私との婚約、今日で終わりですか?

ともえなこ

文字の大きさ
38 / 40

38

しおりを挟む
夜会も終盤に近づき、人々の興奮は絶頂に達している。そろそろ締めの挨拶や特別な演出があるはず、と誰もが期待を込めてホールの中央を見つめる。そんな中、王妃フィリアが優雅な足取りで壇上へと上がり、場を制するように手を挙げた。

「皆様、本日は誠にありがとうございます。ここで、私から一つ、大事なお知らせがございます」

 ざわざわと貴族たちが声をひそめ合う。王妃は冷静にそれを受け流しながら、続けた。

「先にお伝えしたケーキ事件の真犯人を、王太子殿下が特定されたようです。王家に対して反逆の意を持ち、毒を用いたと証明できる確固たる証拠が揃いましたので、ここにて皆様へ公表させていただきます」

 瞬く間に静寂が訪れる。会場の隅に立つグレンダール公爵の周囲は固唾を呑んだ取り巻きで満ちているが、誰一人として動こうとしない。息を潜め、王妃の言葉を待つしかないのだ。

「では、殿下。お願いいたします」

 フィリアの促しに応じて、アルトワーズ王太子が前に進む。スッと息を整え、力強い視線を会場に向けた。

「今回の騒動を引き起こし、フォルティア伯爵令嬢とグランディア公爵令嬢を陥れ、さらには私の命を狙おうとした人物……それは、グレンダール公爵、あなたである」

 その瞬間、会場は凍りつくような衝撃に包まれた。人々は一斉にグレンダール公爵へ視線を向ける。公爵の顔からは、あの不敵な笑みが消えていた。むしろ、その眼には怒りと焦りが宿っている。

「殿下、いきなり何を……根拠のない中傷ですな」

「根拠なら、こちらにある。あなたが密かに行っていた商会との取引記録と、毒物を運搬した証拠が揃っている。さらに、あなたの部下が倉庫街で目撃され、馬車に王家の紋章を偽装して使っていたことも判明した」

 アルトワーズは冷静に書類を手に取り、脇に控える騎士が続々と証拠を広げていく。王太子自らの追及に対し、会場を囲む貴族たちは一様に息を呑んでいた。

「あなたは私を毒殺し、別の縁談を進めることで王家を掌握しようとした。しかし、毒騒動が表立ってしまったため、フォルティア伯爵令嬢を悪役に仕立てあげようとし、同時にグランディア公爵令嬢も巻き込んだのだろう」

 王太子の言葉には揺るぎない自信が感じられる。ココナはローレライと手を取り合いながら、涙が出そうになるのを必死でこらえていた。ようやく、長い悪夢が終わるのかもしれない。

「……殿下、そこまで言うなら、こちらにも言い分があります」

 グレンダール公爵が低い声で唸るように言い放つ。だが、その言葉に力はない。すでに証拠が揃った今、逆転は難しいとわかっているのだろう。取り巻きたちも後ずさり、誰一人として助け舟を出さない。

「今さら言い訳を聞く気はない。あなたは王族を狙った重罪人だ。ここで捕えられ、裁きを受けるだろう」

 アルトワーズが静かに手を上げると、騎士団が進み出る。グレンダール公爵は最後に悔しそうな表情を浮かべたが、何も言わずに両腕を縛られた。呆然とする人々は、一瞬でも見逃すまいとその光景に釘付けになる。

 こうして、真犯人として公爵が名指しされ、ケーキ事件と王太子暗殺未遂は大団円を迎えようとしていた。ココナとローレライの胸には、信じられないような安堵が広がる。同時に、長い苦しみからの解放が、涙となって溢れ出しそうだった。

「やっと……終わったんだね」

 ローレライがささやくように呟く。ココナは小さく頷き、手を握り返す。運命の夜は、予想以上に劇的な幕引きを迎えようとしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

『外見しか見なかったあなたへ。私はもう、選ぶ側です』

鷹 綾
恋愛
「お前のようなガキは嫌いだ」 幼く見える容姿を理由に、婚約者ライオネルから一方的に婚約を破棄された 公爵令嬢シルフィーネ・エルフィンベルク。 その夜、嫉妬に狂った伯爵令嬢に突き落とされ、 彼女は一年もの間、意識不明の重体に陥る――。 目を覚ました彼女は、大人びた美貌を手に入れていた。 だが、中身は何ひとつ変わっていない。 にもかかわらず、 かつて彼女を「幼すぎる」と切り捨てた元婚約者は態度を一変させ、 「やり直したい」とすり寄ってくる。 「見かけが変わっても、中身は同じです。 それでもあなたは、私の外見しか見ていなかったのですね?」 静かにそう告げ、シルフィーネは過去を見限る。 やがて彼女に興味を示したのは、 隣国ノルディアの王太子エドワルド。 彼が見ていたのは、美貌ではなく―― 対話し、考え、異論を述べる彼女の“在り方”だった。 これは、 外見で価値を決められた令嬢が、 「選ばれる人生」をやめ、 自分の意思で未来を選び直す物語。 静かなざまぁと、 対等な関係から始まる大人の恋。 そして―― 自分の人生を、自分の言葉で生きるための物語。 ---

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

処理中です...