【完結】恋人代行サービス

山田森湖

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第27話「出産」

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第27話「出産」

予定日まであと一週間という夜、陣痛が始まった。

「美月、大丈夫?」

夜中に私が起き上がったのに気づいて、健一が声をかけた。

「お腹が痛くて」

「陣痛?」

「たぶん...」

健一は慌てて起き上がった。

「病院に連絡しよう」

産婦人科に電話をして、状況を説明した。

「今すぐ来てくださいとのことです」

「はい」

準備していた入院バッグを持って、私たちは病院へ向かった。

「美月、痛い?」

「波があります」

タクシーの中で、私は健一の手を握っていた。

「頑張って」

「はい」

病院に到着すると、すぐに診察が始まった。

「子宮口が五センチ開いてます。入院しましょう」

医師の判断で、私は陣痛室に入った。

「健一、そばにいてください」

「もちろん」

陣痛の波が来るたびに、私は健一の手を握りしめた。

「痛い」

「頑張って、美月。僕がついてる」

時間が経つにつれて、陣痛は強くなっていく。

「まだですか?」

「もう少しです。子宮口が八センチ開きました」

助産師の言葉に、健一がホッとした表情を見せた。

「美月、もうすぐ健太に会えるよ」

「はい」

でも陣痛の痛みは想像を超えていた。

「痛い、痛い」

「美月、深呼吸して」

健一が背中をさすってくれた。

「僕も一緒に頑張るから」

朝になって、ついに分娩台に移された。

「さあ、いきんでください」

医師の指示に従って、私は必死に力を込めた。

「頑張れ、美月」

健一が私の手を握ってくれていた。

「見えました!頭が見えてます」

助産師の声に、健一が興奮した。

「本当?」

「はい。もう少しです」

「美月、もうすぐだよ」

最後の力を振り絞って、私はいきんだ。

「生まれました!」

赤ちゃんの泣き声が響いた。

「健太?」

「元気な男の子です」

助産師が赤ちゃんを見せてくれた。

小さくて、しわくちゃで、でも確実に生きている。

「健太」

涙が止まらなかった。

「美月、やったね」

健一も泣いていた。

「お疲れさまでした」

医師が私に声をかけてくれた。

「ありがとうございました」

「立派な赤ちゃんですよ。3200グラムです」

しばらくして、清拭を終えた健太が私の胸に置かれた。

「小さい」

「でも重いね」

「命の重さですね」

健太は目をつぶったまま、静かに呼吸していた。

「健太、お母さんだよ」

小さな手が私の指を握った。

「握ってる」

「本能なんですって」

健一も指を差し出すと、健太がそれも握った。

「すごい握力だ」

「元気な証拠ですね」

その日の午後、両家の両親がお見舞いに来てくれた。

「まあ、可愛い」

健一のお母さんが健太を抱っこした。

「健一にそっくりね」

「そうですか?」

「目元がそっくり」

私の両親も感激していた。

「美月、よく頑張ったね」

父が労ってくれた。

「ありがとう」

「健太君、よろしくお願いします」

母が健太に話しかけていた。

夜、健一と二人で健太を見つめていた。

「本当に生まれたんだね」

「はい」

「僕たちの子供」

「三人家族になりました」

健一は私の手を握った。

「美月、出産お疲れさまでした」

「ありがとう」

「君が僕の子供を産んでくれて、こんなに幸せなことはない」

「私も幸せです」

健太が小さく声を出した。

「起きた?」

「お腹が空いたのかもしれません」

初めての授乳は戸惑った。

「こんな感じですか?」

「はい、上手です」

助産師がサポートしてくれた。

健太が私のお乳を飲んでいる姿を見て、母親になった実感が湧いた。

「美月、母親の顔になったね」

健一が優しく言った。

「そうでしょうか?」

「うん。とても美しい」

一週間の入院を経て、私たちは家に帰った。

「我が家へようこそ、健太」

健一が健太に話しかけた。

「これから一緒に暮らそうね」

ベビーベッドに健太を寝かせた。

「小さいベッドに小さい赤ちゃん」

「可愛いですね」

その夜、健太の泣き声で何度も起こされた。

「おむつかな?」

「ミルクかもしれません」

新米パパとママの奮闘が始まった。

「美月、僕にもできることある?」

「おむつ替えお願いします」

「分かった」

健一は不器用ながらも、一生懸命健太の世話をしてくれた。

「健太、お父さんだよ」

健一の声に、健太が反応しているように見えた。

「聞こえてるのかな」

「きっと聞こえてますよ」

三人での生活が始まった。

恋人代行から始まった関係が、今では父と母と子の家族になっている。

こんな日が来るなんて、あの頃は想像もできなかった。

でもすべてが必然だったのかもしれない。

健太を授かるために、私たちは出会ったのかもしれない。

「美月、ありがとう」

「こちらこそ、ありがとう」

健太が眠っている間、私たちは静かに抱き合った。

新しい命と共に、新しい人生が始まった。

第27話 完
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