【完結】恋人代行サービス

山田森湖

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第26話「新しい命」

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第26話「新しい命」

結婚から一年が過ぎた頃、私の体に変化が現れた。

「おはよう、美月」

健一が声をかけてくれたが、私は洗面所に駆け込んでしまった。

「美月、大丈夫?」

「少し気分が...」

吐き気が止まらなかった。

「風邪かな?病院に行こう」

「いえ、大丈夫です」

でも心の中で、一つの可能性を考えていた。

数日後、一人で産婦人科を訪れた。

「おめでとうございます。妊娠されてますね」

医師の言葉に、涙が溢れた。

「本当ですか?」

「はい。妊娠六週目です」

手に妊娠検査薬の結果を握りしめながら、私は家路についた。

どうやって健一に伝えよう。

夕方、健一が帰ってきた。

「ただいま。美月、体調はどう?」

「おかえりなさい。実は、話があります」

「何?」

私は健一をソファに座らせた。

「健一、私たちに赤ちゃんができました」

健一の表情が止まった。

「赤ちゃん?」

「はい。妊娠しています」

健一は立ち上がって、私を抱きしめた。

「本当?本当に?」

「本当です」

健一の目に涙が浮かんだ。

「ありがとう、美月。ありがとう」

「私こそ、ありがとう」

私たちは抱き合って泣いた。

「いつ頃生まれる予定?」

「来年の春です」

「春か。桜の季節だね」

「はい」

健一は私のお腹にそっと手を当てた。

「まだ分からないけど、確実に命がここにあるんだ」

「不思議ですね」

「僕たちの子供」

その言葉が、とても神聖に聞こえた。

翌日、両家の両親に報告した。

「まあ!本当ですか?」

健一のお母さんが一番喜んでくれた。

「はい。来年の春に生まれる予定です」

「楽しみだわ。久しぶりに赤ちゃんを抱けるのね」

私の両親も大喜びだった。

「美月、体調はどう?」

母が心配してくれた。

「つわりが少しありますが、大丈夫です」

「無理しちゃダメよ」

「はい」

妊娠が分かってから、健一はより一層優しくなった。

「美月、重いものは僕が持つから」

「大丈夫です」

「でも赤ちゃんのことを考えて」

朝のつわりがひどい日は、健一が朝食を作ってくれた。

「美月、これなら食べられる?」

「ありがとう」

健一の不器用な料理も、愛情がこもっていて美味しかった。

妊娠三ヶ月の時、初めての検診で赤ちゃんの心音を聞いた。

「聞こえますか?」

医師がスピーカーから聞こえる音を指した。

「これが?」

「はい、赤ちゃんの心臓の音です」

トクトク、トクトクという小さな音。

私と健一は手を握り合って聞いていた。

「すごいね」

「はい。本当に生きてる」

検診の帰り道、健一が言った。

「美月、君が僕の子供を産んでくれることが、こんなに嬉しいなんて」

「私も幸せです」

「でも心配もある」

「どんな?」

「僕、いい父親になれるかな」

私は健一の手を握った。

「なれますよ。健一はきっと素敵なお父さんになります」

「自信ないよ」

「大丈夫。私たちなら」

妊娠五ヶ月の時、性別が分かった。

「男の子ですね」

医師の言葉に、健一が飛び上がった。

「男の子?」

「はい。元気な男の子です」

「やったね、美月」

「はい」

その夜、赤ちゃんの名前を考えた。

「男の子の名前、何がいいかな」

「健一にちなんで、『健』の字を使いたいです」

「僕の名前から?」

「はい。健康で真っ直ぐ育ってほしいから」

「じゃあ、健太はどうかな」

「健太。いい名前ですね」

「健太か。よろしくな」

健一はお腹に向かって話しかけた。

妊娠七ヶ月の頃、出産準備を始めた。

「ベビー用品、いっぱいあるね」

健一が呆れていた。

「赤ちゃんには色々必要なんです」

「でもこんなに小さい服」

健一は小さなベビー服を手に取った。

「可愛いでしょう?」

「可愛い。本当にこんなに小さいんだ」

ベビーベッドを組み立てながら、健一が言った。

「美月、僕たちの生活、大きく変わるね」

「はい」

「でも楽しみだ」

「私も」

妊娠八ヶ月の時、マタニティフォトを撮った。

「美しいね」

健一が私のお腹を優しく撫でた。

「こんなに大きくなって」

「健太も元気に育ってます」

「早く会いたいな」

「あと一ヶ月ちょっとです」

その頃、私は翻訳の仕事をセーブしていた。

「美月、仕事の方は大丈夫?」

「はい。出産後も続けられるよう、出版社の方と相談してます」

「無理しなくていいからね」

「でも仕事は続けたいんです」

「分かってる。君の夢だからね」

健一は理解してくれていた。

ある夜、健太が激しく動いた。

「わあ」

「どうした?」

「健太が蹴ってる」

健一がお腹に手を当てると、また動いた。

「すごい。本当に蹴ってる」

「お父さんの声が聞こえるのかもしれませんね」

「健太、元気だな」

健一は嬉しそうだった。

「美月、君が僕の子供を産んでくれることが、どれだけ幸せか」

「私も幸せです」

「恋人代行で出会った僕たちが、今こうして家族になろうとしてる」

「運命ですね」

「きっと健太も、運命の子だ」

私はお腹を撫でながら思った。

この子は、私たちの愛の結晶。恋人代行という複雑な始まりから生まれた、純粋な愛の証。

「健太、お父さんもお母さんも、あなたのことをとても楽しみにしてるからね」

お腹の中で、健太が優しく動いた。

まるで返事をしているかのように。

第26話 完
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