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「イザーク、今日のお手伝いは何をしたらいいかしら?」
翌朝、グレイスはまだ身体が重かったが、それでも何かしら役に立ちたいと思っていた。イザークは森の小屋から少し離れたところで薪を割っていた。
「あなたはまだ療養中ですよ。無理をしてはいけない」
「そんな、私だけ何もしないなんて落ち着かなくて。何か簡単なことからやらせてちょうだい」
グレイスの申し出を見て、イザークはやや考え込む。
「では、庭に植えてある薬草を軽く摘んでみてください。怪我が悪化しないように気をつけて」
「わかったわ。ありがとう」
小屋の脇には、小さな畑と薬草が植えられた花壇があった。どれもイザークが自ら世話をしているようだ。グレイスはそっと薬草の葉を摘み取りながら、時折辺りを見回す。
「ここは、森の中でも割と日の光が入るんだわ。風も心地いいし……」
昨日までの不安や恐怖が嘘のように、のどかな時が流れている。グレイスは初めて感じる静寂に、少しだけ心安らぐ思いだった。
「グレイス、無理はしないように」
気遣う声が聞こえて、彼女は小さく笑顔を返す。
「大丈夫よ。こうしていると、なんだか落ち着くわ。王宮の庭園とは違うけれど、こっちのほうがずっと素朴で優しい感じがする」
作業を続けていると、ふと昨日までの出来事が遠い昔のように感じられた。王宮での派手な衣装も、貴族たちのざわめきも、今は全て自分とは無関係の世界のように思えてくる。
「何か思い出して、辛くなったりしてませんか?」
イザークが斧を置いて近づいてくる。心配そうな表情が、グレイスを気遣っているのがわかる。
「正直、まだ考えると苦しくなることもあるけれど……ここであなたに助けられているうちに、少しずつ心がほぐれてきた気がするの」
「そうですか。ならば、しばらくはそのままゆっくりと過ごすといい」
イザークが薪をまとめ、使い込まれた籠に入れていく。落ち着いた手つきに、野生で暮らしているという荒々しさはまるで感じられなかった。
「イザークの家は、あなた一人で管理しているのよね。食糧とか、どうしているの?」
「森で狩りをしているし、畑と薬草も育てている。時々外の村に出て物々交換をすることもあります」
その言葉に、グレイスは少し驚きつつも感心した。貴族社会しか知らなかった自分にとって、森の中で自給自足に近い生活をするなんて考えられない。
「私も、もう少し動けるようになったら、お料理とかお掃除とか、色々お手伝いしたいわ」
「気持ちはありがたいですが……お嬢様にそんなことをさせるのは少し気が引けます」
「もう『お嬢様』ではないの。私はグレイスよ。……悪役令嬢なんて烙印を押されて、何もないただの人間です」
目を伏せながら言うと、イザークは穏やかな口調で返す。
「あなたが何者であれ、私は構いません。あなたはあなたです」
その言葉にグレイスは一瞬戸惑った。王太子との婚約者として扱われた自分、悪役令嬢の噂に苦しめられた自分――結局何が本当の自分なのか、まだ分からない。
「ありがとう、イザーク」
そう言いながらも、目頭にじわりと熱いものが込み上げる。人としての自分を認められるというのが、こんなにも温かいことだったとは。新たな一歩を踏み出すために、グレイスはまずここで穏やかな日々を過ごしてみようと決意したのだった。
翌朝、グレイスはまだ身体が重かったが、それでも何かしら役に立ちたいと思っていた。イザークは森の小屋から少し離れたところで薪を割っていた。
「あなたはまだ療養中ですよ。無理をしてはいけない」
「そんな、私だけ何もしないなんて落ち着かなくて。何か簡単なことからやらせてちょうだい」
グレイスの申し出を見て、イザークはやや考え込む。
「では、庭に植えてある薬草を軽く摘んでみてください。怪我が悪化しないように気をつけて」
「わかったわ。ありがとう」
小屋の脇には、小さな畑と薬草が植えられた花壇があった。どれもイザークが自ら世話をしているようだ。グレイスはそっと薬草の葉を摘み取りながら、時折辺りを見回す。
「ここは、森の中でも割と日の光が入るんだわ。風も心地いいし……」
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「グレイス、無理はしないように」
気遣う声が聞こえて、彼女は小さく笑顔を返す。
「大丈夫よ。こうしていると、なんだか落ち着くわ。王宮の庭園とは違うけれど、こっちのほうがずっと素朴で優しい感じがする」
作業を続けていると、ふと昨日までの出来事が遠い昔のように感じられた。王宮での派手な衣装も、貴族たちのざわめきも、今は全て自分とは無関係の世界のように思えてくる。
「何か思い出して、辛くなったりしてませんか?」
イザークが斧を置いて近づいてくる。心配そうな表情が、グレイスを気遣っているのがわかる。
「正直、まだ考えると苦しくなることもあるけれど……ここであなたに助けられているうちに、少しずつ心がほぐれてきた気がするの」
「そうですか。ならば、しばらくはそのままゆっくりと過ごすといい」
イザークが薪をまとめ、使い込まれた籠に入れていく。落ち着いた手つきに、野生で暮らしているという荒々しさはまるで感じられなかった。
「イザークの家は、あなた一人で管理しているのよね。食糧とか、どうしているの?」
「森で狩りをしているし、畑と薬草も育てている。時々外の村に出て物々交換をすることもあります」
その言葉に、グレイスは少し驚きつつも感心した。貴族社会しか知らなかった自分にとって、森の中で自給自足に近い生活をするなんて考えられない。
「私も、もう少し動けるようになったら、お料理とかお掃除とか、色々お手伝いしたいわ」
「気持ちはありがたいですが……お嬢様にそんなことをさせるのは少し気が引けます」
「もう『お嬢様』ではないの。私はグレイスよ。……悪役令嬢なんて烙印を押されて、何もないただの人間です」
目を伏せながら言うと、イザークは穏やかな口調で返す。
「あなたが何者であれ、私は構いません。あなたはあなたです」
その言葉にグレイスは一瞬戸惑った。王太子との婚約者として扱われた自分、悪役令嬢の噂に苦しめられた自分――結局何が本当の自分なのか、まだ分からない。
「ありがとう、イザーク」
そう言いながらも、目頭にじわりと熱いものが込み上げる。人としての自分を認められるというのが、こんなにも温かいことだったとは。新たな一歩を踏み出すために、グレイスはまずここで穏やかな日々を過ごしてみようと決意したのだった。
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******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
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