ひとつの恋、いくつもの物語【学生純愛短編集】

山田森湖

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親友の好きな人を、好きになってしまった

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親友の好きな人を、好きになってしまった


 それに気づいた瞬間、胸の奥がひやりと冷えた。

 ――あ、私、この人のこと。

 放課後の教室。
 親友のミサキが席を外している間、窓際で彼と二人きりになった、ただそれだけの時間だった。

「ノート、ここ写せばいい?」

 そう言って覗き込んできた横顔が、やけに近かった。
 近すぎて、息の音まで聞こえそうで、私は思わず肩をすくめた。

「……うん。そこ」

 声が少し震えたのを、彼は気づいただろうか。

 彼――ユウは、ミサキがずっと好きな人だ。
 中学の頃からだと、何度も聞かされてきた。
 告白しようとしては勇気が出なくて、でも諦めきれなくて、そんな話を、私は一番近くで聞いてきた。

 だから、これは――ダメなやつだ。

 そう思えば思うほど、胸の奥で何かがぎゅっと締めつけられる。

 それから私は、意識的に距離を取るようになった。
 彼と目が合えば、先に逸らす。
 話しかけられても、短く返して、すぐミサキのところへ行く。

 なのに。

「最近、避けられてる?」

 ある日の帰り道、そう聞かれた。
 校門を出たところで、偶然並んで歩くことになってしまった日だった。

「……そんなこと、ない」

 嘘だ。
 自分でも分かるくらい、不自然な返事だった。

「あるよ」

 ユウは困ったように笑った。

「理由、聞いちゃダメ?」

 胸が、痛かった。
 言えるわけがない。
 あなたを好きになった、なんて。

「私……」

 言いかけて、飲み込む。
 その瞬間、頭に浮かんだのはミサキの顔だった。

 ――裏切れない。

「なんでもない」

 そう言って、私は足を速めた。

 その夜、ミサキからメッセージが来た。

『ねえ。私さ、ユウのこと、まだ好きなんだ』

 知ってる。
 知ってるよ。

『でも最近、ユウが誰かを気にしてる気がしてさ』

 心臓が、どくんと鳴った。

『……もし、あんたが好きなら』

 少し間が空いて、続きが届く。

『ちゃんと教えて。隠される方が、つらいから』

 画面を見つめたまま、しばらく動けなかった。

 翌日、昼休み。
 屋上に呼び出された。

 風が強くて、ミサキの髪が揺れていた。

「正直に言って」

 まっすぐな目だった。

「ユウのこと、どう思ってる?」

 逃げ場は、もうなかった。

「……好き」

 声が震えた。

「好きになっちゃった」

 一瞬、沈黙。
 胸が潰れそうだった。

 でも、ミサキはため息みたいに笑った。

「やっぱりね」

「……怒らないの?」

「怒るよ。少しは」

 そう言ってから、肩をすくめる。

「でもさ。あんたがどれだけ悩んでたか、分かるし」

 目が、少し潤んでいた。

「本当に好きなら、応援する」

 その言葉に、涙がこぼれた。

 その日の放課後、私はユウを呼び止めた。

「話がある」

 校舎裏。
 誰もいない場所。

「私、ずっと隠してた」

 息を吸って、吐く。

「ミサキのこと、大事。でも……」

 彼の手が、そっと私の手に触れた。
 指先が、少しだけ震えていた。

「知ってる」

「……え?」

「ミサキから聞いた」

 心臓が跳ねる。

「俺も、ずっと迷ってた」

 視線が絡む。

「好きなのは、君だ」

 その言葉は、静かで、でも確かだった。

「やっと言えたね」

 私がそう言うと、彼は小さく笑った。

 その距離で、初めて、そっと抱きしめられた。
 強くはない、でも逃げ場のない、あたたかい腕だった。

 禁断だと思っていた恋は、
 誰かを傷つけるだけのものじゃなかった。

 選ぶこと。
 向き合うこと。

 その先に、ちゃんと未来はあった。
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