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襲撃事件から数日が経ち、伯爵邸の警備は以前にも増して厳重になった。夜会が迫る中、ココナは焦りを感じながらも、ローレライと情報交換を続ける日々を過ごしている。
そんなある日、伯爵邸の門前に見知らぬ男が訪ねてきたという報せが入った。警戒心を高めた従者たちが男を取り囲んでいるらしいが、どうやら自分から名乗り出てきたとのことだ。
「お嬢様、いかがいたしましょう。以前、路地裏で会ったような不審者かもしれません」
「そうね……でも、わざわざここに来たのなら、話を聞いてみる価値はあるかも」
危険を伴う覚悟をしながらも、ココナは控えの間へと男を案内するよう指示した。従者や騎士を同席させ、万が一に備える。
やがて姿を現したのは、そこそこの年齢の男で、顔にはうっすらと疲労の色が刻まれている。ひどく緊張しているのか、落ち着かない様子で周囲を窺っていた。
「初めまして、フォルティア伯爵家のココナと申します。あなたは……?」
「オ、オレは……いや、名乗るほどの者じゃねぇ。ただ、あんたに伝えたいことがある」
男の目には怯えが浮かんでいた。ココナは少し微笑んでみせ、極力穏やかな声で話しかける。
「教えていただけるなら、遠慮なくお話しください。何があったのですか」
すると男は、ゴクリと喉を鳴らしながら声を震わせた。
「先日、倉庫街であんたたちを見かけたとき、逃げちまった者とは別の者だ。実はオレ、あの商会の荷物運びを手伝ってたことがあるんだ。でも、急に仕事がなくなってよ……そんで変なんだが、あの商会は王宮の紋章がついた馬車を使ってたことがあるんだよ」
王宮の紋章。それはまさにココナたちが掴みかけていた手がかりだ。男の言葉にココナは胸を高鳴らせる。
「紋章まで確認できたんですか。どんな形をしていました」
「ライオンと竜が向かい合って、剣を挟んでるような……確か、ガルシア王家に縁のある貴族の紋章だと聞いたことがあるが……」
男はそれ以上は詳しく知らないらしく、言葉を濁した。だが、それだけでも十分衝撃的だ。王家に縁のある貴族の紋章を掲げた馬車が、あの倉庫街で怪しげな取引をしていたのだから。
「ありがとう。あなたが話してくれたこと、きっと助けになります」
「いや……オレもあんまり喋りたくねぇんだ。あんたんとこの警備が厳重なのを見て、やっと安心して来れた。もしバレたら、オレの命がどうなるか……」
そう言って身を縮こませる男を見て、ココナは切なくなる。権力の闇に触れれば、それだけで身に危険が及ぶ世界。自分自身もその恐ろしさを思い知らされたばかりだった。
「大丈夫。私のほうで、あなたの存在が広まらないよう配慮します」
「……あんた、婚約破棄されたとか、毒を仕込んだとか噂されてるけど、本当は違うんだろう。オレは信じるよ」
男はそれだけ言うと、護衛の誘導で急ぎ屋敷を後にした。ココナは長く息を吐き出しながら、頭を整理する。王家に縁のある紋章——それはまさに今、疑惑の的になっている“高位貴族”を指し示す重要な証言ではないだろうか。
「これが真実なら、黒幕はかなり絞れる。王家の血縁や、準じる立場の貴族など……」
思考を巡らせるうちに、夜会で顔を合わせる上級貴族たちの名前が次々に浮かんでくる。いずれも王室と深い繋がりを持ち、独自の政治力を誇る人物ばかりだ。
次は誰が、この情報を握り潰そうと動くのか。それを考えるだけでゾッとするが、ココナはそれでも真実に近づいた感触を覚えていた
そんなある日、伯爵邸の門前に見知らぬ男が訪ねてきたという報せが入った。警戒心を高めた従者たちが男を取り囲んでいるらしいが、どうやら自分から名乗り出てきたとのことだ。
「お嬢様、いかがいたしましょう。以前、路地裏で会ったような不審者かもしれません」
「そうね……でも、わざわざここに来たのなら、話を聞いてみる価値はあるかも」
危険を伴う覚悟をしながらも、ココナは控えの間へと男を案内するよう指示した。従者や騎士を同席させ、万が一に備える。
やがて姿を現したのは、そこそこの年齢の男で、顔にはうっすらと疲労の色が刻まれている。ひどく緊張しているのか、落ち着かない様子で周囲を窺っていた。
「初めまして、フォルティア伯爵家のココナと申します。あなたは……?」
「オ、オレは……いや、名乗るほどの者じゃねぇ。ただ、あんたに伝えたいことがある」
男の目には怯えが浮かんでいた。ココナは少し微笑んでみせ、極力穏やかな声で話しかける。
「教えていただけるなら、遠慮なくお話しください。何があったのですか」
すると男は、ゴクリと喉を鳴らしながら声を震わせた。
「先日、倉庫街であんたたちを見かけたとき、逃げちまった者とは別の者だ。実はオレ、あの商会の荷物運びを手伝ってたことがあるんだ。でも、急に仕事がなくなってよ……そんで変なんだが、あの商会は王宮の紋章がついた馬車を使ってたことがあるんだよ」
王宮の紋章。それはまさにココナたちが掴みかけていた手がかりだ。男の言葉にココナは胸を高鳴らせる。
「紋章まで確認できたんですか。どんな形をしていました」
「ライオンと竜が向かい合って、剣を挟んでるような……確か、ガルシア王家に縁のある貴族の紋章だと聞いたことがあるが……」
男はそれ以上は詳しく知らないらしく、言葉を濁した。だが、それだけでも十分衝撃的だ。王家に縁のある貴族の紋章を掲げた馬車が、あの倉庫街で怪しげな取引をしていたのだから。
「ありがとう。あなたが話してくれたこと、きっと助けになります」
「いや……オレもあんまり喋りたくねぇんだ。あんたんとこの警備が厳重なのを見て、やっと安心して来れた。もしバレたら、オレの命がどうなるか……」
そう言って身を縮こませる男を見て、ココナは切なくなる。権力の闇に触れれば、それだけで身に危険が及ぶ世界。自分自身もその恐ろしさを思い知らされたばかりだった。
「大丈夫。私のほうで、あなたの存在が広まらないよう配慮します」
「……あんた、婚約破棄されたとか、毒を仕込んだとか噂されてるけど、本当は違うんだろう。オレは信じるよ」
男はそれだけ言うと、護衛の誘導で急ぎ屋敷を後にした。ココナは長く息を吐き出しながら、頭を整理する。王家に縁のある紋章——それはまさに今、疑惑の的になっている“高位貴族”を指し示す重要な証言ではないだろうか。
「これが真実なら、黒幕はかなり絞れる。王家の血縁や、準じる立場の貴族など……」
思考を巡らせるうちに、夜会で顔を合わせる上級貴族たちの名前が次々に浮かんでくる。いずれも王室と深い繋がりを持ち、独自の政治力を誇る人物ばかりだ。
次は誰が、この情報を握り潰そうと動くのか。それを考えるだけでゾッとするが、ココナはそれでも真実に近づいた感触を覚えていた
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