婚約破棄ですか?道連れにしますけど?

ともえなこ

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悪役令嬢の機転

「さあ、アナスタシア殿下。大人しく、こちらにいらっしゃいな」

リリアナが、毒の塗られた短剣を、アナ殿下に向けながら、一歩、また一歩と、にじり寄ってくる。

後ろからは、追ってきた男たちの足音。

私たちは、完全に、挟み撃ちにされていた。

もう、おしまいか。

そう、覚悟した、その時。

私の頭の中に、かつての自分が、蘇った。

欲しいものは、どんな手を使っても、手に入れる。

邪魔する者は、容赦なく、叩き潰す。

傲慢で、わがままで、そして、誰よりも、誇り高かった、あの『悪役令嬢』の魂が。

(……ふざけないで)

こんな、ぽっと出の、成り上がりの小娘に。

この私が、この国の王女殿下が、屈するものですか。

私は、アナ殿下を、自分の背中へと、ぐいと押しやった。

そして、リリアナに向かって、不敵に、笑いかけてみせる。

「あなたこそ、ここまでですわよ、リリアナ様」

「……なんですって?」

私の、予想外の態度に、リリアナの眉が、ピクリと動く。

「あなたのような、小物の企みが、いつまでも、上手くいくとお思い?」

次の瞬間、私は、隠し持っていた、護身用のナイフを、抜き放っていた。

いや、それで、リリアナに斬りかかったのではない。

私は、そのナイフで、自分の真横にあった、豪華な飾りのついた、カーテンのロープを、一息に、切り裂いたのだ!

分厚く、重いベルベットのカーテンが、轟音と共に、落下する。

それは、私とリリアナたちの間に、即席の、分厚い壁を作り出した。

「なっ……!?」

リリアナたちの、驚きの声が、カーテンの向こうから聞こえる。

「アナ殿下! 今ですわ!」

私は、アナ殿下の手を引き、逆方向へと走り出す。

だが、すぐさま、背後から追ってきた、別の男たちが、私たちの前に、立ちはだかった。

「ちっ……!」

思わず、行儀の悪い舌打ちが漏れる。

男の一人が、いやらしい笑みを浮かべ、アナ殿下に、手を伸ばした。

その、瞬間。

私は、近くの台座に置かれていた、人の頭ほどもある、巨大な、陶器の壺を、両手で、抱え上げた。

そして、渾身の力を込めて、男たちの足元へ、思い切り、突き飛ばす!

ガッシャァァァン!!

けたたましい音と共に、壺が、粉々に砕け散る。

破片が、あたり一面に飛び散り、男たちが、悲鳴を上げて、怯んだ。

「どうかしら! これが、ナティアーノ侯爵家、いえ、悪役令嬢レベッカの、やり方ですわよ!」

私は、仁王立ちになり、叫んだ。

まさに、悪役令嬢、大復活の瞬間だった。

しかし。

その隙も、ほんの、わずかな時間しか、稼げなかった。

体勢を立て直した男たちが、今度こそ、殺意をむき出しにして、私たちに、襲いかかってくる。

多勢に、無勢。

もう、打つ手は、ない。

私が、アナ殿下を庇い、ぎゅっと、目を閉じた、その時。

「――そこまでだ!!」

天から、降ってきたかのような、凛とした声。

そして、ガラスが割れる、派手な音と共に。

私たちの目の前に、一人の男が、舞い降りた。

執務室の、ラフな格好ではない。

市場での、お忍びの姿でもない。

近衛騎士団長の、白銀の鎧を、その身にまとった、アレクシス王子だった。

彼は、近くの窓を突き破って、この場に、駆けつけてくれたのだ。

「……アレクシス、様……」

「怪我は、ないか。レベッカ、アナスタシア」

彼の背中が、こんなにも、広く、頼もしく見えたことは、なかった。

男たちが、一斉に、彼に斬りかかる。

だが、次の瞬間。

閃光が、走った、と、思った。

アレクシスの抜いた剣が、まるで、流れる水のように、しなやかに、しかし、雷のように、鋭く、空間を切り裂く。

キィン! と、金属音が響き渡り、男たちの剣が、次々と、宙を舞った。

あっという間だった。

数人の男たちは、誰一人、彼に、傷一つ負わせることなく、床に、倒れ伏していた。

その、圧倒的な、強さ。

私は、ただ、呆然と、その光景を、見惚れるように、見つめていた。

彼は、私の、そして、この国の、本物の、王子様だった。

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