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アルトワーズが「婚約破棄を後悔している」と明言した瞬間、会場を満たす空気は一変した。ココナを巡る冷たい視線は、戸惑いや好奇の入り混じったものに変化し、ざわつきが絶えない。
「まさか、王太子殿下があそこまで……」
「フォルティア令嬢を本気で想っていたのかしら」
人々の囁きを浴びながら、ココナは胸の奥に温かいものがこみ上げるのを感じた。長く味わった孤独や辛苦を思えば、ようやく一筋の光が差し込んだ気がする。だが、それと同時に混乱も広がっていた。自分が本当に望んでいるのは何かを、今は考えきれない。
「ココナ様、これでもう“悪役令嬢”なんて呼び方をする人はいなくなりますわ。だって殿下が、あなたの名誉を守ると宣言したんですもの」
ローレライが安堵の笑みを浮かべて囁く。毒騒動と婚約破棄のきっかけとなった誤解がようやく解け始め、ココナの“悪役令嬢”という烙印は薄れつつあった。
しかし、当のココナ自身は素直に喜びきれない。アルトワーズの想いは嬉しいが、これですべてが解決するわけではない。グレンダール公爵と思われる真犯人が明かされなければ、ローレライやココナが受けた傷は終わらないのだ。
「ローレライ様、今のうちに公爵を追及する手立てはありませんか。王太子殿下の言葉も後押しになるかもしれない」
「それが……今はまだ、名指しするほどの証拠が足りない。あの方の取り巻きたちが先回りして、私たちの言葉を封じる可能性もあります」
ローレライも苦い顔をして俯く。公爵家の政治力は想像を絶するほど大きい。もし迂闊に公爵を糾弾して失敗すれば、逆にフォルティア家もグランディア家も窮地に立たされる。
「そう……。とにかく様子を見ましょう。王妃様やアルトワーズ殿下が、いずれ何らかの形で公爵家に切り込むかもしれない」
二人がひそひそ声で話していると、周囲の貴族たちの視線が再び集まってきた。先ほどまで“悪役令嬢”と揶揄していた人々ですら、曖昧に笑みを向けてきたり、話しかけてきそうな素振りを見せる。手のひら返しとはまさにこのことだ。
「フォルティア令嬢、お久しぶりですわ。あのケーキの件、大変でしたわね。私、ずっと疑っていませんでしたのよ」
言葉とは裏腹に、よそよそしい笑い方をする令嬢が近づいてくる。ココナは苦笑しながら形だけ挨拶を交わし、すぐに相手を遠ざけた。周囲の印象操作が急転直下で変化するのを目の当たりにし、“悪役令嬢”という仮面が、実はどれだけもろいレッテルだったのかを実感する。
「なんだか、虚しいですね」
「ええ。でも、今は耐えて。夜会が終わるまで、私たちは望まない争いを避けるほうが賢明だわ」
そう言った矢先、グレンダール公爵が再び大広間を横切り、王妃フィリアのもとへ近づいていくのが見えた。フィリアも冷ややかな眼差しを返し、周囲を気遣いながら二言三言、言葉を交わしているようだ。
「きっと王妃様も、公爵の動きを注視しているのでしょうね」
「ええ。ただ、公爵は自らの権力を背景に、簡単には崩れないと思う」
悪役令嬢という仮面は崩れかけているが、まだ完全には取り払われていない。真犯人を明かし、公爵に裁きを下すまでが本当の意味での終結だ。ココナは強く拳を握り、ローレライとともに監視の目を離さない。
踊りと談笑が続く一方、大広間の空気には厳かな張り詰めが混じる。視線の先にいるグレンダール公爵の背中からは、どこか不穏な闇が揺らめいていた。
「まさか、王太子殿下があそこまで……」
「フォルティア令嬢を本気で想っていたのかしら」
人々の囁きを浴びながら、ココナは胸の奥に温かいものがこみ上げるのを感じた。長く味わった孤独や辛苦を思えば、ようやく一筋の光が差し込んだ気がする。だが、それと同時に混乱も広がっていた。自分が本当に望んでいるのは何かを、今は考えきれない。
「ココナ様、これでもう“悪役令嬢”なんて呼び方をする人はいなくなりますわ。だって殿下が、あなたの名誉を守ると宣言したんですもの」
ローレライが安堵の笑みを浮かべて囁く。毒騒動と婚約破棄のきっかけとなった誤解がようやく解け始め、ココナの“悪役令嬢”という烙印は薄れつつあった。
しかし、当のココナ自身は素直に喜びきれない。アルトワーズの想いは嬉しいが、これですべてが解決するわけではない。グレンダール公爵と思われる真犯人が明かされなければ、ローレライやココナが受けた傷は終わらないのだ。
「ローレライ様、今のうちに公爵を追及する手立てはありませんか。王太子殿下の言葉も後押しになるかもしれない」
「それが……今はまだ、名指しするほどの証拠が足りない。あの方の取り巻きたちが先回りして、私たちの言葉を封じる可能性もあります」
ローレライも苦い顔をして俯く。公爵家の政治力は想像を絶するほど大きい。もし迂闊に公爵を糾弾して失敗すれば、逆にフォルティア家もグランディア家も窮地に立たされる。
「そう……。とにかく様子を見ましょう。王妃様やアルトワーズ殿下が、いずれ何らかの形で公爵家に切り込むかもしれない」
二人がひそひそ声で話していると、周囲の貴族たちの視線が再び集まってきた。先ほどまで“悪役令嬢”と揶揄していた人々ですら、曖昧に笑みを向けてきたり、話しかけてきそうな素振りを見せる。手のひら返しとはまさにこのことだ。
「フォルティア令嬢、お久しぶりですわ。あのケーキの件、大変でしたわね。私、ずっと疑っていませんでしたのよ」
言葉とは裏腹に、よそよそしい笑い方をする令嬢が近づいてくる。ココナは苦笑しながら形だけ挨拶を交わし、すぐに相手を遠ざけた。周囲の印象操作が急転直下で変化するのを目の当たりにし、“悪役令嬢”という仮面が、実はどれだけもろいレッテルだったのかを実感する。
「なんだか、虚しいですね」
「ええ。でも、今は耐えて。夜会が終わるまで、私たちは望まない争いを避けるほうが賢明だわ」
そう言った矢先、グレンダール公爵が再び大広間を横切り、王妃フィリアのもとへ近づいていくのが見えた。フィリアも冷ややかな眼差しを返し、周囲を気遣いながら二言三言、言葉を交わしているようだ。
「きっと王妃様も、公爵の動きを注視しているのでしょうね」
「ええ。ただ、公爵は自らの権力を背景に、簡単には崩れないと思う」
悪役令嬢という仮面は崩れかけているが、まだ完全には取り払われていない。真犯人を明かし、公爵に裁きを下すまでが本当の意味での終結だ。ココナは強く拳を握り、ローレライとともに監視の目を離さない。
踊りと談笑が続く一方、大広間の空気には厳かな張り詰めが混じる。視線の先にいるグレンダール公爵の背中からは、どこか不穏な闇が揺らめいていた。
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