この悪役令嬢できる!

ともえなこ

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リリアナは、追い詰められていた。
アルベルト殿下の心は、日に日に自分から離れていくのが分かった。
部屋に閉じこもり、自分のことなど目もくれない。
彼の口から出るのは、ため息と、そして、うわ言のような「ウピエル」という名前だけ。

(このままでは、捨てられる……!)

その恐怖が、リリアナの心を支配していた。
彼女が頼れるのは、アルベルト殿下の寵愛だけなのだ。
それを失えば、自分には何も残らない。
貴族社会からも、民衆からも、自分は「ウピエル様の代わりにはなれない、無能な女」と見なされている。

(全部、あの女のせいよ!)

憎しみが、黒い炎のようにリリアナの心に燃え上がった。
ウピエル・クライフォルト。
あんな女がいなければ、自分は幸せな王太子妃になれたはずなのに。

(あいつの評判を、落としてやればいいんだわ)

追い詰められたリリアナは、浅はかな考えに行き着いた。
ウピエルの功績が、彼女を苦しめているのなら、その功績そのものを、嘘で塗り固めてしまえばいいのだ。

リリアナは、まず手近な侍女たちに、それとなく噂を流し始めた。

「ねえ、聞いたことある? クライフォルト公爵家の『奇跡の石鹸』の話……」

「ええ、リリアナ様。素晴らしい評判ですわね」

「でも、本当かしら……。私、聞いたの。あれは、ウピエル様が開発したんじゃなくて、公爵家がどこかの哀れな錬金術師から、タダ同然で奪い取った技術なんですって」

侍女は、きょとんとした顔でリリアナを見た。

「まあ……ですが、そのような噂は……」

「本当よ! 今のクライフォルト公爵家は、ウピエル様が婚約破棄されたことで、お金に困っているらしいの。だから、そんな汚い手を使って……」

しかし、侍女の反応は、リリアナが期待したものとは違った。
彼女は、困ったように微笑むだけだった。

「リリアナ様。クライフォルト公爵家が、お金に困るなどということは、天地がひっくり返ってもありえませんわ。それに、ウピエル様が、そのようなことをなさるはずが……」

リリアナは、別の令嬢たちのお茶会でも、同じような噂を流してみた。

「クライフォルト公爵領が、大豊作なんですってね」

「ええ、素晴らしいことですわ」

「でも、あれも偶然らしいわよ。たまたま、その年だけ天候が良かっただけなのに、全部ウピエル様の手柄ということにして、民を騙しているんですって。恐ろしい方……」

しかし、令嬢たちは、冷ややかな視線をリリアナに向けるだけだった。

「リリアナ様。何を根拠に、そのようなことをおっしゃるのですか?」

「わたくしの実家も、クライフォルト公爵領の隣ですけれど、今年の天候は例年通りでしたわ。豊作は、明らかにあの『自動水やり魔法具』のおかげだと、領民の誰もが感謝しておりますのに」

「ウピエル様を、貶めようとなさっているようにしか聞こえませんわね」

リリアナの試みは、ことごとく失敗に終わった。
ウピエルの功績は、あまりにも具体的で、圧倒的だった。
その恩恵を受けている人々が、大勢いる。
そんな確固たる事実の前では、リリアナの流す根も葉もない噂など、誰の心にも響かなかったのだ。

それどころか、噂はすぐにブーメランとなって、リリアナ自身に返ってきた。

「聞いた? リリアナ様、ウピエル様の悪口を言いふらしているんですって」

「まあ、なんて見苦しい。嫉妬ですわね」

「殿下の心が、ウピエル様に戻りかけているから、焦ってらっしゃるのよ」

「やはり、あの方に国母など務まるはずがないわ。品性が、あまりにも違いすぎる」

リリアナは、自分が完全に孤立していることを、思い知らされた。
味方は、どこにもいない。
アルベルト殿下の寵愛も、もうない。
自分が立っている場所が、まるで流砂のように、足元から崩れていく。
その恐怖と絶望の中で、リリアナは、さらに危険な思考へと堕ちていくのだった。
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