4 / 5
地獄からの生還、まだ頑張れる
しおりを挟む
「楽にしてるといい」
「あ、ありがとうございます」
緊張と作り笑いで顔が痛い。
思いがけず遭遇したベルガ領主に、何故か女と間違われ誘われるまま乗り込んだ馬車は今日一番の地獄だった。
頭のてっぺんからつま先まで舐め回す様な視線には気づかないふりをして、逃げるように窓の外を見ても同じ景色ばかり。
いつの間にかチュリも姿を見せなくなってしまったし、どうしたものかと思いあぐねていると馬車の走る音で誤魔化していた重苦しい沈黙をベルガが破った。
「我に会いに来たのだろう?……隠さずともよい」
いきなり何を言い出すのかと視線を戻せば、自信に満ちた瞳が待ち構えていた。
此方の困惑している反応を肯定と捉えたのか、その表情はとても満足そうで鳥肌が立つ。
(ど、どこから来るのその自信?)
思わず口をついて出そうになった本音を飲み込み、ロアルドは愛想笑いで誤魔化した。
「……友を探しに」
「友?」
「はい。領主様のお屋敷に召し上げられたと聞いて……あの子が行くなら私もと思い追いかけましたが馬車を見失ってしまい徒歩で向かっていました」
「そうか。その者の名はなんと申す?」
「チュリ」
チュリの名前を出してもベルガに変わった様子はなく、もう少し詰めてみるかと口を開きかけた時、外からのノックで馬車が停止している事に気がついた。
「ベルガ様。到着しました」
「あぁ」
ロアルドは打ち切られた会話を少しだけ残念に思いながらベルガに次いで馬車を降りた。
「「おかえりなさいませ」」
辺境伯の住まう屋敷は王都に鎮座する王城に劣らず豪勢な屋敷で、汚れひとつない石畳には1クラス分いるだろう侍従達が領主を出迎える為に整列しており、ベルガが一歩踏み出したと同時に全員が頭を垂れた。
完璧な出迎えの言葉にベルガは片手を上げる。
「ご苦労。不在中、何もなかったか」
「私から一件、ご報告申し上げます」
侍従の列から年配の執事長らしき人物が前に出ると、神妙な面持ちで屋敷の玄関口に目配せをする。
それが合図の様に並んでいた侍従が両脇に避けると鎖で繋がれ地面に座り込んでいる人物と鎧を身に纏った騎士の姿が見えた。
「………!!?」
ロアルドは、誰にも気づかれない様に息を呑む。
心臓が痛いくらい大きく跳ねた。
あの鎖に繋がれているのって……まさか。
「何事だ」
ベルガの問いに、騎士は敬礼をすると手にしていた鎖を引いて、捕らえた男を御前に引き摺り出す。
「はっ!昨日我らの領域に侵入を試みた不審者を捕えました!未だに名前も目的も吐きません」
「む?……その格好……」
訝しむベルガに、ロアルドの肝が冷える。
やーばい。これはまずい。今、まさに自分は捕らえられてるアルノと全く同じ軍服を着ている。
ここで脱いだら不具合を起こしている認識阻害効果も切れ、ベルガに性別も男だとバレてしまい状況的に詰む。
「領主様。怖い……」
「案ずることはないローア。此方のご令嬢を中に案内せよ。丁重にもてなせ」
「……」
ああああぁぁ、、アルノからの冷たい視線が死ぬ程痛い。
(待って!待って聞いて!?俺だって何でこうなってんのか分からないんだよーーー!!)
ロアルドの心の悲鳴が届く訳もなく、軽蔑された現状にがっくりしていると何処からともなくチュリがアルノの側に現れた。
チュリはロアルドに向けて親指を立てウインクするなり、ヒソヒソ話をする様にアルノの耳に何かを囁き始めた。
ロアルドには、二言三言やりとりをしたように見えた。
チュリの姿が俺以外にも見えるんだと感心しながら見守っていると再びアルノと視線が合った。
今度は醒めた瞳じゃなく、どこか呆れた様にも見えなくはないがロアルドの状況を理解してくれたみたいで安堵すると、チュリが傍に戻ってきた。
“ローア。伝言よ、影を使えって”
ロアルドが、こくりと小さく頷くのを見たチュリが誇らしそうにアルノに両手を振っている。
ひらひら手を振るチュリを全力無視するアルノを見ていると、控えめに服の袖を引かれた。
「あ、あの、ご案内します」
金髪ポニーテールの、メイド服を身に纏った少女がロアルドに礼をする。
「ありがとう」
よほど緊張していたのか、ロアルドの言葉に力強く頷くと屋敷の方へ踵を返す。
その後ろをついて行きながらアルノの方を見るが、アルノはもう此方を見てすらいなかった。
それにしても、うちのアルノを縄じゃなく鎖で縛りあげるなんて……
普段、何事にも動じない、屈しないアルノが跪く姿の良さに、うっかり鼻血が出そうになるのを堪えながら、ロアルドはアルノの横に控えている鎧の騎士を見た。
あいつ、やるな。
マジいい仕事する。グッジョブ。俺、今日まだ頑張れそう。
勝手に感謝しながら、当初の目的の通りに屋敷へと侵入を果たしたロアルドだった。
「あ、ありがとうございます」
緊張と作り笑いで顔が痛い。
思いがけず遭遇したベルガ領主に、何故か女と間違われ誘われるまま乗り込んだ馬車は今日一番の地獄だった。
頭のてっぺんからつま先まで舐め回す様な視線には気づかないふりをして、逃げるように窓の外を見ても同じ景色ばかり。
いつの間にかチュリも姿を見せなくなってしまったし、どうしたものかと思いあぐねていると馬車の走る音で誤魔化していた重苦しい沈黙をベルガが破った。
「我に会いに来たのだろう?……隠さずともよい」
いきなり何を言い出すのかと視線を戻せば、自信に満ちた瞳が待ち構えていた。
此方の困惑している反応を肯定と捉えたのか、その表情はとても満足そうで鳥肌が立つ。
(ど、どこから来るのその自信?)
思わず口をついて出そうになった本音を飲み込み、ロアルドは愛想笑いで誤魔化した。
「……友を探しに」
「友?」
「はい。領主様のお屋敷に召し上げられたと聞いて……あの子が行くなら私もと思い追いかけましたが馬車を見失ってしまい徒歩で向かっていました」
「そうか。その者の名はなんと申す?」
「チュリ」
チュリの名前を出してもベルガに変わった様子はなく、もう少し詰めてみるかと口を開きかけた時、外からのノックで馬車が停止している事に気がついた。
「ベルガ様。到着しました」
「あぁ」
ロアルドは打ち切られた会話を少しだけ残念に思いながらベルガに次いで馬車を降りた。
「「おかえりなさいませ」」
辺境伯の住まう屋敷は王都に鎮座する王城に劣らず豪勢な屋敷で、汚れひとつない石畳には1クラス分いるだろう侍従達が領主を出迎える為に整列しており、ベルガが一歩踏み出したと同時に全員が頭を垂れた。
完璧な出迎えの言葉にベルガは片手を上げる。
「ご苦労。不在中、何もなかったか」
「私から一件、ご報告申し上げます」
侍従の列から年配の執事長らしき人物が前に出ると、神妙な面持ちで屋敷の玄関口に目配せをする。
それが合図の様に並んでいた侍従が両脇に避けると鎖で繋がれ地面に座り込んでいる人物と鎧を身に纏った騎士の姿が見えた。
「………!!?」
ロアルドは、誰にも気づかれない様に息を呑む。
心臓が痛いくらい大きく跳ねた。
あの鎖に繋がれているのって……まさか。
「何事だ」
ベルガの問いに、騎士は敬礼をすると手にしていた鎖を引いて、捕らえた男を御前に引き摺り出す。
「はっ!昨日我らの領域に侵入を試みた不審者を捕えました!未だに名前も目的も吐きません」
「む?……その格好……」
訝しむベルガに、ロアルドの肝が冷える。
やーばい。これはまずい。今、まさに自分は捕らえられてるアルノと全く同じ軍服を着ている。
ここで脱いだら不具合を起こしている認識阻害効果も切れ、ベルガに性別も男だとバレてしまい状況的に詰む。
「領主様。怖い……」
「案ずることはないローア。此方のご令嬢を中に案内せよ。丁重にもてなせ」
「……」
ああああぁぁ、、アルノからの冷たい視線が死ぬ程痛い。
(待って!待って聞いて!?俺だって何でこうなってんのか分からないんだよーーー!!)
ロアルドの心の悲鳴が届く訳もなく、軽蔑された現状にがっくりしていると何処からともなくチュリがアルノの側に現れた。
チュリはロアルドに向けて親指を立てウインクするなり、ヒソヒソ話をする様にアルノの耳に何かを囁き始めた。
ロアルドには、二言三言やりとりをしたように見えた。
チュリの姿が俺以外にも見えるんだと感心しながら見守っていると再びアルノと視線が合った。
今度は醒めた瞳じゃなく、どこか呆れた様にも見えなくはないがロアルドの状況を理解してくれたみたいで安堵すると、チュリが傍に戻ってきた。
“ローア。伝言よ、影を使えって”
ロアルドが、こくりと小さく頷くのを見たチュリが誇らしそうにアルノに両手を振っている。
ひらひら手を振るチュリを全力無視するアルノを見ていると、控えめに服の袖を引かれた。
「あ、あの、ご案内します」
金髪ポニーテールの、メイド服を身に纏った少女がロアルドに礼をする。
「ありがとう」
よほど緊張していたのか、ロアルドの言葉に力強く頷くと屋敷の方へ踵を返す。
その後ろをついて行きながらアルノの方を見るが、アルノはもう此方を見てすらいなかった。
それにしても、うちのアルノを縄じゃなく鎖で縛りあげるなんて……
普段、何事にも動じない、屈しないアルノが跪く姿の良さに、うっかり鼻血が出そうになるのを堪えながら、ロアルドはアルノの横に控えている鎧の騎士を見た。
あいつ、やるな。
マジいい仕事する。グッジョブ。俺、今日まだ頑張れそう。
勝手に感謝しながら、当初の目的の通りに屋敷へと侵入を果たしたロアルドだった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する
ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。
夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。
社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。
ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。
「私たち、離婚しましょう」
アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。
どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。
彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。
アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。
こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。
追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発
ハーフのクロエ
ファンタジー
アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。
いつか優しく終わらせてあげるために。
イチイ アキラ
恋愛
初夜の最中。王子は死んだ。
犯人は誰なのか。
妃となった妹を虐げていた姉か。それとも……。
12話くらいからが本編です。そこに至るまでもじっくりお楽しみください。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
お姫様は死に、魔女様は目覚めた
悠十
恋愛
とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。
しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。
そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして……
「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」
姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。
「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」
魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……
【完結】私が愛されるのを見ていなさい
芹澤紗凪
恋愛
虐げられた少女の、最も残酷で最も華麗な復讐劇。(全6話の予定)
公爵家で、天使の仮面を被った義理の妹、ララフィーナに全てを奪われたディディアラ。
絶望の淵で、彼女は一族に伝わる「血縁者の姿と入れ替わる」という特殊能力に目覚める。
ディディアラは、憎き義妹と入れ替わることを決意。
完璧な令嬢として振る舞いながら、自分を陥れた者たちを内側から崩壊させていく。
立場と顔が入れ替わった二人の少女が織りなす、壮絶なダークファンタジー。
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろう、ベリーズカフェにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる