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翌日、リシュモンド伯爵から話があると言われ、ココナは書斎へ呼ばれた。扉を開けると、父は難しい顔をして地図や資料を広げている。
「ココナ、すまないが少し時間をくれ」
「はい。何か新しい動きがあったんですか」
伯爵は地図の上に手を置き、じっと見つめながら深いため息をつく。そこには王国の主要都市や街道が描かれており、中には倉庫や商会の支店が示された印がある。
「実は、王妃陛下から直接、ある提案を受けた。彼女はケーキ事件の捜査を進めるために、我々が持っている情報をすべて王宮に提出するようにと言ってきたんだ」
「それって……もう全部、提出しているはずでは?」
「いや、さらに細かい点まで洗い出すと言う。少しでも不審な取引の記録や、商会との関わり合いがあれば提出しろと。ただ、気になるのは、その裏で王妃陛下自身が何を狙っているのか見えないことだ」
ココナは黙り込む。王妃の調査意欲が高いのは確かだが、それがココナにとって有利に働くかどうかはわからない。むしろ、王太子妃の座にそぐわない存在として、徹底的に排除しようとしている可能性も否定できない。
「それだけではない。公爵家も同様に調べられている。つまり、ローレライ家も何らかの形で王宮に情報を送っているはずだ」
「ローレライ様も……」
ココナは心配になる。自分たちが独自に動いていることを、王妃がどう受け取るか。最悪の場合、罪をなすりつけられる危険だってある。
「だが、私には一つだけわかったことがある。今回のケーキ事件の背後には、王家の内紛というか、何らかの権力争いがある可能性が高い」
「権力争い……具体的には、どなたが?」
「それはまだわからない。王太子派と別の王族、あるいは有力貴族同士の争いかもしれない。いずれにしろ、我々が軽々しく踏み込める領域ではない」
伯爵の声には、苛立ちと無力感がにじんでいた。王家と対等に渡り合える貴族など限られており、フォルティア伯爵家は決してその中核にはいない。だからこそ、伯爵は娘を守るために慎重な策を取らざるを得ないのだ。
「お父様、ありがとうございます。私のためにいろいろ動いてくださって」
「……ココナ、お前がどんな行動を取るにしても、私はお前を信じる。だが、くれぐれも無茶はするな」
「はい」
親子の小さな会話のあと、ココナは退室する。心に広がるのは、王妃フィリアの不可解な動きに対する疑問。もし彼女が事件を利用しているなら、ココナやローレライ、あるいは他の貴族を駒のように操ろうとしているのかもしれない。
そう思い巡らせながら廊下を歩いていると、使用人から小さな封筒を渡された。差出人は王宮宛からと見られるが、開封済みの跡がある。
「ココナ様、申し訳ございません。伯爵がご覧になったうえで、ココナ様にもお渡しするようにとのことです」
「いいえ、ありがとう。父が目を通したのですね」
封筒の中身には、王宮主催の夜会への招待状が入っていた。日時は近々。ケーキ事件の捜査中にもかかわらず、華やかな催しが行われるという。
「王妃陛下の主催……これが何を意味しているのかしら」
ココナは手紙を握りしめ、やるせない思いに駆られる。宮殿に再び足を踏み入れれば、嫌でも婚約破棄の現実を突きつけられるだろう。だが、恐れてばかりはいられない。この夜会こそが、何かの鍵を握っているかもしれないのだ。
王宮の鍵を握る者は、果たして王妃なのか、それとも別の権力者なのか。ココナは深い迷いの渦に飲み込まれながらも、招待状を手放すことはなかった。
「ココナ、すまないが少し時間をくれ」
「はい。何か新しい動きがあったんですか」
伯爵は地図の上に手を置き、じっと見つめながら深いため息をつく。そこには王国の主要都市や街道が描かれており、中には倉庫や商会の支店が示された印がある。
「実は、王妃陛下から直接、ある提案を受けた。彼女はケーキ事件の捜査を進めるために、我々が持っている情報をすべて王宮に提出するようにと言ってきたんだ」
「それって……もう全部、提出しているはずでは?」
「いや、さらに細かい点まで洗い出すと言う。少しでも不審な取引の記録や、商会との関わり合いがあれば提出しろと。ただ、気になるのは、その裏で王妃陛下自身が何を狙っているのか見えないことだ」
ココナは黙り込む。王妃の調査意欲が高いのは確かだが、それがココナにとって有利に働くかどうかはわからない。むしろ、王太子妃の座にそぐわない存在として、徹底的に排除しようとしている可能性も否定できない。
「それだけではない。公爵家も同様に調べられている。つまり、ローレライ家も何らかの形で王宮に情報を送っているはずだ」
「ローレライ様も……」
ココナは心配になる。自分たちが独自に動いていることを、王妃がどう受け取るか。最悪の場合、罪をなすりつけられる危険だってある。
「だが、私には一つだけわかったことがある。今回のケーキ事件の背後には、王家の内紛というか、何らかの権力争いがある可能性が高い」
「権力争い……具体的には、どなたが?」
「それはまだわからない。王太子派と別の王族、あるいは有力貴族同士の争いかもしれない。いずれにしろ、我々が軽々しく踏み込める領域ではない」
伯爵の声には、苛立ちと無力感がにじんでいた。王家と対等に渡り合える貴族など限られており、フォルティア伯爵家は決してその中核にはいない。だからこそ、伯爵は娘を守るために慎重な策を取らざるを得ないのだ。
「お父様、ありがとうございます。私のためにいろいろ動いてくださって」
「……ココナ、お前がどんな行動を取るにしても、私はお前を信じる。だが、くれぐれも無茶はするな」
「はい」
親子の小さな会話のあと、ココナは退室する。心に広がるのは、王妃フィリアの不可解な動きに対する疑問。もし彼女が事件を利用しているなら、ココナやローレライ、あるいは他の貴族を駒のように操ろうとしているのかもしれない。
そう思い巡らせながら廊下を歩いていると、使用人から小さな封筒を渡された。差出人は王宮宛からと見られるが、開封済みの跡がある。
「ココナ様、申し訳ございません。伯爵がご覧になったうえで、ココナ様にもお渡しするようにとのことです」
「いいえ、ありがとう。父が目を通したのですね」
封筒の中身には、王宮主催の夜会への招待状が入っていた。日時は近々。ケーキ事件の捜査中にもかかわらず、華やかな催しが行われるという。
「王妃陛下の主催……これが何を意味しているのかしら」
ココナは手紙を握りしめ、やるせない思いに駆られる。宮殿に再び足を踏み入れれば、嫌でも婚約破棄の現実を突きつけられるだろう。だが、恐れてばかりはいられない。この夜会こそが、何かの鍵を握っているかもしれないのだ。
王宮の鍵を握る者は、果たして王妃なのか、それとも別の権力者なのか。ココナは深い迷いの渦に飲み込まれながらも、招待状を手放すことはなかった。
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