ひとつの恋、いくつもの物語【学生純愛短編集】

山田森湖

文字の大きさ
120 / 151

嫌いな先生に呼び出されたら、好きな人も一緒だった

しおりを挟む
嫌いな先生に呼び出されたら、好きな人も一緒だった


 私は、担任の 黒川先生 が大嫌いだ。
 厳しいし、冗談通じないし、すぐに目をつけてくるし。

 だから、放課後の廊下で名前を呼ばれたとき、心臓がズキッと痛んだ。

「——二人とも、放課後、教室に来なさい。話がある」

 “二人とも” のもう一人は、
 私が密かに好きで、ずっと意識してきた男子、 蓮(れん) だった。

 黒川先生の不機嫌な声と、蓮の一瞬だけ見せた「えっ?」という表情。
 その両方に私は胸をざわつかせた。

 どうして蓮まで?
 しかも私と一緒に呼び出されるなんて。

 その瞬間だけは、先生への嫌悪よりも、蓮への意識のほうが勝ってしまった。

 放課後の教室。
 夕方の光が斜めに差し込み、黒板がオレンジ色に染まっている。

 私と蓮は前後の席に座らされていた。

「最近、お前たち二人、提出物が遅れているだろう。
 生活態度の面でも、少し緩みが見られる」

 黒川先生の説教は相変わらず長い。
 でも私はほとんど耳に入ってこない。

(蓮が、近い……)

 前の席の背中越しに彼の存在を感じるだけで、心臓が落ち着かなくなる。

 黒川先生はさらに長い説教を続けたあと、

「今日は反省文を書いて帰れ」

 とだけ言って職員室へ戻っていった。

 ドアが閉まった瞬間、教室が急に静かになった。

 私と蓮だけ。

 誰もいない教室に、夕陽と、二人分の息遣いだけ。

「……最悪だったな、今の」

 蓮がくるっと振り向いた。
 その笑顔に、思わず胸が高鳴る。

「ごめん、巻き込んだみたいで」

「え? いや、私が遅れたから……」

「俺も遅れたから同罪。黒川まじで怖いよな」

「ほんと、それ。私、黒川先生ほんと嫌い……」

 蓮が笑った。
 その表情が、どこか安心したみたいに見えて、ますます意識してしまう。

 反省文を書こうとすると、蓮が隣の席に移動してきた。

「ねぇ、一緒に書かね?」

 机を寄せながら、少し照れたように目を伏せる蓮。

 こんなの、意識するなってほうが無理だ。

「……いいよ」

 机が触れ合い、肩がそっと重なる。
 ただそれだけで、体温が跳ね上がる。

 沈黙。
 鉛筆を走らせる音だけが響く教室。

 ふと、蓮が小さく笑った。

「今日、二人で呼び出された時さ——
 ちょっと嬉しかった」

「え、なんで?」

 私が顔を上げると、蓮は少しだけ目を逸らしながら言った。

「……一緒に帰れるかな、って思ったから」

 その言葉に、胸が一気に熱くなる。

「な、なんで……?」

「なんでって……好きだからに決まってんじゃん」

 あまりにも自然に言われて、頭が真っ白になった。

「っ……」

 声が出ない。

 そんな私を見て、蓮が柔らかく笑う。

「黒川に呼び出されたときも……
 “二人で良かった” って思った」

 耳まで熱くなる。
 大嫌いな黒川先生に、ちょっとだけ感謝してしまった。

「……私も、嬉しかったよ。蓮が一緒で」

「ほんと?」

「うん……だって、蓮のこと……」

 言いかけた瞬間、蓮の手がそっと触れた。

「言わなくていいよ」

 その手が私の指を絡め取る。

「顔見ればわかるから」

「……蓮」

 気づけば、身体が近づいていた。
 蓮の吐息がかかる距離。

「キスしていい?」

 聞く前に、もう唇が触れていた。

「……ん……」

 柔らかくて、甘い。
 だけど次第に深くなっていく。

 蓮の手が、私の腰に回る。
 制服越しでも熱が伝わってくる。

「ずっと……こうしたかった」

 耳元で囁かれた声に、全身が震える。

「黒川が去ってくれてよかった……邪魔だよな、あいつ」

「……蓮、そんなこと言っちゃ……」

「だって、二人きりになった瞬間から我慢してた」

 蓮の指が、背中をなぞる。
 身体が反応してしまう。

「……もっと近く来て」

 腕を引かれ、膝の上に座らされた。

「きゃっ……」

「大丈夫。俺しか見てないから」

 キスがまた落ちてくる。
 さっきより激しく、熱を帯びて。

「蓮……誰か来ちゃう……」

「来ないよ。鍵閉めた」

「えっ、いつ!?」

 蓮はいたずらっぽく笑い、私の髪を撫でる。

「反省文より、こっちのほうが大事だと思ったから」

「……もう、蓮ってば……」

 でも、拒否する気なんてなかった。

 蓮の手が、そっと太ももを撫でる。
 制服のスカート越しでも、触れられた場所が熱くなる。

「好きだよ……」

 その言葉だけで、力が抜けてしまう。

「俺と、付き合って?」

「……うん。付き合いたい」

 言った瞬間、蓮が嬉しそうに抱きしめてくれた。

「よかった……」

 その抱擁の中で、私は夕陽を見た。
 オレンジ色の光の中、蓮の温もりだけが全部だった。

「黒川先生、嫌いだけど……
 今日だけは、ちょっとだけ感謝してもいいかな」

 そうつぶやくと、蓮が笑ってまたキスしてきた。

「じゃあ——
 これからは俺が、放課後呼び出すから」

「……やだ、それ絶対変な意味じゃん」

「変な意味だけど?」

「蓮っ……!」

 からかわれながら、抱きしめられながら。
 私たちは、放課後の教室で恋人になった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

夫婦交錯

山田森湖
恋愛
同じマンションの隣の部屋の同い年の夫婦。思いの交錯、運命かそれとも・・・・。 少しアダルトなラブコメ

処理中です...