森へ消えた悪役令嬢

ともえなこ

文字の大きさ
20 / 30

20

しおりを挟む
「そろそろ、森にずっと隠れてはいられないわ」

明け方、小屋の窓から差し込む淡い光を浴びながら、グレイスは静かに口を開く。シャーロットとイザークがテーブルを囲むように座り、彼女の言葉を待っていた。

「お姉様、まだ体調が戻りきっていないじゃない。もう少し休んでもいいのよ」

シャーロットは切なそうな表情を浮かべる。グレイスがどれほど深く傷ついているか、妹として痛いほどわかっているからだ。

「ありがとう。でも、いつまでも逃げてばかりじゃ、悪役令嬢のレッテルを払拭できない。それに……私を陥れたのが一体誰なのか、もう一度確かめたいの」

グレイスの瞳には、決意の炎が灯っている。森の中で療養し、イザークやシャーロットに支えられるうちに、心の奥底から奮い立つ思いが芽生えてきたのだ。

「イザーク、あなたには本当にお世話になった。お礼の言葉だけじゃ足りないくらいよ」

グレイスはイザークに向き直る。彼の静かな眼差しが、自分の背中を押してくれるように感じられる。

「あなたがいなかったら、私は今頃どうなっていたか……本当にわからない」

「大したことはしていません。あなたが生きようとする意思を持ち続けたからこそ、ここまで来られたんです」

イザークの言葉は優しく、それでいて揺るぎない力を持っていた。彼は自分自身の過去の苦しみを抱えながらも、グレイスの心を支え続けてくれた。その事実が、彼女にとってどれほど大きな救いだったか計り知れない。

「それで、これからどうなさるおつもりですか」

シャーロットの声に、グレイスはゆっくりと息を整える。王都へ戻るには、まだ障害が多すぎる。しかし、このまま森に留まれば真実は永久に闇の中だ。

「まずは私の汚名を晴らしたい。……それには、宮廷の噂を断ち切る何かが必要よ。それが誰の策略なのかを暴けば、王太子殿下だって黙ってはいられないはず」

かつての自分なら、ハロルドに信じてもらえないと絶望したままだったかもしれない。だが、今は違う。裏切りの痛みを知ったからこそ、真実の尊さがわかる。それを掴むためなら、どれほど苦難が待っていても立ち向かうつもりだった。

「お姉様、私も協力するわ。グレイス・エルメラルドが本当は悪人ではないこと、少しずつ証拠を集めればいいのよ」

シャーロットも同調の声を上げる。守るだけでなく攻めに転じることこそ、今二人に必要な行動なのだろう。

「私にできることがあるなら、力を貸します」

イザークもまた、控えめながらはっきりとした意思を示す。その言葉に、グレイスは心強さを感じる。彼の出自がまだ解決されていない問題を孕んでいるとしても、今の彼女には頼りになる仲間であることは確かだ。

「ありがとう、イザーク」

グレイスは微笑みながら、決意を新たにする。王都はきっと、まだ自分を悪者扱いする空気で満ちているだろう。ソフィアをはじめとする令嬢たちや、貴族社会の思惑が渦巻いているに違いない。

「それでも私は戻るわ。そして、私を陥れたのは誰なのか、絶対に白日の下にさらしてみせる」

その言葉に、シャーロットとイザークがうなずく。夜の森を抜け出し、再び表舞台へと歩み出そうとするグレイス。復讐や憤りだけではなく、自分が本当に生きたい未来のために、今こそ立ち上がるときが来たのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

永遠の十七歳なんて、呪いに決まってる

鷹 綾
恋愛
永遠の十七歳―― それは祝福ではなく、三百年続く“呪い”だった。 公には「名門イソファガス家の孫娘」として知られる少女キクコ。 だがその正体は、歴史の裏側で幾度も国を救ってきた不老の元聖女であり、 王家すら真実を知らぬ“生きた時代遺産”。 政治も権力も、面倒ごとは大嫌い。 紅茶と読書に囲まれた静かな余生(?)を望んでいたキクコだったが―― 魔王討伐後、王位継承問題に巻き込まれたことをきっかけに、 まさかの王位継承権十七位という事実が発覚する。 「……私が女王? 冗談じゃないわ」 回避策として動いたはずが、 誕生した新国王アルフェリットから、なぜか突然の求婚。 しかも彼は、 幼少期に命を救われた“恩人”がキクコであることを覚えていた―― 年を取らぬ姿のままで。 永遠に老いない少女と、 彼女の真実を問わず選んだ自分ファーストな若き王。 王妃になどなる気はない。 けれど、逃げ続けることももうできない。 これは、 歴史の影に生きてきた少女が、 はじめて「誰かの隣」を選ぶかもしれない物語。 ざまぁも陰謀も押し付けない。 それでも―― この国で一番、誰よりも“強い”のは彼女だった。

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

殿下、私以外の誰かを愛してください。

ハチワレ
恋愛
公爵令嬢ラブリーは、第一王子クロードを誰よりも愛していました。しかし、自分の愛が重すぎて殿下の負担になっている(と勘違いした)彼女は、愛する殿下を自由にするため、あえて「悪役令嬢」として振る舞い、円満に婚約破棄されるという前代未聞の計画を立てる。協力者として男爵令嬢ミリーを「ヒロイン役」に任命し、準備は整った。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

婚約破棄だ!と言われ実家に帰ったら、最推しに餌付けされます

黒猫かの
恋愛
王国の第一王子クレイスから、衆人環視の中 で婚約破棄を言い渡されたローゼン侯爵令嬢ノエル。

処理中です...