ひとつの恋、いくつもの物語【学生純愛短編集】

山田森湖

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好きな人の悪口を言ったら、隣で笑ってた幼なじみが本気で怒った

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好きな人の悪口を言ったら、隣で笑ってた幼なじみが本気で怒った


 放課後の教室は、夕陽が差し込んでオレンジ色に染まっていた。
 私は、机に突っ伏したまま小さく唸る。

「……はぁ……終わった。完全に終わった……」

「なにが終わったの?」

 隣から、呑気な声。
 幼なじみの ハル が、ストローをくわえたままアイスコーヒーを吸っていた。

「なにって……告白だよ」

「え、したの?」

「したよ! あんたのせいで!」

「俺のせいなの?」

 呑気に笑ってるハルにイラっとする。

「昨日さ、背中押したのあんたでしょ。“おまえならいけるって”とか言って」

「あー……言った気がする」

「気がするじゃない!!」

 机を叩いて立ち上がると、ハルは肩をすくめて笑った。

「で、どうだったわけ?」

「振られたよ!!」

 思い出すだけで胸が痛む。
 好きだった先輩は、「ごめんね」と優しい顔で言ってくれた。
 優しくされればされるほど、余計に刺さる。

「しかもさ……思ってたよりチャラかった!!」

 口が勝手に動く。
 やけになっていた。

「いつも優しいと思ってたのに、女の子と話すときだけ声違うし! 髪もセットばっちりで! なんか……なんか……!」

 涙まじりの声になりながら、私は続けた。

「――あんな奴、告白しなきゃよかった!」

 その瞬間だった。

 ガタン、と隣の椅子の音が響いた。

 ハルが立っていた。
 いつも笑ってる目が、まっすぐ私を射抜くみたいに鋭かった。

「……そんなこと言うなよ」

「……え?」

「おまえが好きだった相手を、そんなふうに言うな。自分を否定してるみたいだろ」

 怒っていた。
 本気の怒りだった。

 胸の奥が、ぐっと掴まれた感覚がした。

「ハル……なんでそんな……」

「なんでって……」

 ハルは言いかけて、口を閉じる。
 でも、その拳は震えていた。

「おまえが泣いてるの、見たくなかったんだよ」

 ──心臓が跳ねた。

 それは、ただの幼なじみの言い方じゃなかった。

 私が固まっていると、ハルは少し目を逸らし、深く息をついた。

「……悪かった。怒鳴る気はなかった」

「ううん……いい」

 胸が熱い。
 どうしてか涙が止まらない。

「泣くなよ……ほら」

 ハルの手が、私の頬に触れる。
 指が優しく涙を拭っていく。

 近い。
 ドキドキなんて軽い言葉じゃ足りない。

「ハル……」

「おまえさ」

 指先が、頬から顎にそっと滑る。

「誰のことで泣いてんのか、自覚しろよ」

 唇が触れそうな距離。
 私は息を呑む。

「なあ……まだあいつのこと好きなの?」

 震える声で私は首を横に振った。

「……わかんない。でも……」

「でも?」

 顔が近い。
 夕陽に照らされたハルの目が、私をまっすぐ映している。

「……ハルが怒ったの、初めてで……胸が、苦しくて……」

「それは」

 ハルの手が、私の腰に触れる。
 そのまま、そっと引き寄せられた。

「俺のこと、好きってことだよ」

 唇が重なった。

 最初は触れるだけのキス。
 でも私が少し身体を預けると、ハルの腕がぎゅっと私を抱きしめた。

「……ん……っ」

 教室で、放課後に。
 誰もいない空間に、キスの音がこぼれる。

 ハルの舌が、私の唇をそっとなぞる。
 胸が熱くて、息がしにくい。

「……いやだったら止める」

「いやじゃない……」

 私がそう言った瞬間、ハルは優しく深く口づけてきた。
 舌が触れ合って、身体が震える。

「……ずっと、言えなかったんだよ」

 息を荒くしながら、ハルが耳元で囁く。

「おまえが先輩見つめるたびに、胸が苦しかった」

「ハル……」

「でもさ。今日、おまえが泣いて……俺、我慢できなくなった」

 腕の力が強くなる。
 抱きしめられたまま、私の背中を撫でる指先が、甘くて切なくて。

 気づいたら私は、ハルの胸に顔を埋めていた。

「……好き。たぶん……いや、きっと……」

「言えよ」

 ハルが、私の顎を軽く持ち上げる。
 優しい目で、でも逃がさない目で、私を見つめていた。

「言わないと、キスする」

「……すぐキスしようとする」

「じゃあ言わせてよ」

 ちょっと笑ってしまう。
 涙と笑いが混ざって、胸の奥があたたかくなる。

「……好き。ハルが……一番好き」

 その瞬間。

「……っ、もう一回言って」

「何回も言わない!」

「いや、言え。言わないと――」

「はいはい、好き! ハルが!」

 言った瞬間、また強く抱きしめられた。

 そして、私の首筋に甘いキスが落ちる。

「……っ、ハル……っ」

「大丈夫。誰も来ない」

 夕陽の残る教室で、私はハルの腕の中に溶けていく。

 ──こんなふうに恋が始まるなんて、思ってもいなかった。

 悪口なんて、もう言わない。
 私を守ってくれるのは、ずっとそばにいた幼なじみなんだから。

「……これからは、泣くなら俺の胸で泣けよ」

「うん……」

「笑うのも、怒るのも、喜ぶのも……全部俺の前でやれ」

「……重い」

「重くていい。彼氏なんだから」

 照れながらも、しっかりと言い切ってくれたハルの言葉に、胸がきゅっとなる。

 ──私は今日、幼なじみに恋をした。

 そして、幼なじみに恋をされた。

 そんな放課後だった。
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