婚約破棄ですか?道連れにしますけど?

ともえなこ

文字の大きさ
26 / 32

26

しおりを挟む
陽動と真の狙い

パレードの列が、完全に、中央広場に差し掛かった、まさにその瞬間だった。

ドォォォン!!

広場の北側で、轟音と共に、激しい爆発が起こった。

黒い煙が、もうもうと立ち上り、空へと昇っていく。

沿道の民衆から、一斉に、悲鳴が上がった。

「きゃああああっ!」

「な、なんだ!?」

「テロだ! テロリストだぞ!」

人々は、パニックに陥り、我先にと、逃げ惑う。

美しいパレードは、一瞬にして、阿鼻叫喚の地獄絵図へと、姿を変えた。

だが、その混乱の真っ只中で、アレクシスの、雷鳴のような声が、響き渡った。

「陽動だ! 慌てるな! 本命は、別にあるぞ!」

その声は、魔法のように、騎士たちの動揺を鎮める。

「国王陛下と、王子をお守りしろ! 敵は、この混乱に乗じて、別の目的を狙っている!」

その通りだった。

爆発は、恐ろしいが、規模は小さい。

これは、私たちの注意を、北側に引きつけるための、ただの陽動だ。

リリアナの、真の狙いは……。

「……来たわね」

私の隣で、アナ殿下が、静かに呟いた。

その視線の先。

貴賓席が設けられた、建物の階段から、黒い服を着た男たちが、数人、殺到してくるのが見えた。

その手には、抜身の剣が、鈍い光を放っている。

彼らの狙いは、ただ一人。

アナスタシア王女だ。

「アナ殿下を、お守りしろ!」

貴賓席を警護していた、数名の騎士たちが、前に立ちはだかる。

だが、敵の数は、それを、遥かに上回っていた。

次々と、騎士たちが、斬り伏せられていく。

「レベッカ様! アナ殿下! こちらへ!」

生き残った騎士の一人が、私たちに叫ぶ。

だが、その騎士も、背後から、別の男に、斬りつけられてしまった。

絶体絶命。

「……こちらですわ! アナ殿下!」

私は、アナ殿下の、華奢な手首を、強く掴んだ。

そして、彼女を、引きずるようにして、走り出す。

目指すは、貴賓席の、裏手。

事前に、アレクシス様と、何度も確認した、秘密の避難経路だ。

「レベッカ様……!」

「大丈夫ですわ! 必ず、お守りいたします!」

アナ殿下も、さすが、王家の血を引く者。

恐怖に顔をこわばらせながらも、パニックに陥ることなく、しっかりと、自分の足で、私についてくる。

私たちは、絨毯の敷かれた廊下を、ドレスの裾がもつれるのも構わずに、全力で走った。

後ろから、男たちの、荒々しい足音と、怒声が、追いかけてくる。

「逃がすな! 王女を捕らえろ!」

「あの女もだ! 邪魔をするなら、殺してしまえ!」

心臓が、張り裂けそうだった。

だが、足を止めるわけには、いかない。

角を曲がれば、裏庭に通じる、小さな扉があるはずだ。

そこから、脱出すれば……!

私は、最後の力を振り絞り、角を曲がった。

しかし。

そこに広がっていたのは、希望ではなく、絶望だった。

「……まあ、お待ちしておりましたわ。レベッカ様」

扉の前には、数人の男たちと共に、リリアナ・グレイが、まるで、全てを予期していたかのように、静かに、立ちはだかっていた。

その手には、小さな、しかし、明らかに、毒が塗られているであろう、短剣が握られている。

彼女の顔には、もう、可憐な令嬢の面影は、どこにもなかった。

あるのは、獲物を追い詰めた、捕食者の、冷酷な笑みだけ。

「あなたの、その、忌々しい機転も、ここまでですわね」

私たちは、完全に、袋の鼠だった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

当て馬令嬢は自由を謳歌したい〜冷酷王子への愛をゴミ箱に捨てて隣国へ脱走したら、なぜか奈落の底まで追いかけられそうです〜

平山和人
恋愛
公爵令嬢エルナは、熱烈に追いかけていた第一王子シオンに冷たくあしらわれ、挙句の果てに「婚約者候補の中で、お前が一番あり得ない」と吐き捨てられた衝撃で前世の記憶を取り戻す。 そこは乙女ゲームの世界で、エルナは婚約者選別会でヒロインに嫌がらせをした末に処刑される悪役令嬢だった。 「死ぬのも王子も、もう真っ平ご免です!」 エルナは即座に婚約者候補を辞退。目立たぬよう、地味な領地でひっそり暮らす準備を始める。しかし、今までエルナを蔑んでいたはずのシオンが、なぜか彼女を執拗に追い回し始め……? 「逃げられると思うなよ。お前を俺の隣以外に置くつもりはない」 「いや、記憶にあるキャラ変が激しすぎませんか!?」

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【完結】私が誰だか、分かってますか?

美麗
恋愛
アスターテ皇国 時の皇太子は、皇太子妃とその侍女を妾妃とし他の妃を娶ることはなかった 出産時の出血により一時病床にあったもののゆっくり回復した。 皇太子は皇帝となり、皇太子妃は皇后となった。 そして、皇后との間に産まれた男児を皇太子とした。 以降の子は妾妃との娘のみであった。 表向きは皇帝と皇后の仲は睦まじく、皇后は妾妃を受け入れていた。 ただ、皇帝と皇后より、皇后と妾妃の仲はより睦まじくあったとの話もあるようだ。 残念ながら、この妾妃は産まれも育ちも定かではなかった。 また、後ろ盾も何もないために何故皇后の侍女となったかも不明であった。 そして、この妾妃の娘マリアーナははたしてどのような娘なのか… 17話完結予定です。 完結まで書き終わっております。 よろしくお願いいたします。

婚約破棄で、おひとり様になれるはずだったのに!?

パリパリかぷちーの
恋愛
主人公ルシアン・ヴァイオレットは、「悪役令嬢」として振る舞う孤独愛好家の公爵令嬢。念願だった第一王子アランとの婚約破棄を言い渡されると、内心では歓喜し、大都会の喧騒から逃れて森の奥の廃墟同然の別荘へと引きこもる。ルシアンの目的は、誰にも邪魔されない至高の静寂ライフを満喫することだった。 しかし、彼女の理想郷にはすでに先客がいた。それは、無口で無愛想だがハイスペックな謎の男、キース。実は彼は、王国の裏社会を統べる『影の英雄』と呼ばれる辺境伯であり、ルシアンの孤高の姿に心奪われた重度の隠れファンだった。

「予備」として連れてこられた私が、本命を連れてきたと勘違いした王国の滅亡フラグを華麗に回収して隣国の聖女になりました

平山和人
恋愛
王国の辺境伯令嬢セレスティアは、生まれつき高い治癒魔法を持つ聖女の器でした。しかし、十年間の婚約期間の末、王太子ルシウスから「真の聖女は別にいる。お前は不要になった」と一方的に婚約を破棄されます。ルシウスが連れてきたのは、派手な加護を持つ自称「聖女」の少女、リリア。セレスティアは失意の中、国境を越えた隣国シエルヴァード帝国へ。 一方、ルシウスはセレスティアの地味な治癒魔法こそが、王国の呪いの進行を十年間食い止めていた「代替の聖女」の役割だったことに気づきません。彼の連れてきたリリアは、見かけの派手さとは裏腹に呪いを加速させる力を持っていました。 隣国でその真の力を認められたセレスティアは、帝国の聖女として迎えられます。王国が衰退し、隣国が隆盛を極める中、ルシウスはようやくセレスティアの真価に気づき復縁を迫りますが、後の祭り。これは、価値を誤認した愚かな男と、自分の力で世界を変えた本物の聖女の、代わりではなく主役になる物語です。

婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!

みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。 幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、 いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。 そして――年末の舞踏会の夜。 「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」 エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、 王国の均衡は揺らぎ始める。 誇りを捨てず、誠実を貫く娘。 政の闇に挑む父。 陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。 そして――再び立ち上がる若き王女。 ――沈黙は逃げではなく、力の証。 公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。 ――荘厳で静謐な政略ロマンス。 (本作品は小説家になろうにも掲載中です)

処理中です...