森へ消えた悪役令嬢

ともえなこ

文字の大きさ
8 / 30

8

しおりを挟む
「お姉様が悪役令嬢ですって? そんな馬鹿げた話、私は信じません!」

エルメラルド公爵家の邸宅。その広い応接室で、シャーロット・エルメラルドは憤慨のあまり声を荒らげていた。

「ですが、お嬢様。世間ではそういう噂が流れており、王太子殿下も婚約破棄を……」

家令が遠慮がちに言いかけるが、シャーロットは拳を握り締めて言葉をさえぎる。

「お姉様がそんな人間ではないことは、私が一番知っています。家族として黙っていられませんわ」

シャーロットは公爵家の次女として、愛らしい容姿と芯の強さを併せ持っていた。グレイスを慕っており、姉が突然追われる身になったことに疑念を抱いている。

「とにかくお姉様を探さなくては。城の護衛が捜しているのに見つからないということは……森にでも逃げ込んだのでしょうか」

シャーロットは素早く周囲に目を配る。父親の公爵は王都の政務で忙殺されており、今は家の中も混乱気味だ。だが、彼女の決心は揺るがない。

「お嬢様、森は危険です。何かございましたら、公爵家としても大問題に……」

「放っておけばお姉様はもっと危険よ! それを助けるのが家族の役目でしょう?」

シャーロットは勢いよく立ち上がる。ドレスの裾を翻しながら、侍女たちに身支度を手早く整えさせる。

「私はお姉様の潔白を証明したいの。それに、王太子殿下にも一度問いただしたいことがあるわ」

確かにグレイスが不在のままでは、エルメラルド公爵家への風評は広がる一方だ。しかしシャーロットにとっては、そんな世間体など二の次だった。彼女は姉が無実であると信じている。

「さあ、すぐに手配を。少数で構わないから、私に仕える従者を集めて。森へ向かいます」

家令は半ば呆れつつも、シャーロットの行動力に感心する。早速、信頼のおける従者たち数名を選び、馬車の準備を進める。

「お嬢様、本当にご自身で行かれますか?」

侍女が心配そうに尋ねると、シャーロットはきっぱりと頷いた。

「ええ。お姉様のことを救えるのは私しかいないもの。あの方は誰よりも優しく、繊細な心を持っている。悪者扱いされるなんて絶対におかしいわ」

エルメラルド家の馬車に乗り込み、シャーロットは窓の外を睨むように見つめる。目指すは王都の外れ、そして夜の森。危険と言われる場所だが、彼女の決意は固い。

「お姉様、一刻も早く会いに行きますから。待っていてください」

内心の誓いを胸に、馬車は石畳を滑るように走り出した。エルメラルド家の次女シャーロット、その行動は姉を救う手がかりを探すための第一歩となるだろう。

一方、王宮の噂話に流される多くの貴族たちは、シャーロットの動きを知らず、自分たちの保身に精一杯の様子。グレイスの汚名が事実なのか否か、真相を確かめようとする者はほとんどいなかった。

「シャーロットお嬢様、そろそろ城の外へ出ます。ここからは道が悪くなりますから、お気をつけを」

「ありがとう。森の手前まで急ぎましょう」

シャーロットの瞳には強い決意の炎が宿っている。姉妹愛と真実を求める気持ちが、彼女を行動へと駆り立てるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

婚約破棄を申し込むも、殿下の説得がガチすぎて詰む?

ちゅんりー
恋愛
公爵令嬢リペは、厳しい王妃教育と窮屈な未来から逃れるため、ある画期的な計画を思いつく。それは、世にも恐ろしい「悪役令嬢」になりきって、完璧な第一王子カイルに婚約破棄を叩きつけること! さっそくリペは、高笑いと共に「不敬な態度」「無駄遣い」「嫌がらせ」といった悪行の数々を繰り出すが……。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

彼女の離縁とその波紋

豆狸
恋愛
夫にとって魅力的なのは、今も昔も恋人のあの女性なのでしょう。こうして私が悩んでいる間もふたりは楽しく笑い合っているのかと思うと、胸にぽっかりと穴が開いたような気持ちになりました。 ※子どもに関するセンシティブな内容があります。

【完結】私が誰だか、分かってますか?

美麗
恋愛
アスターテ皇国 時の皇太子は、皇太子妃とその侍女を妾妃とし他の妃を娶ることはなかった 出産時の出血により一時病床にあったもののゆっくり回復した。 皇太子は皇帝となり、皇太子妃は皇后となった。 そして、皇后との間に産まれた男児を皇太子とした。 以降の子は妾妃との娘のみであった。 表向きは皇帝と皇后の仲は睦まじく、皇后は妾妃を受け入れていた。 ただ、皇帝と皇后より、皇后と妾妃の仲はより睦まじくあったとの話もあるようだ。 残念ながら、この妾妃は産まれも育ちも定かではなかった。 また、後ろ盾も何もないために何故皇后の侍女となったかも不明であった。 そして、この妾妃の娘マリアーナははたしてどのような娘なのか… 17話完結予定です。 完結まで書き終わっております。 よろしくお願いいたします。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

氷の王妃は跪かない ―褥(しとね)を拒んだ私への、それは復讐ですか?―

柴田はつみ
恋愛
亡国との同盟の証として、大国ターナルの若き王――ギルベルトに嫁いだエルフレイデ。 しかし、結婚初夜に彼女を待っていたのは、氷の刃のように冷たい拒絶だった。 「お前を抱くことはない。この国に、お前の居場所はないと思え」 屈辱に震えながらも、エルフレイデは亡き母の教え―― 「己の誇り(たましい)を決して売ってはならない」――を胸に刻み、静かに、しかし凛として言い返す。 「承知いたしました。ならば私も誓いましょう。生涯、あなたと褥を共にすることはございません」 愛なき結婚、冷遇される王妃。 それでも彼女は、逃げも嘆きもせず、王妃としての務めを完璧に果たすことで、己の価値を証明しようとする。 ――孤独な戦いが、今、始まろうとしていた。

【完結】今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~

コトミ
恋愛
 結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。  そしてその飛び出した先で出会った人とは? (できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)

処理中です...