森へ消えた悪役令嬢

ともえなこ

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「公爵家の皆様、ご入場を」

王宮の大広間が特別に設えられ、グレイスはその中心に立つ。周囲には豪奢な装飾と、王族や貴族たちが居並ぶ席がずらりと並んでいた。視線は一斉に彼女へ注がれ、ざわめきが広がる。

「久しぶりにお目にかかります。殿下」

静粛な空気の中、グレイスは王太子ハロルドへ深く一礼する。ハロルドの表情は硬く、言葉少なにこちらを見つめ返す。

「グレイス……おまえが公の場に姿を現すとは」

まるでその声には驚きと戸惑いが混ざっている。かつて婚約者だった二人が、こうして公然の舞台で再会するのは皮肉な巡り合わせだ。

「殿下、今日は私を陥れた罪状について、改めて審議していただきたく存じます」

グレイスの言葉に、大広間の貴族たちが息を飲む。彼女は自らの潔白を証明するため、この場に乗り込んできたのだ。

「……わかった。おまえの弁明を聞こう」

ハロルドは厳粛な態度で頷く。彼の隣には王や他の皇族、そしてソフィアを含む有力貴族たちが座を占めている。ソフィアは得意げに微笑むが、その笑みにはどこか焦りの影が見えた。

「まずは、私にかけられた悪役令嬢の疑いが根拠のないものであることを説明します。証拠を、妹のシャーロットが持ってきています」

グレイスが合図すると、シャーロットが懐から数枚の書簡を取り出し、ハロルドの側近へ差し出す。その内容に目を通した側近が大きく目を見開き、ハロルドに渡す。

「これは……」

ハロルドの手が震える。書面には、ソフィアの侍女と思われる人物と他の関係者が、グレイスを陥れるために噂を捏造した具体的な指示が記されていた。

「ソフィア、これは何だ。おまえの侍女が書いたものだというのか」

ハロルドは鋭く問い詰めるが、ソフィアはすかさず取り繕おうとする。

「殿下、これは捏造されたものに違いありませんわ。私がそのような卑劣な手段を使うはずがありません」

場が一気に騒然となる。貴族たちはヒソヒソと噂話を交わし、真偽を見極めようと目を凝らしている。グレイスは動揺することなく、さらに追い打ちをかける。

「それだけではありません。ここに、あなたの側近が金銭を受け取った証拠もあります。ソフィア様は殿下の耳に私の悪評だけが入るよう、根回ししていたのです」

手渡された追加書類に、ハロルドは愕然とする。まさかソフィアが裏でこれほど巧妙に手を回していたなど、想像もしていなかった。だが、この証拠を前にしては否定しようがない。

「ソフィア、説明しろ」

ハロルドが静かに告げると、ソフィアの顔が青ざめる。すぐに言い訳を口にするが、先ほどの書簡や金銭の動きを示す証拠書類が何より雄弁に事実を語っていた。

「これは……私に罪を着せるための罠です。私はただ、殿下をお支えしたかっただけで……」

焦りにまみれた言葉は、大広間の誰の心にも届かない。やがて、王が静粛を取り戻すように手をあげ、沈黙のうちに場が落ち着いていく。

「ハロルド。まずはソフィアの証言と、これらの証拠を照らし合わせるべきだ。事と次第によっては、彼女を厳しく処罰しなければならんだろう」

王の威厳に満ちた声が響き渡り、ソフィアはひきつった表情で王座を仰ぎ見る。窮地に立たされた彼女は、何とか言い逃れをしようと必死だ。

「グレイス、これほどの資料をどうやって……」

ハロルドは複雑な思いを込めて、グレイスに視線を向ける。彼女が危険を冒してまで真実を追い求めたこと、そして王太子である自分が真偽を見極められなかったこと。それらが一気に胸を締めつけるようだ。

「私はただ、自分が無実であることを証明したかった。そして誰が私を陥れたのか、真実を知りたかった。それだけよ」

悪役令嬢と呼ばれ、婚約まで破棄されたグレイス。ついにその汚名を晴らすための一手が打たれた。大広間には緊張と困惑が入り混じる空気が漂う中、次なる事態が動き始めるのは時間の問題だった。
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