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落とし物のスマホを拾ったら、ロック画面が自分の写真だった
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落とし物のスマホを拾ったら、ロック画面が自分の写真だった
それに気づいたのは、夕方の学内カフェテリアだった。
トレーを返却口に置こうとしたとき、椅子の下に黒いスマホが落ちているのが目に入った。
「……落とし物?」
画面は伏せられていたけれど、電源ボタンに触れた瞬間、ロック画面が点灯して、私は息を呑んだ。
そこに映っていたのは――
紛れもなく、私の後ろ姿だった。
大学構内の並木道。
少し風に揺れる髪。
肩にかけたトートバッグ。
自分でも気づかなかった、歩いているときの癖。
写真は、遠くから望遠で撮られたような距離感で、
でも不思議と、悪意は感じなかった。
……むしろ、
大切にされているような、そんな雰囲気。
「え……?」
心臓が早鐘を打つ。
知らないうちに撮られていた、という事実に怖さがないわけじゃない。
でも、それ以上に、胸の奥がざわついて仕方なかった。
学生証で持ち主を確認すると、
同じ学部の男子学生――佐久間 恒一。
顔を思い浮かべて、私はさらに驚いた。
目立たない。
講義でも、グループワークでも、ほとんど話さない。
名前を呼んだ記憶すら、数えるほどしかない人。
「……あの人、が?」
その日の講義が終わるまで、私はスマホをカバンに入れたまま、ずっと落ち着かなかった。
連絡先は、ロック解除ができないから分からない。
仕方なく、翌日、学部の掲示板前で彼を待った。
「……佐久間くん」
声をかけると、彼は一瞬、驚いたように目を見開いた。
「あ……えっと……」
「これ、落としたよね」
スマホを差し出した瞬間、
彼の顔色が、みるみる変わった。
青くなって、
次に赤くなって、
最後は、諦めたみたいに、深く息を吐いた。
「……見た?」
私は、正直に頷いた。
「ロック画面。……私、だった」
沈黙。
逃げ出されるかと思った。
でも、彼は俯いたまま、小さく言った。
「……ごめん。
気持ち悪いよね」
「……どうして?」
問い詰めるつもりはなかった。
ただ、知りたかった。
彼は、しばらく迷ってから、ゆっくり言葉を選ぶように話し始めた。
「入学式の日。
人混みで、君が迷ってるの、見かけて」
その日、私は確かに道に迷っていた。
スマホを見ながら、立ち止まっていた。
「声、かけようと思ったけど……
勇気、出なくて」
代わりに、
遠くから、写真を撮った。
それだけ。
それ以上は、何もしなかった。
「消そうと思った。
でも……消せなかった」
「……好き、だったから?」
私の言葉に、彼は小さく頷いた。
「好きすぎて。
でも、話す資格もないと思ってた」
胸が、ぎゅっと締めつけられた。
それは、私が勝手に想像していた“怖い話”とは、まるで違っていた。
不器用で、
臆病で、
でも、まっすぐな想い。
「……確かに、最初はびっくりした」
私は正直に言った。
「でもね。
写真、嫌じゃなかった」
彼が顔を上げる。
「……え?」
「私、あんなふうに歩いてるんだ、って思った。
誰かの目に、ちゃんと映ってたんだな、って」
少し照れくさくて、視線を逸らす。
「……ねえ。
これからはさ」
私は、一歩近づいて言った。
「隠れて撮らなくていいよ」
「……?」
「一緒に、写真撮ろ?」
彼は、言葉を失ったみたいに、何度も瞬きをした。
「……いいの?」
「いいよ。
その代わり――」
私は、少しだけ意地悪に笑う。
「今度は、ちゃんと名前呼んで」
夕暮れのキャンパスで、
彼は初めて、私の名前を呼んだ。
ぎこちなくて、
でも、優しい声だった。
その瞬間、
あのロック画面の写真よりも、
ずっとはっきりと――
私の中に、彼の存在が焼きついた。
それに気づいたのは、夕方の学内カフェテリアだった。
トレーを返却口に置こうとしたとき、椅子の下に黒いスマホが落ちているのが目に入った。
「……落とし物?」
画面は伏せられていたけれど、電源ボタンに触れた瞬間、ロック画面が点灯して、私は息を呑んだ。
そこに映っていたのは――
紛れもなく、私の後ろ姿だった。
大学構内の並木道。
少し風に揺れる髪。
肩にかけたトートバッグ。
自分でも気づかなかった、歩いているときの癖。
写真は、遠くから望遠で撮られたような距離感で、
でも不思議と、悪意は感じなかった。
……むしろ、
大切にされているような、そんな雰囲気。
「え……?」
心臓が早鐘を打つ。
知らないうちに撮られていた、という事実に怖さがないわけじゃない。
でも、それ以上に、胸の奥がざわついて仕方なかった。
学生証で持ち主を確認すると、
同じ学部の男子学生――佐久間 恒一。
顔を思い浮かべて、私はさらに驚いた。
目立たない。
講義でも、グループワークでも、ほとんど話さない。
名前を呼んだ記憶すら、数えるほどしかない人。
「……あの人、が?」
その日の講義が終わるまで、私はスマホをカバンに入れたまま、ずっと落ち着かなかった。
連絡先は、ロック解除ができないから分からない。
仕方なく、翌日、学部の掲示板前で彼を待った。
「……佐久間くん」
声をかけると、彼は一瞬、驚いたように目を見開いた。
「あ……えっと……」
「これ、落としたよね」
スマホを差し出した瞬間、
彼の顔色が、みるみる変わった。
青くなって、
次に赤くなって、
最後は、諦めたみたいに、深く息を吐いた。
「……見た?」
私は、正直に頷いた。
「ロック画面。……私、だった」
沈黙。
逃げ出されるかと思った。
でも、彼は俯いたまま、小さく言った。
「……ごめん。
気持ち悪いよね」
「……どうして?」
問い詰めるつもりはなかった。
ただ、知りたかった。
彼は、しばらく迷ってから、ゆっくり言葉を選ぶように話し始めた。
「入学式の日。
人混みで、君が迷ってるの、見かけて」
その日、私は確かに道に迷っていた。
スマホを見ながら、立ち止まっていた。
「声、かけようと思ったけど……
勇気、出なくて」
代わりに、
遠くから、写真を撮った。
それだけ。
それ以上は、何もしなかった。
「消そうと思った。
でも……消せなかった」
「……好き、だったから?」
私の言葉に、彼は小さく頷いた。
「好きすぎて。
でも、話す資格もないと思ってた」
胸が、ぎゅっと締めつけられた。
それは、私が勝手に想像していた“怖い話”とは、まるで違っていた。
不器用で、
臆病で、
でも、まっすぐな想い。
「……確かに、最初はびっくりした」
私は正直に言った。
「でもね。
写真、嫌じゃなかった」
彼が顔を上げる。
「……え?」
「私、あんなふうに歩いてるんだ、って思った。
誰かの目に、ちゃんと映ってたんだな、って」
少し照れくさくて、視線を逸らす。
「……ねえ。
これからはさ」
私は、一歩近づいて言った。
「隠れて撮らなくていいよ」
「……?」
「一緒に、写真撮ろ?」
彼は、言葉を失ったみたいに、何度も瞬きをした。
「……いいの?」
「いいよ。
その代わり――」
私は、少しだけ意地悪に笑う。
「今度は、ちゃんと名前呼んで」
夕暮れのキャンパスで、
彼は初めて、私の名前を呼んだ。
ぎこちなくて、
でも、優しい声だった。
その瞬間、
あのロック画面の写真よりも、
ずっとはっきりと――
私の中に、彼の存在が焼きついた。
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