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高校時代のマドンナ
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高校時代のマドンナ
俺、コウジは高校生の頃、水泳部に所属していた。
うちの水泳部には“マドンナ”と呼ばれる同級生・レナがいた。スタイルは抜群で胸も大きく、性格も明るく優しいと評判だった。
レナに惚れていた男子はたくさんいて、俺もその一人だった。
でも、レナの隣にはいつも誰かがいた。野球部のエース、バスケ部のキャプテン……。
そんな強敵たちには敵わないと思った俺は、アプローチすることもできず、ただ同じ部活でレナの水着姿を見られることだけを小さな喜びにしていた。
そんなほろ苦い、いや苦いだけの高校生活が終わった。
それから時が過ぎて、今の俺は33歳の会社員。役職はついているが名ばかり。金はあるが、時間はない。
休日も寝て起きて酒を飲むだけの繰り返し。
そんなある日、同僚が街コンに誘ってきた。彼は彼女探しが目的だったけれど、俺はというと、
「3000円で飲み食いできるならまあいいか」と参加することに。
当日、小綺麗な格好で会場へ。
ぽっちゃり好きな同僚は、すぐに二人組の女性に声をかけた。
俺も後から合流し、近くの喫茶店に入ることになった。
向かい合わせに座ったとき、女性のひとりが小さく「えっ」とつぶやいた。
俺もその顔を見て「……あっ」と声を漏らした。
その女性は、レナだった。
首元のほくろ。間違いない。高校時代、何度も目にした。
だけど目の前のレナは、当時の面影とは違っていた。
「ごめんなさい、ねぇ、こっちの席行こう。邪魔しちゃ悪いから」
そう言ってレナが俺の手を引き、離れた席に移動する。
「ねぇ、なんでここにいるの?」
「そっちこそ……ってか、びっくりだよ」
「コウジくんも彼女探し?」
「えっ……まぁね」
食事目当てとは言えなかった。
「レナちゃんってモテモテだったのに、なんで?」
「ねぇ、聞いてよ。大学卒業してすぐに結婚したの。でもさ、そこから少し太っちゃって。そしたら“もう無理”って言われてさ、浮気されたの」
「……へぇ、そんなことが」
「その後、大学時代の元カレから“やり直そう”って言われて会ってみたけど、やっぱり“違う”って……もう最悪」
確かに容姿は変わっていた。
でも俺の中のレナは、あの頃のまま、明るくてみんなを笑顔にする“マドンナ”だった。
「ねぇ、あそこの焼肉屋でご飯食べようよ。いいでしょ?」
「う、うん。いいよ」
俺は同僚と別れて、レナと二人で焼肉屋へ。
そこでのレナは、見事な食べっぷりだった。
大盛りごはんにカルビ、ロース、牛タン、ハラミ……次々に平らげていく。
「おいしいね。はい、コウジくんの分」
そう言って俺の皿に肉をのせるレナの笑顔に、思わずドキッとする。
かつて声すらかけられなかったレナが、こんなふうに接してくれるなんて、夢みたいだった。
街コンが終わる頃には、レナと連絡先を交換していた。
「コウジくん、今日はありがとう。またご飯行こうね?」
「うん、行こうか」
その夜、レナから電話がかかってきた。
「今日はありがとう。ちょっと聞いてもいい?」
「うん、どうしたの?」
「私さ……こんなに太っちゃって、みんな離れていくんだよ……」
少し泣きそうな声だった。
「俺はなんとも思わないよ。俺にとっては、高校のときのレナちゃんと変わらないよ。
かわいくて、優しくて、笑顔が素敵だよ」
「……ありがとう、ほんとにありがとう。絶対また会おうね?」
「もちろん。俺でよければ、いつでも」
久々に、心が満たされた。
ぐうたらな週末は終わりだ。
よし、明日は久しぶりに市民プールでも行って泳いでくるか。
俺、コウジは高校生の頃、水泳部に所属していた。
うちの水泳部には“マドンナ”と呼ばれる同級生・レナがいた。スタイルは抜群で胸も大きく、性格も明るく優しいと評判だった。
レナに惚れていた男子はたくさんいて、俺もその一人だった。
でも、レナの隣にはいつも誰かがいた。野球部のエース、バスケ部のキャプテン……。
そんな強敵たちには敵わないと思った俺は、アプローチすることもできず、ただ同じ部活でレナの水着姿を見られることだけを小さな喜びにしていた。
そんなほろ苦い、いや苦いだけの高校生活が終わった。
それから時が過ぎて、今の俺は33歳の会社員。役職はついているが名ばかり。金はあるが、時間はない。
休日も寝て起きて酒を飲むだけの繰り返し。
そんなある日、同僚が街コンに誘ってきた。彼は彼女探しが目的だったけれど、俺はというと、
「3000円で飲み食いできるならまあいいか」と参加することに。
当日、小綺麗な格好で会場へ。
ぽっちゃり好きな同僚は、すぐに二人組の女性に声をかけた。
俺も後から合流し、近くの喫茶店に入ることになった。
向かい合わせに座ったとき、女性のひとりが小さく「えっ」とつぶやいた。
俺もその顔を見て「……あっ」と声を漏らした。
その女性は、レナだった。
首元のほくろ。間違いない。高校時代、何度も目にした。
だけど目の前のレナは、当時の面影とは違っていた。
「ごめんなさい、ねぇ、こっちの席行こう。邪魔しちゃ悪いから」
そう言ってレナが俺の手を引き、離れた席に移動する。
「ねぇ、なんでここにいるの?」
「そっちこそ……ってか、びっくりだよ」
「コウジくんも彼女探し?」
「えっ……まぁね」
食事目当てとは言えなかった。
「レナちゃんってモテモテだったのに、なんで?」
「ねぇ、聞いてよ。大学卒業してすぐに結婚したの。でもさ、そこから少し太っちゃって。そしたら“もう無理”って言われてさ、浮気されたの」
「……へぇ、そんなことが」
「その後、大学時代の元カレから“やり直そう”って言われて会ってみたけど、やっぱり“違う”って……もう最悪」
確かに容姿は変わっていた。
でも俺の中のレナは、あの頃のまま、明るくてみんなを笑顔にする“マドンナ”だった。
「ねぇ、あそこの焼肉屋でご飯食べようよ。いいでしょ?」
「う、うん。いいよ」
俺は同僚と別れて、レナと二人で焼肉屋へ。
そこでのレナは、見事な食べっぷりだった。
大盛りごはんにカルビ、ロース、牛タン、ハラミ……次々に平らげていく。
「おいしいね。はい、コウジくんの分」
そう言って俺の皿に肉をのせるレナの笑顔に、思わずドキッとする。
かつて声すらかけられなかったレナが、こんなふうに接してくれるなんて、夢みたいだった。
街コンが終わる頃には、レナと連絡先を交換していた。
「コウジくん、今日はありがとう。またご飯行こうね?」
「うん、行こうか」
その夜、レナから電話がかかってきた。
「今日はありがとう。ちょっと聞いてもいい?」
「うん、どうしたの?」
「私さ……こんなに太っちゃって、みんな離れていくんだよ……」
少し泣きそうな声だった。
「俺はなんとも思わないよ。俺にとっては、高校のときのレナちゃんと変わらないよ。
かわいくて、優しくて、笑顔が素敵だよ」
「……ありがとう、ほんとにありがとう。絶対また会おうね?」
「もちろん。俺でよければ、いつでも」
久々に、心が満たされた。
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よし、明日は久しぶりに市民プールでも行って泳いでくるか。
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