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王妃フィリアとの対面から数日後、ココナは伯爵邸の書斎でローレライとともに情報を整理していた。夜会がいよいよ間近に迫る中、彼女たちの疑念は一人の貴族の名に行き着きつつあった。
「グレンダール公爵家……」
ローレライが書類に記された紋章を指し示しながら、小声で呟く。ライオンと竜が剣を挟むという紋章は、まさにグレンダール公爵家のものに酷似しているのだ。グレンダール家は王族に連なる血筋を持ち、宮廷内でも強い発言力を誇る存在として知られている。
「この公爵家がケーキの材料を仕入れた商会と何らかの取引を持っていたとしたら、毒の混入事件にも深く関与している可能性が高い」
「そうね。しかも、近頃はグレンダール公爵が王太子殿下に対し、別の縁談を進めようとしているという噂まである」
ローレライが口にするその縁談は、隣国の王女をアルトワーズ王太子の正妃に据える案だという。もしそれが実現すれば、国内の他貴族に対して強大な影響力を握れるのは公爵家。つまり、フォルティア家やグランディア家はもちろん、王妃フィリアでさえも警戒を強めざるを得ないだろう。
「それが事実なら、私との縁談を強引に壊したのも、彼らの思惑かもしれない」
ココナは婚約破棄の一件を思い返す。王太子の意志というより、周囲の政治的圧力で破棄を余儀なくされた可能性が高い。そして、その裏でケーキ事件を利用し、自分やローレライを追い落とすことで別の婚約を進めようとしていたのだとすれば、つじつまは合う。
「とはいえ、まだ決定的な証拠がありません。グレンダール公爵家を名指しするには、何か動かぬ事実が必要です」
「ええ。夜会の場で、うかつに糾弾するわけにもいかない。王妃様も“穏便に”と釘を刺してきたし」
ローレライは苦い表情を浮かべる。王妃が敵か味方か判別できない状況で、下手をすればフォルティア家とグランディア家が両方とも王宮からの信用を失いかねない。
「でも、少なくともグレンダール家こそが今最も疑わしい。あの倉庫街に紋章付きの馬車を出していたのも、ほかならぬ彼らでしょう」
「その馬車を運転していた人や、商会の関係者を何とかして探し出せれば……」
そう話しているとき、執事が部屋に入ってきて恭しく頭を下げる。
「お嬢様方、失礼いたします。先日匿名の男が話していた馬車の一件ですが、あれがグレンダール家のものだという目撃証言がさらに増えております」
「やはり……」
ローレライが息を呑んだまま頷く。情報は繋がりつつある。グレンダール家が犯人であるという確信に、また一歩近づいたといえるだろう。
しかし、あくまで周囲から聞こえるのは目撃証言という噂の域を出ない。公爵家の名誉を揺るがす行為に踏み込むには、もっと確固とした裏付けが欲しい。夜会が行われるまで、時間はほとんど残されていないのに。
「ローレライ様、最後まで諦めずに動きましょう。必ず、私たちが正しかったと証明してみせる」
「もちろんよ。今さら引き返す気なんてないわ」
二人の決意は固いが、その先に待つのは強大な公爵家との対峙かもしれない。夜会の中でどんな仕掛けが待っているのかを想像すると、胸に嫌な高鳴りを感じる。
犯人の影がグレンダール公爵家へと集約されつつある今、ココナたちは最後の準備を進めながら、王宮の夜会の幕開けを静かに待ち受けることにした。
「グレンダール公爵家……」
ローレライが書類に記された紋章を指し示しながら、小声で呟く。ライオンと竜が剣を挟むという紋章は、まさにグレンダール公爵家のものに酷似しているのだ。グレンダール家は王族に連なる血筋を持ち、宮廷内でも強い発言力を誇る存在として知られている。
「この公爵家がケーキの材料を仕入れた商会と何らかの取引を持っていたとしたら、毒の混入事件にも深く関与している可能性が高い」
「そうね。しかも、近頃はグレンダール公爵が王太子殿下に対し、別の縁談を進めようとしているという噂まである」
ローレライが口にするその縁談は、隣国の王女をアルトワーズ王太子の正妃に据える案だという。もしそれが実現すれば、国内の他貴族に対して強大な影響力を握れるのは公爵家。つまり、フォルティア家やグランディア家はもちろん、王妃フィリアでさえも警戒を強めざるを得ないだろう。
「それが事実なら、私との縁談を強引に壊したのも、彼らの思惑かもしれない」
ココナは婚約破棄の一件を思い返す。王太子の意志というより、周囲の政治的圧力で破棄を余儀なくされた可能性が高い。そして、その裏でケーキ事件を利用し、自分やローレライを追い落とすことで別の婚約を進めようとしていたのだとすれば、つじつまは合う。
「とはいえ、まだ決定的な証拠がありません。グレンダール公爵家を名指しするには、何か動かぬ事実が必要です」
「ええ。夜会の場で、うかつに糾弾するわけにもいかない。王妃様も“穏便に”と釘を刺してきたし」
ローレライは苦い表情を浮かべる。王妃が敵か味方か判別できない状況で、下手をすればフォルティア家とグランディア家が両方とも王宮からの信用を失いかねない。
「でも、少なくともグレンダール家こそが今最も疑わしい。あの倉庫街に紋章付きの馬車を出していたのも、ほかならぬ彼らでしょう」
「その馬車を運転していた人や、商会の関係者を何とかして探し出せれば……」
そう話しているとき、執事が部屋に入ってきて恭しく頭を下げる。
「お嬢様方、失礼いたします。先日匿名の男が話していた馬車の一件ですが、あれがグレンダール家のものだという目撃証言がさらに増えております」
「やはり……」
ローレライが息を呑んだまま頷く。情報は繋がりつつある。グレンダール家が犯人であるという確信に、また一歩近づいたといえるだろう。
しかし、あくまで周囲から聞こえるのは目撃証言という噂の域を出ない。公爵家の名誉を揺るがす行為に踏み込むには、もっと確固とした裏付けが欲しい。夜会が行われるまで、時間はほとんど残されていないのに。
「ローレライ様、最後まで諦めずに動きましょう。必ず、私たちが正しかったと証明してみせる」
「もちろんよ。今さら引き返す気なんてないわ」
二人の決意は固いが、その先に待つのは強大な公爵家との対峙かもしれない。夜会の中でどんな仕掛けが待っているのかを想像すると、胸に嫌な高鳴りを感じる。
犯人の影がグレンダール公爵家へと集約されつつある今、ココナたちは最後の準備を進めながら、王宮の夜会の幕開けを静かに待ち受けることにした。
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