29 / 32
29
しおりを挟む
過去との決別
リリアナ・グレイによる、王国を揺るがした大事件から、一ヶ月が過ぎた。
王都は、すっかり、元の平和と活気を取り戻していた。
そして、その日。
王宮の会議室では、今回の事件に関する、最後の議題が、話し合われていた。
我が、ナティアーノ家と、クロワ家の、最終的な処遇についてだ。
「両家が、大逆の罪を犯したことは、紛れもない事実。法に則り、厳罰に処すべきです」
ある保守派の貴族が、そう主張する。
確かに、その通りだ。
父も、クロワ公爵も、リリアナに唆されたとはいえ、自らの意思で、王家転覆を企てたのだから。
私は、会議室の隅で、ただ、黙って、その裁きを待っていた。
すると、それまで黙っていた、王妃イザベラ様が、静かに口を開いた。
「ですが、ナティアーノ家の令嬢、レベッカ嬢の功績がなければ、我が国は、今頃、どうなっていたかわかりませんわ」
その、意外な言葉に、私は、顔を上げた。
王妃様は、私の方を見ずに、続けた。
「彼女は、身を挺して、アナスタシアを守り、その機転で、見事、犯人逮捕のきっかけを作りました。この功績は、何物にも代えがたいものでしょう」
その言葉を引き継ぐように、アナ殿下が、声を上げる。
「そうですわ! レベッカ様は、この国の、英雄ですの! そのご実家を、ただ、断罪するだけでは、民も、納得いたしませんわよ!」
そして、最後に、アレクシス様が、立ち上がった。
「国王陛下。お願いがございます」
彼は、玉座に座る、国王陛下に、深く、頭を垂れた。
「ナティアーノ家、並びに、クロワ家については、爵位と領地の全てを剥奪。ですが、極刑は免じ、一族の命と、最低限の財産を保証した上での、国外追放処分としては、いただけませんでしょうか」
その言葉に、会議室が、ざわめく。
それは、反逆者に対する処分としては、あまりに、寛大なものだったからだ。
「レベッカ・ナティアーノの、王国への多大なる貢献に、免じて。何卒、ご裁可を」
国王陛下は、しばらくの間、目を閉じて、黙考していたが、やがて、ゆっくりと、その目を開けた。
「……よかろう。アレクシスの、願いを聞き届けよう」
その、鶴の一声で、全ては、決した。
数日後。
追放処分となった、我が一族が、国を去る日が、やってきた。
私は、見送りのため、港を訪れていた。
すっかり、やつれてしまった父と母が、私の前に、深々と、頭を下げる。
「……レベッカ。すまなかった」
「そして……ありがとう。お前のおかげで、我々は、命だけは、繋ぐことができた」
私は、何も言わず、ただ、首を横に振った。
もう、彼らを、恨む気持ちは、なかった。
その時だった。
「……レベッカ」
聞き覚えのある声に、振り返る。
そこに立っていたのは、囚人服に身を包んだ、ジュリアンだった。
衛兵に付き添われ、彼は、特別に、私との面会を、許されたらしかった。
「君に……謝りたくて、来た」
彼は、私の前に、膝をつくと、土下座をした。
「すまなかった! 俺は、君の気持ちも、自分の愚かさも、何もかも、わかっていなかった!」
「君を傷つけ、裏切り、そして、リリアナにいいように利用された! 全て、俺の、弱さのせいだ!」
彼は、子供のように、声を上げて、泣いていた。
かつての、傲慢な彼の姿は、どこにもない。
そこにいるのは、全てを失った、一人の、哀れな男だけだった。
私は、そんな彼を、静かに、見下ろした。
そして、告げる。
「……もう、あなた様に、関心はございませんの」
「え……?」
「ですから、どうぞ、お顔をお上げになって。そして、新しい土地で、お元気で、お暮らしになって」
許す、とか、許さない、とか、そういう次元では、ない。
彼は、もう、私の人生にとって、何の意味も持たない、過去の人なのだ。
私の、その、あまりに静かな言葉に、彼は、全てを悟ったようだった。
彼は、もう一度、「すまなかった」と呟くと、衛兵に連れられて、去っていった。
船の、出港を告げる、汽笛が鳴り響く。
私は、遠ざかっていく船を、ただ、黙って、見つめていた。
これで、本当に、全てが終わった。
私の、過去との、長い、長い、決別だった。
リリアナ・グレイによる、王国を揺るがした大事件から、一ヶ月が過ぎた。
王都は、すっかり、元の平和と活気を取り戻していた。
そして、その日。
王宮の会議室では、今回の事件に関する、最後の議題が、話し合われていた。
我が、ナティアーノ家と、クロワ家の、最終的な処遇についてだ。
「両家が、大逆の罪を犯したことは、紛れもない事実。法に則り、厳罰に処すべきです」
ある保守派の貴族が、そう主張する。
確かに、その通りだ。
父も、クロワ公爵も、リリアナに唆されたとはいえ、自らの意思で、王家転覆を企てたのだから。
私は、会議室の隅で、ただ、黙って、その裁きを待っていた。
すると、それまで黙っていた、王妃イザベラ様が、静かに口を開いた。
「ですが、ナティアーノ家の令嬢、レベッカ嬢の功績がなければ、我が国は、今頃、どうなっていたかわかりませんわ」
その、意外な言葉に、私は、顔を上げた。
王妃様は、私の方を見ずに、続けた。
「彼女は、身を挺して、アナスタシアを守り、その機転で、見事、犯人逮捕のきっかけを作りました。この功績は、何物にも代えがたいものでしょう」
その言葉を引き継ぐように、アナ殿下が、声を上げる。
「そうですわ! レベッカ様は、この国の、英雄ですの! そのご実家を、ただ、断罪するだけでは、民も、納得いたしませんわよ!」
そして、最後に、アレクシス様が、立ち上がった。
「国王陛下。お願いがございます」
彼は、玉座に座る、国王陛下に、深く、頭を垂れた。
「ナティアーノ家、並びに、クロワ家については、爵位と領地の全てを剥奪。ですが、極刑は免じ、一族の命と、最低限の財産を保証した上での、国外追放処分としては、いただけませんでしょうか」
その言葉に、会議室が、ざわめく。
それは、反逆者に対する処分としては、あまりに、寛大なものだったからだ。
「レベッカ・ナティアーノの、王国への多大なる貢献に、免じて。何卒、ご裁可を」
国王陛下は、しばらくの間、目を閉じて、黙考していたが、やがて、ゆっくりと、その目を開けた。
「……よかろう。アレクシスの、願いを聞き届けよう」
その、鶴の一声で、全ては、決した。
数日後。
追放処分となった、我が一族が、国を去る日が、やってきた。
私は、見送りのため、港を訪れていた。
すっかり、やつれてしまった父と母が、私の前に、深々と、頭を下げる。
「……レベッカ。すまなかった」
「そして……ありがとう。お前のおかげで、我々は、命だけは、繋ぐことができた」
私は、何も言わず、ただ、首を横に振った。
もう、彼らを、恨む気持ちは、なかった。
その時だった。
「……レベッカ」
聞き覚えのある声に、振り返る。
そこに立っていたのは、囚人服に身を包んだ、ジュリアンだった。
衛兵に付き添われ、彼は、特別に、私との面会を、許されたらしかった。
「君に……謝りたくて、来た」
彼は、私の前に、膝をつくと、土下座をした。
「すまなかった! 俺は、君の気持ちも、自分の愚かさも、何もかも、わかっていなかった!」
「君を傷つけ、裏切り、そして、リリアナにいいように利用された! 全て、俺の、弱さのせいだ!」
彼は、子供のように、声を上げて、泣いていた。
かつての、傲慢な彼の姿は、どこにもない。
そこにいるのは、全てを失った、一人の、哀れな男だけだった。
私は、そんな彼を、静かに、見下ろした。
そして、告げる。
「……もう、あなた様に、関心はございませんの」
「え……?」
「ですから、どうぞ、お顔をお上げになって。そして、新しい土地で、お元気で、お暮らしになって」
許す、とか、許さない、とか、そういう次元では、ない。
彼は、もう、私の人生にとって、何の意味も持たない、過去の人なのだ。
私の、その、あまりに静かな言葉に、彼は、全てを悟ったようだった。
彼は、もう一度、「すまなかった」と呟くと、衛兵に連れられて、去っていった。
船の、出港を告げる、汽笛が鳴り響く。
私は、遠ざかっていく船を、ただ、黙って、見つめていた。
これで、本当に、全てが終わった。
私の、過去との、長い、長い、決別だった。
74
あなたにおすすめの小説
当て馬令嬢は自由を謳歌したい〜冷酷王子への愛をゴミ箱に捨てて隣国へ脱走したら、なぜか奈落の底まで追いかけられそうです〜
平山和人
恋愛
公爵令嬢エルナは、熱烈に追いかけていた第一王子シオンに冷たくあしらわれ、挙句の果てに「婚約者候補の中で、お前が一番あり得ない」と吐き捨てられた衝撃で前世の記憶を取り戻す。 そこは乙女ゲームの世界で、エルナは婚約者選別会でヒロインに嫌がらせをした末に処刑される悪役令嬢だった。
「死ぬのも王子も、もう真っ平ご免です!」
エルナは即座に婚約者候補を辞退。目立たぬよう、地味な領地でひっそり暮らす準備を始める。しかし、今までエルナを蔑んでいたはずのシオンが、なぜか彼女を執拗に追い回し始め……? 「逃げられると思うなよ。お前を俺の隣以外に置くつもりはない」 「いや、記憶にあるキャラ変が激しすぎませんか!?」
婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています
由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、
悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。
王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。
だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、
冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。
再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。
広場で語られる真実。
そして、無自覚に人を惹きつけてしまう
リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。
これは、
悪役令嬢として断罪された少女が、
「誰かの物語の脇役」ではなく、
自分自身の人生を取り戻す物語。
過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、
彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
【完結】私が誰だか、分かってますか?
美麗
恋愛
アスターテ皇国
時の皇太子は、皇太子妃とその侍女を妾妃とし他の妃を娶ることはなかった
出産時の出血により一時病床にあったもののゆっくり回復した。
皇太子は皇帝となり、皇太子妃は皇后となった。
そして、皇后との間に産まれた男児を皇太子とした。
以降の子は妾妃との娘のみであった。
表向きは皇帝と皇后の仲は睦まじく、皇后は妾妃を受け入れていた。
ただ、皇帝と皇后より、皇后と妾妃の仲はより睦まじくあったとの話もあるようだ。
残念ながら、この妾妃は産まれも育ちも定かではなかった。
また、後ろ盾も何もないために何故皇后の侍女となったかも不明であった。
そして、この妾妃の娘マリアーナははたしてどのような娘なのか…
17話完結予定です。
完結まで書き終わっております。
よろしくお願いいたします。
婚約破棄で、おひとり様になれるはずだったのに!?
パリパリかぷちーの
恋愛
主人公ルシアン・ヴァイオレットは、「悪役令嬢」として振る舞う孤独愛好家の公爵令嬢。念願だった第一王子アランとの婚約破棄を言い渡されると、内心では歓喜し、大都会の喧騒から逃れて森の奥の廃墟同然の別荘へと引きこもる。ルシアンの目的は、誰にも邪魔されない至高の静寂ライフを満喫することだった。
しかし、彼女の理想郷にはすでに先客がいた。それは、無口で無愛想だがハイスペックな謎の男、キース。実は彼は、王国の裏社会を統べる『影の英雄』と呼ばれる辺境伯であり、ルシアンの孤高の姿に心奪われた重度の隠れファンだった。
「予備」として連れてこられた私が、本命を連れてきたと勘違いした王国の滅亡フラグを華麗に回収して隣国の聖女になりました
平山和人
恋愛
王国の辺境伯令嬢セレスティアは、生まれつき高い治癒魔法を持つ聖女の器でした。しかし、十年間の婚約期間の末、王太子ルシウスから「真の聖女は別にいる。お前は不要になった」と一方的に婚約を破棄されます。ルシウスが連れてきたのは、派手な加護を持つ自称「聖女」の少女、リリア。セレスティアは失意の中、国境を越えた隣国シエルヴァード帝国へ。
一方、ルシウスはセレスティアの地味な治癒魔法こそが、王国の呪いの進行を十年間食い止めていた「代替の聖女」の役割だったことに気づきません。彼の連れてきたリリアは、見かけの派手さとは裏腹に呪いを加速させる力を持っていました。
隣国でその真の力を認められたセレスティアは、帝国の聖女として迎えられます。王国が衰退し、隣国が隆盛を極める中、ルシウスはようやくセレスティアの真価に気づき復縁を迫りますが、後の祭り。これは、価値を誤認した愚かな男と、自分の力で世界を変えた本物の聖女の、代わりではなく主役になる物語です。
婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!
みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。
幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、
いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。
そして――年末の舞踏会の夜。
「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」
エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、
王国の均衡は揺らぎ始める。
誇りを捨てず、誠実を貫く娘。
政の闇に挑む父。
陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。
そして――再び立ち上がる若き王女。
――沈黙は逃げではなく、力の証。
公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。
――荘厳で静謐な政略ロマンス。
(本作品は小説家になろうにも掲載中です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる