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嫌いって言葉の奥に
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嫌いって言葉の奥に
「なあ、これ、やばくない?」
昼休みの教室で、クラスメイトのミナが笑いながら言った。
机の上には、誰が作ったのかも分からない「嫌いな人アンケート」が広がっている。
くだらない遊び。
でも、こういうのが地味に盛り上がるのが、うちのクラスの悪い癖だった。
「一応、匿名で書こうぜってさ。まぁ、遊びだよ遊び」
そう言われても、胸がざわつく。
私はペンを握りながら、誰の名前を書こうか悩んでいた。
嫌いな人なんて、特にいない。
……でも、どうしても頭に浮かぶのは——タカヒロの顔だった。
同じクラスで、いつも目立つタイプ。
運動もできるし、女子ともよく喋る。
なのに、私と目が合うと、なぜかいつもあっちが先にそらす。
それが、なんとなく、ムカつく。
話しかけても、ぶっきらぼうに返される。
「なんなの?」って思うことが何度もあった。
ペン先を紙に落としながら、ため息をついた。
──嫌いな人:タカヒロ。
書いてから、自分でも苦笑いした。
ほんとは「嫌い」じゃない。
むしろ、気になってる。
でも、素直になれない。
多分、あの人も同じだ。そんな気がしてた。
数日後、担任がそれを見つけて、遊びは禁止になった。
だけど、誰かがこっそり結果を回してきた。
「ねえ、見て。タカヒロが、アンタの名前書いてたって」
その一言で、心臓が止まりそうになった。
「……え?」
「ほらこれ。タカヒロ→ユナ。マジだよ」
みんなは笑ってた。
けど私は笑えなかった。
紙の文字を見た瞬間、胸が痛くて仕方なかった。
——お互い“嫌いな人”として名前を書いてる。
……そんな偶然、ある?
放課後。
誰もいない教室。
夕陽が差し込んで、机の上にオレンジ色の影が伸びていた。
タカヒロがドアの前に立ってた。
私を見るなり、ちょっと気まずそうに笑う。
「……お前も、俺の名前、書いてたんだろ」
「……うん。あんたも、でしょ」
「……ああ」
数秒の沈黙。
カーテンが、風に揺れた。
「なんで、書いたの?」
「……知らねぇよ」
その声が、少し震えてた。
私は小さく笑った。
「私はね、“気になってるのに素直になれない人”って意味で書いた」
「……は?」
「つまり、嫌いじゃなくて、好きの裏返し」
タカヒロが、目を丸くした。
顔が赤くなるのが、夕陽でも分かる。
「じゃあ……俺も同じだわ」
「え?」
「お前のこと、見てるとムカつく。けど、見ずにいられない。
……好きなんだよ、たぶん、ずっと前から」
心臓が、跳ねた。
照れくさくて、言葉が出ない。
こんな会話、教室でしてるのが信じられなかった。
「ねえ」
「ん?」
「今度、“好きな人アンケート”あったらさ。お互いの名前、書こうね」
「……バカか、お前」
「バカじゃないよ」
笑いながら言うと、タカヒロもつられて笑った。
でもその笑顔が、いつもの“ふざけた顔”じゃなくて、
どこか優しくて、本気で——ドキッとした。
それから、私たちは少しずつ話すようになった。
授業の合間、掃除の時間、帰り道。
他の人には見せない顔で、タカヒロが私にだけ笑う瞬間が増えていった。
ある日、放課後の体育館裏。
部活終わりの汗がまだ残る彼が、真剣な顔で言った。
「なあ、ユナ。あのアンケート、もう一回やる?」
「え?」
「“好きな人アンケート”。……書く前に、直接言うわ」
彼は一歩、近づいてきた。
目が合った瞬間、息が止まる。
距離が近すぎて、逃げられない。
「ユナが、好きだ」
その一言が、まっすぐ胸に落ちた。
言葉の余韻が消えるより早く、
タカヒロが私の手を、そっと握った。
指先が熱い。
心臓が暴れてる。
頭が真っ白になって、気づけば私も握り返していた。
「……じゃあ、私も書くね。好きな人、“タカヒロ”って」
「……お揃いだな」
そのあと、ほんの一瞬だけ——
彼が、私の頬にキスをした。
風が吹き抜ける体育館裏。
夕焼けの空が滲んで、世界が少しスローモーションになったようだった。
それから数年。
卒業しても、私たちは付き合い続けている。
時々、ふざけて話す。
「なあ、あの“嫌いな人アンケート”なかったら、俺らどうなってたんだろ」
「たぶん、ずっと“嫌い”って言い合ってたと思う」
「それ、地味にこわいな」
「うん。でも——」
私は笑って、彼の手を握る。
「“嫌い”の下に、“好き”が隠れてたんだよね。最初から」
彼は照れくさそうに頭をかいた。
「……やっぱお前、ズルいわ」
「何が?」
「言葉ひとつで、全部ひっくり返すとこ」
「だって、恋ってそういうもんでしょ」
笑い合いながら、手を離さずに歩く。
あの日のアンケートがきっかけで始まった恋は、
今もちゃんと続いている。
「なあ、これ、やばくない?」
昼休みの教室で、クラスメイトのミナが笑いながら言った。
机の上には、誰が作ったのかも分からない「嫌いな人アンケート」が広がっている。
くだらない遊び。
でも、こういうのが地味に盛り上がるのが、うちのクラスの悪い癖だった。
「一応、匿名で書こうぜってさ。まぁ、遊びだよ遊び」
そう言われても、胸がざわつく。
私はペンを握りながら、誰の名前を書こうか悩んでいた。
嫌いな人なんて、特にいない。
……でも、どうしても頭に浮かぶのは——タカヒロの顔だった。
同じクラスで、いつも目立つタイプ。
運動もできるし、女子ともよく喋る。
なのに、私と目が合うと、なぜかいつもあっちが先にそらす。
それが、なんとなく、ムカつく。
話しかけても、ぶっきらぼうに返される。
「なんなの?」って思うことが何度もあった。
ペン先を紙に落としながら、ため息をついた。
──嫌いな人:タカヒロ。
書いてから、自分でも苦笑いした。
ほんとは「嫌い」じゃない。
むしろ、気になってる。
でも、素直になれない。
多分、あの人も同じだ。そんな気がしてた。
数日後、担任がそれを見つけて、遊びは禁止になった。
だけど、誰かがこっそり結果を回してきた。
「ねえ、見て。タカヒロが、アンタの名前書いてたって」
その一言で、心臓が止まりそうになった。
「……え?」
「ほらこれ。タカヒロ→ユナ。マジだよ」
みんなは笑ってた。
けど私は笑えなかった。
紙の文字を見た瞬間、胸が痛くて仕方なかった。
——お互い“嫌いな人”として名前を書いてる。
……そんな偶然、ある?
放課後。
誰もいない教室。
夕陽が差し込んで、机の上にオレンジ色の影が伸びていた。
タカヒロがドアの前に立ってた。
私を見るなり、ちょっと気まずそうに笑う。
「……お前も、俺の名前、書いてたんだろ」
「……うん。あんたも、でしょ」
「……ああ」
数秒の沈黙。
カーテンが、風に揺れた。
「なんで、書いたの?」
「……知らねぇよ」
その声が、少し震えてた。
私は小さく笑った。
「私はね、“気になってるのに素直になれない人”って意味で書いた」
「……は?」
「つまり、嫌いじゃなくて、好きの裏返し」
タカヒロが、目を丸くした。
顔が赤くなるのが、夕陽でも分かる。
「じゃあ……俺も同じだわ」
「え?」
「お前のこと、見てるとムカつく。けど、見ずにいられない。
……好きなんだよ、たぶん、ずっと前から」
心臓が、跳ねた。
照れくさくて、言葉が出ない。
こんな会話、教室でしてるのが信じられなかった。
「ねえ」
「ん?」
「今度、“好きな人アンケート”あったらさ。お互いの名前、書こうね」
「……バカか、お前」
「バカじゃないよ」
笑いながら言うと、タカヒロもつられて笑った。
でもその笑顔が、いつもの“ふざけた顔”じゃなくて、
どこか優しくて、本気で——ドキッとした。
それから、私たちは少しずつ話すようになった。
授業の合間、掃除の時間、帰り道。
他の人には見せない顔で、タカヒロが私にだけ笑う瞬間が増えていった。
ある日、放課後の体育館裏。
部活終わりの汗がまだ残る彼が、真剣な顔で言った。
「なあ、ユナ。あのアンケート、もう一回やる?」
「え?」
「“好きな人アンケート”。……書く前に、直接言うわ」
彼は一歩、近づいてきた。
目が合った瞬間、息が止まる。
距離が近すぎて、逃げられない。
「ユナが、好きだ」
その一言が、まっすぐ胸に落ちた。
言葉の余韻が消えるより早く、
タカヒロが私の手を、そっと握った。
指先が熱い。
心臓が暴れてる。
頭が真っ白になって、気づけば私も握り返していた。
「……じゃあ、私も書くね。好きな人、“タカヒロ”って」
「……お揃いだな」
そのあと、ほんの一瞬だけ——
彼が、私の頬にキスをした。
風が吹き抜ける体育館裏。
夕焼けの空が滲んで、世界が少しスローモーションになったようだった。
それから数年。
卒業しても、私たちは付き合い続けている。
時々、ふざけて話す。
「なあ、あの“嫌いな人アンケート”なかったら、俺らどうなってたんだろ」
「たぶん、ずっと“嫌い”って言い合ってたと思う」
「それ、地味にこわいな」
「うん。でも——」
私は笑って、彼の手を握る。
「“嫌い”の下に、“好き”が隠れてたんだよね。最初から」
彼は照れくさそうに頭をかいた。
「……やっぱお前、ズルいわ」
「何が?」
「言葉ひとつで、全部ひっくり返すとこ」
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笑い合いながら、手を離さずに歩く。
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