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証拠となる粉末が失われたことで、事件は再び暗礁に乗り上げた。ココナはローレライと相談し、別の角度から仮説を立てることにする。
この日、二人はフォルティア伯爵邸の応接室に集まり、商会の資料や貴族の関係図を広げていた。ローレライは書類をめくりながら、静かに口を開く。
「もし、あの粉末が本当に毒だったとしたら、誰が得をするのかしら。私を失脚させたいのか、それともココナ様を追い詰めたいのか。それとも、王太子殿下に害を及ぼすため……?」
「そうよね。王太子殿下が口にする可能性もあったケーキだし、狙いがアルトワーズ殿下という考えも捨てきれない」
ココナは思案深げに頬に手を当てる。婚約破棄された身ではあるものの、アルトワーズ王太子への攻撃を狙ったのだとすれば、国全体を揺るがす大問題になるだろう。
「でも、結局はあなたや私に嫌疑がかかる形になっている。つまり、犯人はそれを利用したかったのかも。王太子を狙うなら、もっと他の方法もあっただろうし……」
「そう……。私か、あるいは両家に何らかの恨みを持つ者が仕組んだ可能性が高いのかもしれない」
仮説を立てては修正し、二人の会話は堂々巡りになりそうだった。そのとき、ココナはふと、ある思いが頭をよぎる。
「そもそも、なぜケーキという手段を使ったのでしょうね。もっと確実に毒を盛る方法はいくらでもあるはず。わざわざ目立つやり方を選んだ気がするわ」
「目立つやり方……たしかに。私の手作りケーキが社交界で話題になっているのは知っていたし、あれを利用すれば大勢の目に触れる。そこに毒が混入していればスキャンダルになる」
「目的は毒殺というより、スキャンダルそのもの、あるいは評判の失墜だったのかもしれない。私の婚約破棄が騒がれるこの時期に合わせるように……」
ローレライも大きく頷く。大勢の前でケーキを落とし、毒らしき粉末が発見された。それだけで十分、ココナとローレライは注目の的になった。犯人はその効果を狙っていた節がある。
「つまり、犯人の狙いは私たちのスキャンダル。王太子との関係性に暗い影を落とす、あるいは王家を巻き込む形で混乱を生むこと。そう推測できるわ」
「もしそうなら、王妃陛下がこれを利用しているか、もしくは陛下自身が仕組んだ……?」
直接的な結論を出すにはまだ弱い。だが、少なくとも事件の動機は“殺害”だけではなく、“失脚や混乱”という政治的な思惑が絡む可能性が見えてきた。
「でも、確証がなければ何も言えない。噂が噂を呼ぶだけで、私たちが逆に責められてしまうわ」
「そうですね。王宮の夜会が近いでしょう。そこに行けば、何かわかるかもしれません。王妃陛下や殿下がどのように動くのか、しっかり見極めましょう」
二人は顔を見合わせ、無言でうなずく。核心にはまだ遠いものの、少しずつ全体像が浮かび上がってきた。今はただ、自分たちができる範囲で仮説を積み上げ、その糸口を探すしかない。
応接室を出て行くローレライの背を見送りながら、ココナは心の中で誓う。この真相を暴くことが、自分の名誉を取り戻し、そしてローレライの無実を証明する手段にもなるのだ。絶対に逃げずに最後まで向き合おう——そう強く思うのだった。
この日、二人はフォルティア伯爵邸の応接室に集まり、商会の資料や貴族の関係図を広げていた。ローレライは書類をめくりながら、静かに口を開く。
「もし、あの粉末が本当に毒だったとしたら、誰が得をするのかしら。私を失脚させたいのか、それともココナ様を追い詰めたいのか。それとも、王太子殿下に害を及ぼすため……?」
「そうよね。王太子殿下が口にする可能性もあったケーキだし、狙いがアルトワーズ殿下という考えも捨てきれない」
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「でも、結局はあなたや私に嫌疑がかかる形になっている。つまり、犯人はそれを利用したかったのかも。王太子を狙うなら、もっと他の方法もあっただろうし……」
「そう……。私か、あるいは両家に何らかの恨みを持つ者が仕組んだ可能性が高いのかもしれない」
仮説を立てては修正し、二人の会話は堂々巡りになりそうだった。そのとき、ココナはふと、ある思いが頭をよぎる。
「そもそも、なぜケーキという手段を使ったのでしょうね。もっと確実に毒を盛る方法はいくらでもあるはず。わざわざ目立つやり方を選んだ気がするわ」
「目立つやり方……たしかに。私の手作りケーキが社交界で話題になっているのは知っていたし、あれを利用すれば大勢の目に触れる。そこに毒が混入していればスキャンダルになる」
「目的は毒殺というより、スキャンダルそのもの、あるいは評判の失墜だったのかもしれない。私の婚約破棄が騒がれるこの時期に合わせるように……」
ローレライも大きく頷く。大勢の前でケーキを落とし、毒らしき粉末が発見された。それだけで十分、ココナとローレライは注目の的になった。犯人はその効果を狙っていた節がある。
「つまり、犯人の狙いは私たちのスキャンダル。王太子との関係性に暗い影を落とす、あるいは王家を巻き込む形で混乱を生むこと。そう推測できるわ」
「もしそうなら、王妃陛下がこれを利用しているか、もしくは陛下自身が仕組んだ……?」
直接的な結論を出すにはまだ弱い。だが、少なくとも事件の動機は“殺害”だけではなく、“失脚や混乱”という政治的な思惑が絡む可能性が見えてきた。
「でも、確証がなければ何も言えない。噂が噂を呼ぶだけで、私たちが逆に責められてしまうわ」
「そうですね。王宮の夜会が近いでしょう。そこに行けば、何かわかるかもしれません。王妃陛下や殿下がどのように動くのか、しっかり見極めましょう」
二人は顔を見合わせ、無言でうなずく。核心にはまだ遠いものの、少しずつ全体像が浮かび上がってきた。今はただ、自分たちができる範囲で仮説を積み上げ、その糸口を探すしかない。
応接室を出て行くローレライの背を見送りながら、ココナは心の中で誓う。この真相を暴くことが、自分の名誉を取り戻し、そしてローレライの無実を証明する手段にもなるのだ。絶対に逃げずに最後まで向き合おう——そう強く思うのだった。
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