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「ソフィア・ブライトンよ。あなたの仕業が明らかになりました」
王の威厳ある声が大広間に響き渡る。先ほど提出された証拠類の検証を終え、王は厳粛な面持ちで口を開いた。ハロルドが隣に控え、ソフィアは顔面蒼白のまま立ち尽くしている。
「私が行ったことは、すべて殿下をお守りするためのものです。グレイス様が殿下を陥れようとしていると、そう信じていただけで……」
ソフィアは震える声で釈明を続けるが、書簡や金銭の受け渡し記録により、その主張はまるで根拠を失っていた。
「いい加減にしろ、ソフィア」
ハロルドが低く、しかしはっきりとした口調で言い放つ。その瞳には怒りと失望が入り混じっている。かつてはソフィアの気遣いを多少なりとも評価していたが、その裏にこんな陰謀が潜んでいたとは思いもしなかったのだ。
「あなたは私に近づき、グレイスの悪行を繰り返し吹き込んだ。私がそれを鵜呑みにしてしまったのは、自分の不明を恥じるしかない」
言葉を詰まらせるハロルド。その視線がちらりとグレイスへ向けられる。彼がどれほど後悔の念に苛まれているか、その瞳が物語っていた。
「しかし、だからといって、あなたの罪が軽くなるわけではない。王家と公爵家を巻き込んだ悪質な策謀だ。厳重に処罰せざるを得ない」
王の言葉により、ソフィアはついに反論の糸口を失う。大広間に居合わせた貴族たちは息をのむように見守り、ソフィアの周囲は冷たい空気に包まれていた。
「違うんです、私はただ、殿下に愛されたくて……」
薄れゆく声で言い訳する彼女に、誰もが白い目を向ける。かつて宮廷の花形と謳われたソフィア・ブライトンは、今や悪役として周囲に見放される道しか残されていない。
「ソフィア・ブライトンには、後日正式に裁きを下す。それまで、城内での軟禁を命じる」
王の宣言と同時に、衛兵たちがソフィアを取り囲む。彼女は泣き崩れるようにしてその場から連れ出され、再び大広間には静寂が訪れた。
「これで、あなたを陥れた者の正体が明るみに出ました」
王がグレイスへ向けて言葉をかける。グレイスは深い安堵と疲労で胸がいっぱいだった。長かった悪役令嬢としての日々が、ようやく終わりを告げようとしているのだろうか。
「陛下、ありがとうございます。しかし私は、ただ自分の名誉を取り戻したいだけでなく、再び王宮に混乱を招かないためにも真実を明らかにしたかったのです」
グレイスがそう述べると、王は静かに頷いた。貴族たちの視線がグレイスへ向けられるが、先ほどまでの冷たいものとは違う。どこか敬意さえ含まれているように思えた。
「グレイス……」
ハロルドが一歩、彼女のほうへ歩み寄る。まるで消え入りそうな声で名前を呼ぶその姿に、グレイスの胸は複雑な感情で乱れる。彼が自分を信じなかったこと、しかし今になって彼の後悔を間近で見ると、責めるだけでは胸が締めつけられる。
「そなたの苦しみを、私は理解しきれずにいた。本当に、申し訳ない」
深々と頭を下げる王太子。大広間の貴族たちは驚きの表情を浮かべるが、その場の誰も声を出さない。グレイスは短く息をつき、そして静かに言葉を返した。
「殿下、私は殿下を支えるために生きてきました。しかし、お互いが正しく向き合えなかったことも事実。私たちは、もう戻れないのだと思います」
その言葉に、ハロルドは悲痛な表情を浮かべる。けれど、それを否定することはできない。すでに二人の婚約は破棄され、愛もまた取り返しのつかないところにあるのだから。
「わかっている。だが、もう一度だけ、私に赎罪の機会を与えてはくれないか」
ハロルドの願いに、グレイスは視線を落とす。胸が痛むけれど、それでも前に進まなくては。彼女が答えを出すために、もう少しだけ時間が必要だった。
王の威厳ある声が大広間に響き渡る。先ほど提出された証拠類の検証を終え、王は厳粛な面持ちで口を開いた。ハロルドが隣に控え、ソフィアは顔面蒼白のまま立ち尽くしている。
「私が行ったことは、すべて殿下をお守りするためのものです。グレイス様が殿下を陥れようとしていると、そう信じていただけで……」
ソフィアは震える声で釈明を続けるが、書簡や金銭の受け渡し記録により、その主張はまるで根拠を失っていた。
「いい加減にしろ、ソフィア」
ハロルドが低く、しかしはっきりとした口調で言い放つ。その瞳には怒りと失望が入り混じっている。かつてはソフィアの気遣いを多少なりとも評価していたが、その裏にこんな陰謀が潜んでいたとは思いもしなかったのだ。
「あなたは私に近づき、グレイスの悪行を繰り返し吹き込んだ。私がそれを鵜呑みにしてしまったのは、自分の不明を恥じるしかない」
言葉を詰まらせるハロルド。その視線がちらりとグレイスへ向けられる。彼がどれほど後悔の念に苛まれているか、その瞳が物語っていた。
「しかし、だからといって、あなたの罪が軽くなるわけではない。王家と公爵家を巻き込んだ悪質な策謀だ。厳重に処罰せざるを得ない」
王の言葉により、ソフィアはついに反論の糸口を失う。大広間に居合わせた貴族たちは息をのむように見守り、ソフィアの周囲は冷たい空気に包まれていた。
「違うんです、私はただ、殿下に愛されたくて……」
薄れゆく声で言い訳する彼女に、誰もが白い目を向ける。かつて宮廷の花形と謳われたソフィア・ブライトンは、今や悪役として周囲に見放される道しか残されていない。
「ソフィア・ブライトンには、後日正式に裁きを下す。それまで、城内での軟禁を命じる」
王の宣言と同時に、衛兵たちがソフィアを取り囲む。彼女は泣き崩れるようにしてその場から連れ出され、再び大広間には静寂が訪れた。
「これで、あなたを陥れた者の正体が明るみに出ました」
王がグレイスへ向けて言葉をかける。グレイスは深い安堵と疲労で胸がいっぱいだった。長かった悪役令嬢としての日々が、ようやく終わりを告げようとしているのだろうか。
「陛下、ありがとうございます。しかし私は、ただ自分の名誉を取り戻したいだけでなく、再び王宮に混乱を招かないためにも真実を明らかにしたかったのです」
グレイスがそう述べると、王は静かに頷いた。貴族たちの視線がグレイスへ向けられるが、先ほどまでの冷たいものとは違う。どこか敬意さえ含まれているように思えた。
「グレイス……」
ハロルドが一歩、彼女のほうへ歩み寄る。まるで消え入りそうな声で名前を呼ぶその姿に、グレイスの胸は複雑な感情で乱れる。彼が自分を信じなかったこと、しかし今になって彼の後悔を間近で見ると、責めるだけでは胸が締めつけられる。
「そなたの苦しみを、私は理解しきれずにいた。本当に、申し訳ない」
深々と頭を下げる王太子。大広間の貴族たちは驚きの表情を浮かべるが、その場の誰も声を出さない。グレイスは短く息をつき、そして静かに言葉を返した。
「殿下、私は殿下を支えるために生きてきました。しかし、お互いが正しく向き合えなかったことも事実。私たちは、もう戻れないのだと思います」
その言葉に、ハロルドは悲痛な表情を浮かべる。けれど、それを否定することはできない。すでに二人の婚約は破棄され、愛もまた取り返しのつかないところにあるのだから。
「わかっている。だが、もう一度だけ、私に赎罪の機会を与えてはくれないか」
ハロルドの願いに、グレイスは視線を落とす。胸が痛むけれど、それでも前に進まなくては。彼女が答えを出すために、もう少しだけ時間が必要だった。
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