『クズ王太子の婚約者って私聞いてませんわ!』

ともえなこ

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絶望。

まさに、その一言に尽きる状況だった。

王都は完全に宰相の手に落ち、私たちは反逆者の濡れ衣を着せられている。

正面から城門を突破することなど、到底不可能だ。

「……方法が、一つだけあります」

重い沈黙を破ったのは、レオノーラ様だった。

彼女は、決意を固めた目で、私たちをまっすぐに見つめた。

「私が、城内に残っている王家の兵を率いて、陽動を仕掛けます。宰相の注意を、正面の城門に引きつける」

「なんですって!? そんな、無茶ですわ!」

フブカ王女が、叫ぶ。

「危険すぎます! それでは、レオノーラが……!」

「他に、手はありません」

レオノーラ様の声は、静かだったが、その覚悟の固さを物語っていた。

「私が時間を稼いでいる隙に、お二人で王宮に忍び込み、殿下に解毒薬を届けるのです。それが、唯一にして、最後の望みです」

レオノーラ様は、懐から古い羊皮紙の地図を取り出した。

「これは、王宮の地下に張り巡らされた、秘密の通路の地図です。王家の人間でも、ごく一部の者しか知りません」

彼女は、地図の一点を指し示した。

「入り口は、王都の旧市街にある、古い教会の地下墓地。そこから、王宮の、殿下の寝室のすぐ近くまで、出ることができます」

「しかし……!」

なおも食い下がるフブカ王女の肩に、レオノーラ様は、そっと手を置いた。

「王家と、この国をお守りすること。それが、私の騎士としての務めであり、誇りです。フブカ様」

その眼差しは、あまりにも真っ直ぐで、そして、優しかった。

別れの時が来た。

レオノーラ様は、マルセルと共に、仲間を集めるために闇の中へと消えていく。

その背中に向かって、フブカ王女は、涙声で叫んだ。

「レオノーラ! 必ず、生きて戻ってきてくださいまし!」

レオノーラ様は、一度だけ振り返り、不敵に微笑んだ。

「御意に」

そして、今度こそ、その姿は闇に溶けていった。

レオノーラ様が去った後、フブカ王女は、私の手を取った。

その手は、小さく震えていた。

「行きましょう、リルティア様。レオノーラが作ってくれた、この機会を、無駄にはできません」

「……はい」

私は、涙をぐっとこらえ、力強く頷いた。

もはや、迷っている時間はない。

わたくしの愚かさの償いも、殿下への想いも、全ては、彼を救った後に。

国の未来が、そして、愛する人の命が、今、私たち二人の少女の双肩にかかっていた。

私たちは、解毒薬が入った鞄を固く胸に抱きしめ、レオノーラが示してくれた、地下通路の入り口へと、駆け出した。
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