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掃除当番で残った二人
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掃除当番で残った二人
チャイムが鳴り終わって、教室のざわめきが廊下へ流れ出していった。
放課後の空気って、なんでこんなにほっとするんだろう。部活へ急ぐやつ、友達と帰る約束をする声、誰かの笑い声。そんな喧騒が遠ざかるたびに、教室はゆっくりと静けさを取り戻していく。
俺――篠原は、黒板の前でため息をついた。
「……今日、掃除当番だったわ」
誰も戻ってくる気配は当然ない。
名簿の掃除当番欄に、俺と――もう一人、佐伯紬の名前。
でも彼女は遅刻も早退も多い。今日もいないだろうと思っていた。
雑巾を手に取ったところで、教室の扉がガラッと開いた。
「あ、篠原くん。ごめん、遅くなった」
小走りで入ってきたのは佐伯だった。
肩までのゆるい髪を揺らしながら、息を整えている。その姿が、なんだか小動物みたいで、思わず目で追ってしまう。
「来ると思ってなかった」
「今日こそはちゃんと来ようって思ってたの。ほら、掃除当番サボりすぎると、目つけられるし」
そう笑った彼女は、教室の光の中で少しだけ頬を赤くしていた。
なんでだろう。
その笑顔が、胸に刺さるほど可愛かった。
俺たちは黙々と掃除を始めた。
黒板を消す音。机を移動させる木の脚の擦れる音。
だんだん、外の足音も少なくなり、教室には俺たちの気配しかなくなる。
静かだ。
なのに、不思議と居心地が悪くない。
「ねえ、篠原くん」
ほうきで前の列を掃いていた佐伯が、小さく声をかけてきた。
「なんかさ……この時間って、特別じゃない?」
「特別?」
「うん。放課後なのに、まだ学校に残ってて、誰もいなくて……ちょっと秘密基地みたいじゃない?」
秘密基地。
たしかに、そう言われてみると、そうかもしれない。
「篠原くんと二人きりっていうのも、なんか……不思議だけどね」
言いながら、佐伯は俺の方をちらっと見る。
その一瞬の目線に、まるで心臓を直接撫でられたみたいにざわついた。
「俺と二人じゃ、嫌だった?」
「ううん。……むしろ、ちょっと嬉しい」
彼女は掃除を続けながら、ぽつりと続けた。
「篠原くんって、静かだけど、優しいじゃん。教室で困ってる子いたらいつも気づくし。そんなとこ、すごくいいなって前から思ってた」
胸の奥が、じん、と熱くなった。
俺なんか、誰にも印象に残らないと思ってた。
「……そんなふうに見てたんだ」
「見てたよ? 教室の隅から、こっそりね」
冗談みたいに言うくせに、耳がほんのり赤いのを俺は見逃さなかった。
気づけば、机は全部整え終わっていた。
放課後の光が差し込み、教室はゆっくり夕方に染まり始めている。
「ねえ、篠原くん」
佐伯が、雑巾を絞った手を胸に当てながら、まっすぐ俺を見る。
「私ね……この掃除の時間、けっこう好きなんだ」
「……そうなんだ」
「だって……篠原くんと二人きりだから」
言葉が止まった。
心臓が跳ね上がった音まで聞こえそうだった。
「だから、その……今日も来たの。ほんとは部活休みだったから、家に帰ろうと思ってたけど、どうしても来たくて」
「なんで?」
自分でも驚くほど素直な声が出た。
彼女は、すこし勇気を振り絞るように息を吸い込んで、
そして――
「私、篠原くんのこと……好きなんだと思う」
静まり返った教室に、彼女の声だけが落ちていく。
その瞬間、外の夕日が窓から差し込み、佐伯の横顔を淡いオレンジに染めた。
俺は気づいた。
初めて掃除当番で一緒になったあの日から、
俺も彼女を目で追うようになっていたことに。
「……俺も、佐伯といる時間が好きだった」
言葉にすると、胸の奥のもやが一気に晴れたようだった。
「誰もいない教室で、佐伯としゃべってる時間……ずっと続けばいいって思ってた」
佐伯は目を丸くして、
やがて、ゆっくりと、笑った。
「じゃあ……これからも一緒にいてくれる?」
「うん。もちろん」
気づけば、お互い自然に近くへ歩み寄っていた。
手の甲と手の甲がふれる。
それだけなのに、体中が熱い。
「掃除当番……悪くないね」
「むしろ最高かも」
結局、その日俺たちは、返却したほうきを手にしたまま、しばらく夕日の中で話し続けた。
机を並べる音が、二人の距離を近づけた。
静かな教室が、二人の秘密基地になった。
そして――
放課後の掃除当番は、
俺たちの恋が始まった場所になった。
チャイムが鳴り終わって、教室のざわめきが廊下へ流れ出していった。
放課後の空気って、なんでこんなにほっとするんだろう。部活へ急ぐやつ、友達と帰る約束をする声、誰かの笑い声。そんな喧騒が遠ざかるたびに、教室はゆっくりと静けさを取り戻していく。
俺――篠原は、黒板の前でため息をついた。
「……今日、掃除当番だったわ」
誰も戻ってくる気配は当然ない。
名簿の掃除当番欄に、俺と――もう一人、佐伯紬の名前。
でも彼女は遅刻も早退も多い。今日もいないだろうと思っていた。
雑巾を手に取ったところで、教室の扉がガラッと開いた。
「あ、篠原くん。ごめん、遅くなった」
小走りで入ってきたのは佐伯だった。
肩までのゆるい髪を揺らしながら、息を整えている。その姿が、なんだか小動物みたいで、思わず目で追ってしまう。
「来ると思ってなかった」
「今日こそはちゃんと来ようって思ってたの。ほら、掃除当番サボりすぎると、目つけられるし」
そう笑った彼女は、教室の光の中で少しだけ頬を赤くしていた。
なんでだろう。
その笑顔が、胸に刺さるほど可愛かった。
俺たちは黙々と掃除を始めた。
黒板を消す音。机を移動させる木の脚の擦れる音。
だんだん、外の足音も少なくなり、教室には俺たちの気配しかなくなる。
静かだ。
なのに、不思議と居心地が悪くない。
「ねえ、篠原くん」
ほうきで前の列を掃いていた佐伯が、小さく声をかけてきた。
「なんかさ……この時間って、特別じゃない?」
「特別?」
「うん。放課後なのに、まだ学校に残ってて、誰もいなくて……ちょっと秘密基地みたいじゃない?」
秘密基地。
たしかに、そう言われてみると、そうかもしれない。
「篠原くんと二人きりっていうのも、なんか……不思議だけどね」
言いながら、佐伯は俺の方をちらっと見る。
その一瞬の目線に、まるで心臓を直接撫でられたみたいにざわついた。
「俺と二人じゃ、嫌だった?」
「ううん。……むしろ、ちょっと嬉しい」
彼女は掃除を続けながら、ぽつりと続けた。
「篠原くんって、静かだけど、優しいじゃん。教室で困ってる子いたらいつも気づくし。そんなとこ、すごくいいなって前から思ってた」
胸の奥が、じん、と熱くなった。
俺なんか、誰にも印象に残らないと思ってた。
「……そんなふうに見てたんだ」
「見てたよ? 教室の隅から、こっそりね」
冗談みたいに言うくせに、耳がほんのり赤いのを俺は見逃さなかった。
気づけば、机は全部整え終わっていた。
放課後の光が差し込み、教室はゆっくり夕方に染まり始めている。
「ねえ、篠原くん」
佐伯が、雑巾を絞った手を胸に当てながら、まっすぐ俺を見る。
「私ね……この掃除の時間、けっこう好きなんだ」
「……そうなんだ」
「だって……篠原くんと二人きりだから」
言葉が止まった。
心臓が跳ね上がった音まで聞こえそうだった。
「だから、その……今日も来たの。ほんとは部活休みだったから、家に帰ろうと思ってたけど、どうしても来たくて」
「なんで?」
自分でも驚くほど素直な声が出た。
彼女は、すこし勇気を振り絞るように息を吸い込んで、
そして――
「私、篠原くんのこと……好きなんだと思う」
静まり返った教室に、彼女の声だけが落ちていく。
その瞬間、外の夕日が窓から差し込み、佐伯の横顔を淡いオレンジに染めた。
俺は気づいた。
初めて掃除当番で一緒になったあの日から、
俺も彼女を目で追うようになっていたことに。
「……俺も、佐伯といる時間が好きだった」
言葉にすると、胸の奥のもやが一気に晴れたようだった。
「誰もいない教室で、佐伯としゃべってる時間……ずっと続けばいいって思ってた」
佐伯は目を丸くして、
やがて、ゆっくりと、笑った。
「じゃあ……これからも一緒にいてくれる?」
「うん。もちろん」
気づけば、お互い自然に近くへ歩み寄っていた。
手の甲と手の甲がふれる。
それだけなのに、体中が熱い。
「掃除当番……悪くないね」
「むしろ最高かも」
結局、その日俺たちは、返却したほうきを手にしたまま、しばらく夕日の中で話し続けた。
机を並べる音が、二人の距離を近づけた。
静かな教室が、二人の秘密基地になった。
そして――
放課後の掃除当番は、
俺たちの恋が始まった場所になった。
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