【R18】偽悪女、実は処女ですが冷徹軍人王を誘惑します

乃木ハルノ

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会談に臨む3

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「こちらへおかけください」
部屋の中央のテーブルは書き物ができるよう少し高めで、その周囲に置かれた椅子は長時間の会合にも耐えられるようクッションがきいている。
室内で待機していた従僕が椅子を引いて、客人を座らせた。
一人めはレオンハルト、そしてその隣の片眼鏡の青年。ホールでもレオンハルトに近い位置で付き従っていたところを見ると、側近なのだろう。
残りの一人はヴァレンツァの兵士と隣り合って部屋の入り口近くに直立していた。
他の兵士たちはあらかじめ、別の部屋で待機するよう命じられている。
「お飲み物はいかがいたしましょう」
レオンハルトとその側近の顔を順番に視線を移し、ベアトリーチェは尋ねた。
「特にご希望がなければワインをお勧めします。我が国の名産品で、評判も良いのですよ」
自分の気持ちを落ち着けるため、そして相手の心を和らげる手助けになってくれればと思っての提案は、レオンハルトに一蹴されてしまう。
「いいや、結構だ。酒は飲まない」
こうまではっきりと断られるとは思わなかった。ベアトリーチェが目を瞬いていると、彼の側近が後を引き取った。
「あるじがこう言っておりますので、代わりにお茶でもいただければと思います」
そこでベアトリーチェは従僕に向かって紅茶と軽食を持ってくるように伝えた。
お茶を待っている間、なんとも言えない沈黙が部屋を包む。
客人へのもてなしとして酒を勧めることは間違ってはいないはずなのだが、こうもはっきりと断られるとは思わなかった。
――下戸なのかしら。それとも、講和会議を前に酒を飲む気になれないだけ?
酒は飲まない、というの常日頃からなのか今限りの話なのか、思いを巡らせる。レオンハルトの見た目からすると、酒が苦手だとしたらかなり意外なことだ。
ちらりと視線を送ると、レオンハルトはベアトリーチェのことを見つめていた。ぶしつけなほどまっすぐな視線を受けて、戸惑いを感じる。
――目を逸らせば、二心あるととらえられてしまうかもしれない。
そう思うと視線を逸らすこともできず、見つめ合ったままゆっくりとまばたきを繰り返す。
努めて平静を装おうとしながらも、ベアトリーチェの胸の内は不安でいっぱいだった。
この先の国の行く末、未熟な自分自身への不信がベアトリーチェの胸に重くのしかかる。
――レオンハルトの澄んだ瞳に、自分の姿はどのように映っているのだろうか。
そう考えると、胸がつきんと痛む。
ヴァレンツァ王女の評判を、彼は耳にしたことがあるはずだ。
肉親を裏切り姦計で国を乗っ取った毒婦。
その噂は、国内外を問わず広く流布しているという。
宰相たちは保身を図るため、ベアトリーチェの悪い噂を吹聴した。贅沢好きの王女のために税をつり上げ、もっと利益を得るために他国を蹂躙した。難しい性格の王女のせいで、メイドや従僕が城に居つかない。
すべては王女のわがままで、脅されてやったことだ。それを逃げ道にするつもりだったのだろう。
もしベアトリーチェが輝くような美姫であれば、朗らかで明るい性格なら根も葉もないと世間が味方をしたかもしれない。
けれど、宵闇の色をした髪や神経質そうな切れ長の目、ストレスのためか目の下に浮かんだ隈。そういった陰気な見た目やおとなしく引っ込み思案な性格が噂を真実に近づけた。
ベアトリーチェを悪者にする試みは成功して、今ではこの国では彼女と視線を合わせる人間すらいない。
側使えのメイドはベアトリーチェの本質を知ってから何かと良くしてくれるものの、常に宰相の手の物が目を光らせる中では必要以上の接触をすることを自重していた。
下手に関われば相手に害が及ぶ。そのためベアトリーチェは目を伏せ、人と関わることを避けて息を殺すようにして生きてきた。
だから今、久々に他人と目を合わせることができたことが新鮮だった。
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