森へ消えた悪役令嬢

ともえなこ

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「そろそろ、森にずっと隠れてはいられないわ」

明け方、小屋の窓から差し込む淡い光を浴びながら、グレイスは静かに口を開く。シャーロットとイザークがテーブルを囲むように座り、彼女の言葉を待っていた。

「お姉様、まだ体調が戻りきっていないじゃない。もう少し休んでもいいのよ」

シャーロットは切なそうな表情を浮かべる。グレイスがどれほど深く傷ついているか、妹として痛いほどわかっているからだ。

「ありがとう。でも、いつまでも逃げてばかりじゃ、悪役令嬢のレッテルを払拭できない。それに……私を陥れたのが一体誰なのか、もう一度確かめたいの」

グレイスの瞳には、決意の炎が灯っている。森の中で療養し、イザークやシャーロットに支えられるうちに、心の奥底から奮い立つ思いが芽生えてきたのだ。

「イザーク、あなたには本当にお世話になった。お礼の言葉だけじゃ足りないくらいよ」

グレイスはイザークに向き直る。彼の静かな眼差しが、自分の背中を押してくれるように感じられる。

「あなたがいなかったら、私は今頃どうなっていたか……本当にわからない」

「大したことはしていません。あなたが生きようとする意思を持ち続けたからこそ、ここまで来られたんです」

イザークの言葉は優しく、それでいて揺るぎない力を持っていた。彼は自分自身の過去の苦しみを抱えながらも、グレイスの心を支え続けてくれた。その事実が、彼女にとってどれほど大きな救いだったか計り知れない。

「それで、これからどうなさるおつもりですか」

シャーロットの声に、グレイスはゆっくりと息を整える。王都へ戻るには、まだ障害が多すぎる。しかし、このまま森に留まれば真実は永久に闇の中だ。

「まずは私の汚名を晴らしたい。……それには、宮廷の噂を断ち切る何かが必要よ。それが誰の策略なのかを暴けば、王太子殿下だって黙ってはいられないはず」

かつての自分なら、ハロルドに信じてもらえないと絶望したままだったかもしれない。だが、今は違う。裏切りの痛みを知ったからこそ、真実の尊さがわかる。それを掴むためなら、どれほど苦難が待っていても立ち向かうつもりだった。

「お姉様、私も協力するわ。グレイス・エルメラルドが本当は悪人ではないこと、少しずつ証拠を集めればいいのよ」

シャーロットも同調の声を上げる。守るだけでなく攻めに転じることこそ、今二人に必要な行動なのだろう。

「私にできることがあるなら、力を貸します」

イザークもまた、控えめながらはっきりとした意思を示す。その言葉に、グレイスは心強さを感じる。彼の出自がまだ解決されていない問題を孕んでいるとしても、今の彼女には頼りになる仲間であることは確かだ。

「ありがとう、イザーク」

グレイスは微笑みながら、決意を新たにする。王都はきっと、まだ自分を悪者扱いする空気で満ちているだろう。ソフィアをはじめとする令嬢たちや、貴族社会の思惑が渦巻いているに違いない。

「それでも私は戻るわ。そして、私を陥れたのは誰なのか、絶対に白日の下にさらしてみせる」

その言葉に、シャーロットとイザークがうなずく。夜の森を抜け出し、再び表舞台へと歩み出そうとするグレイス。復讐や憤りだけではなく、自分が本当に生きたい未来のために、今こそ立ち上がるときが来たのだ。
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