ひとつの恋、いくつもの物語【学生純愛短編集】

山田森湖

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制服を着たまま、さよならを言った

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制服を着たまま、さよならを言った


卒業式の日、校舎の空気はいつもと違っていた。
花の匂いと、胸の奥に広がる寂しさ。
泣いている子も、笑っている子もいて、私はそのどちらにもなれなかった。

だって、心にひとつだけ、どうしても終わらせなきゃいけない恋があったから。

体育館からみんなが出ていく中、私はスカートの裾を握りしめ、勇気を出して歩き出した。
向かったのは校舎裏。
人の気配のないその場所に、彼はちゃんと待っていてくれた。

「……来てくれたんだな」

制服のまま立っている彼。
冬の冷たい風に前髪が揺れて、どこか大人っぽく見えた。
その姿に胸が痛くなる。

「最後だから、ちゃんと……言おうと思って」

声が震えていた。
彼は静かに頷いて、私を見つめてくれる。
その眼差しに、何度も恋をして、何度も苦しんだ。

本当は付き合っているわけじゃない。
ただ、誰にも言えない気持ちを心の中で育ててきただけ。
でも、今日で制服を脱いだら、もうここに戻れない。

「……私、ずっと、あなたが好きでした」

涙が溢れそうになった瞬間、彼の手がそっと私の肩を抱いた。
温かさが、制服越しに伝わる。
その優しさに甘えたくて、思わず胸に顔をうずめてしまった。

「俺も……本当は、好きだった」
耳元で囁かれた声に、全身が震えた。

次の瞬間、唇が重なった。
校舎裏の冷たい壁と、彼の体温に挟まれるようにして、制服のまま初めてのキスをした。

甘くて、苦しくて、どうしようもなく愛しかった。
でも、同時にわかっていた。
このキスが、最初で最後だということを。

「……ありがとう」
唇が離れたあと、彼はそう言って、笑った。
涙をこらえながらも、笑っていた。

私も笑わなきゃいけないのに、どうしても涙が止まらなかった。

制服の袖口を握りしめながら、私はもう一度だけ言った。
「さよなら」

校舎裏の風が冷たく吹き抜けて、私たちを引き離していく。
けれど、その一瞬の温もりは、一生消えない。

──制服を着たまま交わしたキス。
あの日の“さよなら”は、私の一番大切な記憶になった。
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