんわ。ならば客人とやらに答えていただくまで」
パシン、と扇子を閉じてメイドの後ろにいるロアルドを指す。
「失礼ながら奥様。ベルガ領主様のお客様を案内しなくてはなりませんので、ご容赦ください。仔細はベルガ領主様へお願いします」
メイドが震える声で言い切ったと同時だった。
まさかここまで歯向かわれるとは思ってなかったのだろう、顔を真っ赤にさせて羽扇子を振り上げたルルプラから即座にメイドを自分の背に庇い、ロアルドが指を鳴らしたと同時に、ロアルドが煩わしいと思った存在全てが消え失せた。
人も、廊下に飾ってある悪趣味な家具も全部。
「……え?」
殺風景になった廊下を見て、メイドの困惑し切った声だけがやけに大きく響いた。
「あー、ごめん。びっくりしたよね。適当な部屋に移しただけだから安心して?」
ロアルドに頭を撫でられたメイドが顔を上げると、そこには青髪の青年がいた。
ベルガ領主が連れて来た客人の顔が靄が掛かった様に見えなかったのが嘘みたいに顔立ちのはっきりとした男性が爽やかな笑顔を向けている。
誰も、この得体の知れない客人を案内しようとはしなかった。私ですら怖かったけど確かに存在しているのは分かった。
だから案内しなければと妙な責任感から立候補しただけなのに……まさか。こんな、こんなことって。
「お、お客様ですか?」
「うん。ごめんね……分かんなかったよね?」
「い、いえ!そんな。私こそ、すみません。見苦しい点をお見せしてしまい、ご迷惑をお掛けしました。本当、失敗ばかりしてて、いつもルルプラ奥様を怒らせてばかりで……」
自分で言ってて、情けなくなってしまった。
涙は流すまいと翠色の瞳から溢れ落ちそうになる涙の粒を唇を噛み締めて堪える。
「大丈夫、大丈夫だよ」
気がついたら抱きしめられていた。
背中に手を当てて、宥める様に優しく叩かれたら堰を切ったように涙が溢れた。
きっと、今みたいな事が何度も何度もあったんだろう。
理不尽な事で怒られ、訳が分からず自分を責めて自信をなくす。
そんな姿を見てアイツらは満足そうに微笑むのだ。
剥き出しの悪意を間に受けてはいけない。
思い返すだけで腹が立ってくる。もし自分の妹が同じ目に遭ってたら全部消し炭にしてるくらい、こんなにも誰かを守らないとと思ったのは久しぶりだ。
思わず抱きしめる手に力が籠る。
「俺を守ってくれてありがとう」
「!!」
弾かれた様に身体を離す少女の表情はとても驚いている。
「そ、そんな。守るだなんて……私、ちゃんと守れてないです」
「そんな事ない」
「あ、あります!!」
「ないよ。だから覚えておいて?君が自分を責めるなら、その度に俺は君の素敵なところを何個も伝えるよ」
泣き腫らした赤い目元に残る涙を拭い取ると、翠色の瞳が不思議そうに見つめてくる。
「俺はロアルド・ジェルツ。良かったら名前、教えてくれない?」
いきなり過ぎて不審がられるかと思ったが、すぐに返事がきた。
「アニス・シルファード。私、アニスです」
「よろしくね、アニス」
差し出した手を、恐る恐る両手で掴むアニスはもう泣いていなかった。
照れくさそうに頬を赤らめ微笑みながら大きく頷きを返してくれた。
「はい!よろしくお願いします。ロアルドのご主人!!」
元気を取り戻したアニスに、奴らが戻って来る前に部屋まで案内してほしいと頼んでいると、終始見守っていたチュリの声が聞こえた。
“貴方って、なんて言うか……人たらし?”
「それ、褒めてる?貶してる?」
“ううん、訂正する。素敵!って言い換えとくわ”
「ありがとう」
チュリは廊下を進むロアルドの後ろを浮遊しながら、殺風景になった廊下を見渡した。
飄々としている彼の秘めた力の底知れなさに驚いていると視線を感じて振り返る。
「俺に頼った事、後悔してる?」
ロアルドの問いかけに、怖いと思ってしまった心を読まれたみたいでドキッとした。
けれど後悔はしてない。それだけは言い切れる。
“してないわ。益々、頼りにしてるから”
チュリの返答は意外だったのかロアルドは少しだけ驚いた顔をした後、そう?と素っ気なく答えて何事も無かった様にアニスの後を追いかけた。
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