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落とし物の“持ち主不明ラブレター”が、実は自分宛てだった
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落とし物の“持ち主不明ラブレター”が、実は自分宛てだった
それを拾ったのは、昼休みの講義棟の階段だった。
白い封筒。差出人も宛名もない。落とし物としては、いちばん困る種類。
中を見たのは、正直に言えば好奇心だ。
——「あなたの歩く癖が好きです。
人の前では平気な顔をするのに、独りになると少し肩が落ちるところも。」
一行目で、足が止まった。
二行目で、胸が詰まった。
それ、私しか知らない。
少なくとも、そう思っていた。
「……気持ち悪い、のに」
読み進める指が止まらない。
——「コーヒーはブラックって言うけど、砂糖を入れる日は、たぶん疲れてる日。」
図星。
誰かが私を見ている。その事実が、怖いはずなのに、温かい。
落とし物カウンターに出すべきだと頭では分かっていた。
でも、その日は封筒をバッグにしまった。
翌日。
また同じ階段。
落ちていたのは、今度はメモ一枚。
——「昨日の続きを、読んでほしい。」
心臓が跳ねる。
返事を書くつもりなんてなかったのに、講義ノートの端に、私は文字を書いていた。
〈誰ですか〉
それを、階段の手すりの影に挟む。
ばかみたい。でも、やめられない。
夕方、そこに返事があった。
——「名前を書く勇気が、まだない。」
“まだ”。
つまり、いつかは書くつもりがある。
三日間、やり取りが続いた。
短い文章。ささやかな観察。
どれも、私の輪郭をなぞるみたいに正確だった。
ある一文で、確信する。
——「小さい頃、迷子になった時、あなたは泣かなかった。」
知っているのは、ひとりだけ。
幼なじみの、彼。
大学で再会してからも、特別に話すことはなかった。
近すぎて、遠い存在。
〈……もしかして〉
〈うん〉
それだけで、全部伝わった。
夜、キャンパスのベンチ。
彼は先に座っていた。
「名前、書けなかった」
照れたように笑う。
昔と同じ表情。
「私宛てなら、最初から言えばよかったのに」
「言えなかった。
幼なじみのまま、壊れそうで」
距離は、腕一本分。
触れないのに、意識が集中する。
「じゃあ」
私は一歩、近づく。
「今ここで、名前言って」
彼が、私の名前を呼ぶ。
低く、はっきりと。
それだけで、体の奥が熱くなる。
「気持ちは?」
「……本物」
視線が絡む。
逃げ場がない。
「ラブレター、返すね」
私は封筒を差し出す代わりに、彼の手を取った。
指先が、少し震えている。
「返事は、これ」
触れた手のひらが、ゆっくり温度を上げる。
「落とし物、拾ってくれてありがとう」
彼の声が、近い。
「拾わなかったら?」
「……たぶん、もっと臆病だった」
夜風が吹く。
ベンチの影が、ひとつに重なる。
恋は、最初からそこにあった。
ただ、名前が書けなかっただけ。
それを拾ったのは、昼休みの講義棟の階段だった。
白い封筒。差出人も宛名もない。落とし物としては、いちばん困る種類。
中を見たのは、正直に言えば好奇心だ。
——「あなたの歩く癖が好きです。
人の前では平気な顔をするのに、独りになると少し肩が落ちるところも。」
一行目で、足が止まった。
二行目で、胸が詰まった。
それ、私しか知らない。
少なくとも、そう思っていた。
「……気持ち悪い、のに」
読み進める指が止まらない。
——「コーヒーはブラックって言うけど、砂糖を入れる日は、たぶん疲れてる日。」
図星。
誰かが私を見ている。その事実が、怖いはずなのに、温かい。
落とし物カウンターに出すべきだと頭では分かっていた。
でも、その日は封筒をバッグにしまった。
翌日。
また同じ階段。
落ちていたのは、今度はメモ一枚。
——「昨日の続きを、読んでほしい。」
心臓が跳ねる。
返事を書くつもりなんてなかったのに、講義ノートの端に、私は文字を書いていた。
〈誰ですか〉
それを、階段の手すりの影に挟む。
ばかみたい。でも、やめられない。
夕方、そこに返事があった。
——「名前を書く勇気が、まだない。」
“まだ”。
つまり、いつかは書くつもりがある。
三日間、やり取りが続いた。
短い文章。ささやかな観察。
どれも、私の輪郭をなぞるみたいに正確だった。
ある一文で、確信する。
——「小さい頃、迷子になった時、あなたは泣かなかった。」
知っているのは、ひとりだけ。
幼なじみの、彼。
大学で再会してからも、特別に話すことはなかった。
近すぎて、遠い存在。
〈……もしかして〉
〈うん〉
それだけで、全部伝わった。
夜、キャンパスのベンチ。
彼は先に座っていた。
「名前、書けなかった」
照れたように笑う。
昔と同じ表情。
「私宛てなら、最初から言えばよかったのに」
「言えなかった。
幼なじみのまま、壊れそうで」
距離は、腕一本分。
触れないのに、意識が集中する。
「じゃあ」
私は一歩、近づく。
「今ここで、名前言って」
彼が、私の名前を呼ぶ。
低く、はっきりと。
それだけで、体の奥が熱くなる。
「気持ちは?」
「……本物」
視線が絡む。
逃げ場がない。
「ラブレター、返すね」
私は封筒を差し出す代わりに、彼の手を取った。
指先が、少し震えている。
「返事は、これ」
触れた手のひらが、ゆっくり温度を上げる。
「落とし物、拾ってくれてありがとう」
彼の声が、近い。
「拾わなかったら?」
「……たぶん、もっと臆病だった」
夜風が吹く。
ベンチの影が、ひとつに重なる。
恋は、最初からそこにあった。
ただ、名前が書けなかっただけ。
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