【完結】恋人代行サービス

山田森湖

文字の大きさ
55 / 60

第55話「人生の節目」

しおりを挟む
第55話「人生の節目」

帰国から一年後、私は六十歳の誕生日を迎えた。人生の大きな節目だった。

「ママ、六十歳のお誕生日おめでとうございます」

健太と美咲が計画してくれたサプライズパーティーで、家族全員が集まっていた。

健一郎と美穂も、手作りのプレゼントを用意してくれていた。

「おばあちゃん、これ」

健一郎が渡してくれたのは、家族の写真を使ったコラージュだった。

「私たちの愛の歴史って書いてあるの」

健一郎が指差した文字は、日本語と英語で書かれていた。

「Our Love Story」

「素敵ね、ありがとう」

美穂は歌をプレゼントしてくれた。

「おばあちゃん、だいすき」のメロディーに、自分で作詞した歌詞を付けて歌ってくれた。

「世界中どこにいても、愛があるから大丈夫
おばあちゃんが教えてくれた、愛の大切さ」

涙が止まらなかった。

「美穂、ありがとう」

健太からは、特別なプレゼントがあった。

「ママ、これを」

手渡されたのは、一冊の写真集だった。

「これは?」

「僕たちの家族の歩みをまとめた写真集です」

ページをめくると、恋人代行時代の私の写真から始まって、健一との出会い、結婚、子供たちの誕生、海外生活、そして現在まで、すべての思い出が詰まっていた。

「どこでこの写真を?」

「ママの昔のアルバムから集めました」

最後のページには、家族全員の寄せ書きがあった。

「ママへ。あなたの愛があったから、今の僕たちがあります。心からありがとう。健太」

「美月さんへ。世界で一番素晴らしいお母さん、そして今では最高のおばあちゃん。美咲」

「おばあちゃんへ。僕の自慢のおばあちゃん。大きくなったら、おばあちゃんみたいに優しい人になりたいです。健一郎」

「おばあちゃんへ。いつもありがとう。美穂も、おばあちゃんみたいに、みんなを愛する人になりたいです。美穂」

そして最後に、健一からのメッセージ。

「美月へ。君と出会えたことが、僕の人生最大の奇跡でした。これからも一緒に、愛の物語を続けていこう。健一」

涙が止まらなかった。

「みんな、ありがとう」

その夜、一人で写真集をゆっくりと見返していた。

恋人代行として働いていた頃の私は、まだ若くて、でもどこか寂しげだった。

健一と出会った頃の写真では、少しずつ表情が明るくなっている。

結婚式の写真では、心から幸せそうに笑っていた。

健太を抱いている写真、美咲が生まれた時の写真。

アメリカでの家族写真、ドイツでの思い出、シンガポールでの成長。

そして現在の、三世代での幸せそうな写真。

人生の軌跡が、写真という形で記録されていた。

「美月、どうだった?」

健一が部屋に入ってきた。

「素晴らしい贈り物でした」

「健太のアイデアなんだ」

「良い息子に育ちました」

「君の子育てのおかげだ」

健一は私の隣に座った。

「美月、六十年の人生、満足してる?」

「とても満足しています」

「後悔はない?」

「全くありません。すべてが必要な経験でした」

私は写真集の最初のページを見た。

「恋人代行をしていた頃も、今思えば必要な時間でした」

「どうして?」

「あの経験があったから、本当の愛の価値が分かりました」

「そうだね」

「そして健一と出会えました」

健一は私の手を取った。

「僕も同じ気持ちだ。すべてが君との出会いに繋がっていた」

窓の外を見ると、満月が美しく輝いていた。

「健一、これからの人生はどうなるでしょうね」

「分からないけど、君と一緒なら何でも楽しみだ」

「孫たちの成長も楽しみです」

「そうだね。健一郎と美穂がどんな大人になるか」

「きっと素晴らしい人になりますよ」

数日後、私は講演会で六十歳を迎えた感想を話していた。

「六十歳になって思うことは、人生に無駄な経験はないということです」

聴衆の皆さんが真剣に聞いてくれていた。

「私は二十代の頃、恋人代行という仕事をしていました」

「その頃は、自分の人生に誇りを持てませんでした」

「でもその経験があったからこそ、本当の愛に出会えました」

「そして今、こんなに豊かな家族を築くことができました」

質疑応答の時間で、若い女性が手を挙げた。

「私も今、自分の人生に自信が持てません。どうしたらいいでしょうか?」

「まず、自分を責めることをやめてください」

「でも...」

「あなたの今の経験も、きっと将来の幸せに繋がります」

「本当にそう思えますか?」

「私がその証明です。どんな過去があっても、愛は必ずやってきます」

女性の目に希望の光が宿った。

「ありがとうございます」

このような出会いが、私の使命だった。

六十歳という節目を迎えて、私は改めて人生の意味を考えていた。

恋人代行から始まった愛の物語は、今では多くの人に希望を与える物語になった。

そして孫たちという新しい世代に、愛の大切さを伝えている。

これが私の人生の意味だった。

愛を育て、愛を伝え、愛を広げること。

それこそが、人生で最も大切な仕事だった。

第55話 完
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

熟女教師に何度も迫られて…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
二度と味わえない体験をした実話中心のショート・ショート集です

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)その後

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合つまた。 その後、大学を卒業した祐輔(ユウスケ)の新たなストーリーが始まった。 全15話を予定

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

25年目の真実

yuzu
ミステリー
結婚して25年。娘1人、夫婦2人の3人家族で幸せ……の筈だった。 明かされた真実に戸惑いながらも、愛を取り戻す夫婦の話。

罪悪と愛情

暦海
恋愛
 地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。  だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

処理中です...