婚約破棄ですか?道連れにしますけど?

ともえなこ

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決戦の朝

パレードの当日。

王都は、朝から、浮き足立つような、華やかな空気に包まれていた。

沿道には、二人の王子を一目見ようと、大勢の民衆が詰めかけ、窓という窓には、国旗と、隣国アルメリア王国の旗が、並んで掲げられている。

しかし、その輝かしい光景の裏側で、水面下の緊張は、刻一刻と、高まっていた。

「……レベッカ様。ご準備が、整いました」

侍女の声に、私は、鏡の前に立つ自分の姿を、改めて見つめた。

今日の日のために用意された、華やかながらも、動きやすいデザインのドレス。

そのスカートの内側には、アレクシス様が、昨夜、そっと手渡してくれた、護身用の小さなナイフが、巧みに隠されている。

「ええ。ありがとう」

同じく、美しいドレスに身を包んだアナスタシア殿下も、準備を終え、私の隣に立った。

その瞳には、いつもの天真爛漫な光はなく、王族としての、強い覚悟が宿っていた。

今日の作戦で、彼女は、最も危険な『囮』の役を、自ら買って出たのだ。

私たちが、観覧席へと向かう準備をしていると、部屋の扉が、静かに開かれた。

そこに立っていたのは、近衛騎士団長の、正装に身を固めた、アレクシス様だった。

その姿は、凛々しく、神々しいほどに美しかったが、その表情は、鋼のように硬い。

彼は、侍女たちを、目線だけで下がらせると、まっすぐに、私の元へと歩み寄ってきた。

「レベッカ」

「はい」

「……気をつけろ。決して、無茶はするな」

「それは、わたくしの台詞ですわ、アレクシス様。あなた様こそ、どうか、ご無事で」

短い、言葉のやり取り。

だが、その間には、今までの、どんな愛の言葉よりも、深く、強い想いが、込められていた。

彼は、私の手を、強く握りしめると、アナ殿下に向き直る。

「アナスタシア。お前もだ。何かあれば、レベッカと共に、すぐに逃げろ。いいな」

「はい、兄様。ご安心くださいまし」

アナ殿下は、気丈に微笑んだ。

やがて、遠くから、ファンファーレの音が聞こえてくる。

パレードの、始まりの合図だ。

「……行くぞ」

アレクシスの、その一言を合図に、私たちは、それぞれの持ち場へと、向かった。

パレードは、壮麗なものだった。

国王夫妻と、アルメリア王国の王子が乗る、豪華な馬車が、民衆の大歓声に迎えられながら、ゆっくりと、大通りを進んでいく。

アレクシスは、騎士団長として、その馬車のすぐそばに付き、馬の上から、周囲に、鋭い視線を送っていた。

沿道にいる、花売りの娘。パン屋の若者。陽気な大道芸人。

彼らは、皆、アレクシスの指示の元、市民に扮して配置についた、近衛騎士たちだ。

彼らが、時折、アレクシスに向かって送る、目立たない合図が、作戦が、順調に進んでいることを示していた。

私も、アナ殿下と共に、貴賓席から、その光景を見守る。

心臓が、早鐘のように鳴り響き、喉が、カラカラに乾く。

その時、アナ殿下が、私の手を、そっと握ってきた。

その手は、少しだけ、冷たかった。

私たちは、無言で、互いを励まし合う。

パレードの列が、王都で最も大きな、中央広場に、差し掛かろうとしていた。

リリアナたちが、動くとすれば、ここだ。

私は、息を呑み、広場を見渡せる、いくつかの建物の屋根に、意識を集中させた。

いた。

黒い服を着た、数人の男たち。

彼らは、一般市民を装いながらも、その目だけは、獲物を狙う、獣のように、ぎらついていた。

そして、その中の一人が、懐から、何か、筒状のものを取り出すのが、見えた。

私は、アナ殿下の手に、ぐっと、力を込める。

決戦の時が、迫っていた。

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