【完結】恋人代行サービス

山田森湖

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第12話「新しいスタート」

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第12話「新しいスタート」

結婚式から一週間が過ぎた。香織の告白という試練を乗り越えた私たちの関係は、以前よりもずっと深いものになっていた。

「美月、今度の週末、僕の母に結婚の挨拶をしに行かない?」

健一がそう提案した時、私は思わずコーヒーカップを落としそうになった。

「結婚の挨拶?」

「うん。君と結婚したいんだ」

健一は真剣な表情で私を見つめていた。

「でも、まだ付き合い始めてそんなに経ってないのに」

「時間の長さは関係ない。僕は君と一生を共にしたい」

胸の奥が熱くなった。

「健一...」

「美月、僕と結婚してくれる?」

正式なプロポーズだった。

涙が溢れそうになったが、同時に不安もよぎった。

「私、健一にふさわしい女性でしょうか」

「何を言ってるんだ。君以上に僕にふさわしい人なんていない」

「でも私の過去は...」

「もうその話はやめよう」健一は私の手を取った。「過去は過去だ。大切なのは今と未来」

私は健一の真剣な眼差しを見つめた。

「はい。健一と結婚したいです」

健一は私を抱きしめた。

「ありがとう、美月。君を幸せにする」

「私も、健一を幸せにします」

週末、私たちは健一の実家を訪れた。お母さんは私たちの報告を聞いて、涙を流して喜んでくれた。

「まあ、本当に?美月さん、息子をよろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

「でも結婚式はいつ頃を予定してるの?」

健一が答えた。

「来年の春頃を考えています」

「それは楽しみね。準備、大変でしょうけど頑張って」

その夜、健一の実家で過ごしながら、私は幸せを噛み締めていた。

でも同時に、まだ解決していない問題もあった。

「健一、私の家族にも紹介したいのですが」

「もちろんだ。いつでも」

「でも、恋人代行の仕事のことは言えないと思います」

健一は理解を示してくれた。

「分かってる。君の判断に任せる」

翌週、私は久しぶりに実家に帰った。両親に健一のことを話すためだった。

「美月、恋人ができたって?」

母が興味深そうに聞いた。

「はい。実は、結婚を考えています」

「結婚?」

父も驚いている。

「お相手はどんな方なの?」

「IT関係の会社を経営している人です。とても優しくて、真面目な人」

私は健一の写真を見せた。

「ハンサムな方ね。美月にはもったいないくらい」

母が冗談めかして言った。

「お仕事の方は順調なの?翻訳の」

父の質問に、少し躊躇した。

「はい、少しずつですが」

恋人代行の仕事のことは、やはり言えなかった。

「近いうちに、彼を紹介したいと思います」

「ぜひお会いしたいわ。いつでも連れてきなさい」

数日後、健一と一緒に実家を訪れた。

「初めまして、高橋健一と申します」

健一は丁寧に挨拶をした。

「こちらこそ。娘がお世話になってます」

父も母も、健一を気に入ってくれたようだった。

「美月のことをよろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

夕食を一緒に取りながら、健一は私の家族に自分のことを話してくれた。仕事のこと、将来のこと、そして私への愛情について。

「美月さんは、本当に素晴らしい女性です。僕が出会った中で一番素敵な人です」

そんな健一の言葉を聞いて、両親も安心してくれたようだった。

帰り道、健一が言った。

「君の両親、とても温かい人たちだね」

「喜んでくれてよかった」

「美月がこんなに素敵なのは、きっと家庭環境のおかげだね」

健一の言葉に、心が温かくなった。

でもその夜、一人でいる時間に、ふと不安がよぎった。

結婚となると、より深い関係になる。健一の友人、同僚、家族との付き合いも増える。その時、私の過去が問題になることはないだろうか。

翌日、由香と久しぶりに会った。

「美月、結婚するって本当?」

「うん。来年の春に」

「おめでとう!でも大丈夫?」

「何がですか?」

「恋人代行の過去とか、バレない?」

由香の心配は、私の不安でもあった。

「分からない。でも健一は受け入れてくれてる」

「健一さんはそうでも、周りの人は?特に健一さんのお母さんとか」

「それは...」

答えられなかった。

「美月、隠し続けるのは大変よ。いっそのこと、結婚前に全部話しちゃった方がいいんじゃない?」

由香の提案に、私は迷った。

「でも、もし受け入れてもらえなかったら」

「その程度の愛情だったってことよ。本当に愛してくれてるなら、過去なんて関係ないでしょう?」

由香の言葉は正しいと思った。でも実行するのは怖かった。

その夜、健一に相談した。

「健一、私たちが結婚したら、私の過去のこと、お母さんや友人たちに話すべきでしょうか」

健一は少し考えてから答えた。

「美月の判断に任せる。でも僕としては、話す必要はないと思う」

「どうしてですか?」

「過去は過去だから。今の美月がすべてだ」

健一の優しさが、ありがたかった。

「でも、もしバレたら」

「その時はその時だ。僕が美月を守る」

その言葉に、安心感を覚えた。

数日後、私は重要な決断をした。

恋人代行をしていた会社の元同僚から、連絡があったのだ。

「美月、久しぶり。元気にしてる?」

「はい、おかげさまで」

「実は相談があるの。新しい子の教育係をやってもらえない?時々でいいから」

「申し訳ありませんが、もうその業界からは完全に足を洗いました」

「そっか。恋人ができたって聞いたけど、本当?」

「はい。来年結婚予定です」

「へー、すごいじゃない。幸せになりなよ」

電話を切った後、私は改めて決意を固めた。

過去とは完全に決別する。新しい人生を始める。

健一との結婚を通して、本当の自分になるのだ。

しかし、過去は時として思わぬ形で現在に影響を与える。

私はまだそのことを知らなかった。

第12話 完
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