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病弱令息は溺愛される
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コンコンコン
ノックの音が聞こえて、ぼくは疲れて横になってしまっていた体勢を整える。
「シェル、お父様だよ。お友達が来てくれたよ」
ゆっくりと開いた扉からお父様と、ぼくよりもうんと大人っぽい男の子が入ってくる。暗めの銀髪に夜空みたいな濃紺の瞳。涼しげなのに男らしい端正な顔の美少年。まるで絵本の王子様か騎士様みたいなその男の子はソファに座る僕に合わせて少し屈んでくれた。
「はじめまして、プロエノビル公爵家の嫡男、レオンスティードだよ。」
「は、はじめまして! えと……チャーミルスト侯爵家の次男の、シェルでしゅ!」
はじめてのお友達との挨拶…。とっても緊張して盛大に噛んでしまった。さっきお父様と練習したばかりなのに…。そんな僕を見てもレオンスティード様は優しく微笑んでくれる。
「私は今7歳だから、シェルよりも2歳お兄さんなんだ。友達になってくれるかな? 横に座っても?」
ぼくはコクコクと頷いてこたえる。緊張するけれど、なんだかぽかぽかした気持ちだ。レオンスティード様は2歳差とは思えないほど長身で、体つきからも剣の練習を頑張ってるんだろうなと思う。ベッドの住人の僕はなんだか羨ましくて、こんな人が友達になってくれたのが嬉しくて終始ニコニコしていた。
「レオンスティード様は剣をならっていますか? 僕のお兄様は剣のお稽古をしていて、いつも窓からみてるんです! とってもかっこよくて、レオンスティード様もかっこいいから、剣をやってるのかなって……!」
「あぁ、習っているよ。と言っても息抜き程度にだけれど。シェルはとても楽しそうにお話をしてくれるんだね、かわいいなぁ。」
「そうなんですね……! かっこいーです! ぼくはあんまり動けないから剣を近くで見たこともないんだけれど……あ! でもたくさんぬいぐるみさんを持ってます! ケホッコホッ」
「大丈夫? 良かったら私の肩にもたれていいからね。部屋に入った時にたくさんぬいぐるみを見つけて私も気になっていたんだ。シェルは沢山お友達がいていいなぁ、良かったら私にも紹介してくれないかな?」
はじめてできた僕の人間のお友達のレオンスティード様。ふたつ年上でとっても優しいおにいさん。たくさんニコニコしてくれる。結局その後も嬉しくなって沢山お話してしまって、慣れないことで疲れたのかいつの間にかぼくは眠りについてしまった。
プロエノビル公爵家に生を受けてから7年。次期公爵たるもの文武両道であるようにと育てられてきた。次期公爵にはそれにふさわしい伴侶も必要である……というのは建前で、父上同士仲の良いチャーミルスト侯爵家の次男との縁談話が進んでいた。
今日はその顔合わせの日。どうやら私の婚約者候補、シェルは体が弱いらしく滅多に自室から出ることがないらしい。付随して、あまり他人と顔を合わせる経験もないことから、今日のところは私の両親は応接室で待機し、私のみが紹介されるはこびとなった。友人すら出来る機会のなかったシェルに配慮して、"友人"として紹介するという。父上同士の仲も良好、家格の釣り合いもとれている。どのような出会い方にしろいずれシェルと結婚することには変わりは無いだろう。
チャーミルスト侯爵に案内されシェルの部屋の前に到着した。扉をノックすると侯爵はまるで砂糖を煮詰めたかのように甘く溶けた声で息子に語りかける。病弱とはいえ5歳の男児。そんな小動物を愛でるような喋り方をするまでもないだろうと思ったが、シェルの姿を見た途端、なんとも言い難い愛しさが込み上げてきた。
透き通る氷のような白銀のきらめく髪。涼し気な髪に対して、あたたかい大地に祝福されたかのような大きな瞳はオリーブ色。とても華奢で小さくかぼそいのに、頬はふっくらとしてかわいらしい。病弱な雰囲気は漂うものの、好奇心に満ち溢れてうずうずしている様子に思わず笑みがこぼれた。
なんだ、小動物なんかよりもよっぽど可愛らしく愛おしいではないか。侯爵のあの話し方もうなずける。
私はシェルに目線を合わせるとできる限り優しく話しかけた。私の自己紹介に習うように、元気に挨拶をしてくれるシェル。少し噛んでしまったことを恥ずかしがっている姿も含め、全てが私の心をくすぐる。
はじめての"友達"である私に緊張することもなく、とても楽しいと全身で訴えながらお喋りをしているシェル。たまに咳が出てしまうけれど、そんなこと気にしないとばかりに彼なりにものすごくはしゃいでいるのが伝わる。
はしゃぎ疲れたのか、眠ってしまったシェルをベットに寝かせ、私と侯爵は応接室へと戻った。
「レオン、シェルくんはどうだった?仲良くなれそうか?」
父上の言葉にもちろんだと頷く。
「えぇ。とても可愛らしくて、はじめて会う私ともとても仲良く話してくださいました。チャーミルスト侯爵殿、父上。私はぜひシェル殿と婚約したいと思っております。必ず、二人で幸せになると誓います。ご許可を頂けますでしょうか?」
父上同士が仲がいいからでも、家格が釣り合うからでもない。あの可愛らしいシェルと、ずっと一緒にいたいと思った。
「「あぁ、もちろんそのつもりだったよ」」
仲のいい学友らしく、侯爵と父上の声が重なった。
ノックの音が聞こえて、ぼくは疲れて横になってしまっていた体勢を整える。
「シェル、お父様だよ。お友達が来てくれたよ」
ゆっくりと開いた扉からお父様と、ぼくよりもうんと大人っぽい男の子が入ってくる。暗めの銀髪に夜空みたいな濃紺の瞳。涼しげなのに男らしい端正な顔の美少年。まるで絵本の王子様か騎士様みたいなその男の子はソファに座る僕に合わせて少し屈んでくれた。
「はじめまして、プロエノビル公爵家の嫡男、レオンスティードだよ。」
「は、はじめまして! えと……チャーミルスト侯爵家の次男の、シェルでしゅ!」
はじめてのお友達との挨拶…。とっても緊張して盛大に噛んでしまった。さっきお父様と練習したばかりなのに…。そんな僕を見てもレオンスティード様は優しく微笑んでくれる。
「私は今7歳だから、シェルよりも2歳お兄さんなんだ。友達になってくれるかな? 横に座っても?」
ぼくはコクコクと頷いてこたえる。緊張するけれど、なんだかぽかぽかした気持ちだ。レオンスティード様は2歳差とは思えないほど長身で、体つきからも剣の練習を頑張ってるんだろうなと思う。ベッドの住人の僕はなんだか羨ましくて、こんな人が友達になってくれたのが嬉しくて終始ニコニコしていた。
「レオンスティード様は剣をならっていますか? 僕のお兄様は剣のお稽古をしていて、いつも窓からみてるんです! とってもかっこよくて、レオンスティード様もかっこいいから、剣をやってるのかなって……!」
「あぁ、習っているよ。と言っても息抜き程度にだけれど。シェルはとても楽しそうにお話をしてくれるんだね、かわいいなぁ。」
「そうなんですね……! かっこいーです! ぼくはあんまり動けないから剣を近くで見たこともないんだけれど……あ! でもたくさんぬいぐるみさんを持ってます! ケホッコホッ」
「大丈夫? 良かったら私の肩にもたれていいからね。部屋に入った時にたくさんぬいぐるみを見つけて私も気になっていたんだ。シェルは沢山お友達がいていいなぁ、良かったら私にも紹介してくれないかな?」
はじめてできた僕の人間のお友達のレオンスティード様。ふたつ年上でとっても優しいおにいさん。たくさんニコニコしてくれる。結局その後も嬉しくなって沢山お話してしまって、慣れないことで疲れたのかいつの間にかぼくは眠りについてしまった。
プロエノビル公爵家に生を受けてから7年。次期公爵たるもの文武両道であるようにと育てられてきた。次期公爵にはそれにふさわしい伴侶も必要である……というのは建前で、父上同士仲の良いチャーミルスト侯爵家の次男との縁談話が進んでいた。
今日はその顔合わせの日。どうやら私の婚約者候補、シェルは体が弱いらしく滅多に自室から出ることがないらしい。付随して、あまり他人と顔を合わせる経験もないことから、今日のところは私の両親は応接室で待機し、私のみが紹介されるはこびとなった。友人すら出来る機会のなかったシェルに配慮して、"友人"として紹介するという。父上同士の仲も良好、家格の釣り合いもとれている。どのような出会い方にしろいずれシェルと結婚することには変わりは無いだろう。
チャーミルスト侯爵に案内されシェルの部屋の前に到着した。扉をノックすると侯爵はまるで砂糖を煮詰めたかのように甘く溶けた声で息子に語りかける。病弱とはいえ5歳の男児。そんな小動物を愛でるような喋り方をするまでもないだろうと思ったが、シェルの姿を見た途端、なんとも言い難い愛しさが込み上げてきた。
透き通る氷のような白銀のきらめく髪。涼し気な髪に対して、あたたかい大地に祝福されたかのような大きな瞳はオリーブ色。とても華奢で小さくかぼそいのに、頬はふっくらとしてかわいらしい。病弱な雰囲気は漂うものの、好奇心に満ち溢れてうずうずしている様子に思わず笑みがこぼれた。
なんだ、小動物なんかよりもよっぽど可愛らしく愛おしいではないか。侯爵のあの話し方もうなずける。
私はシェルに目線を合わせるとできる限り優しく話しかけた。私の自己紹介に習うように、元気に挨拶をしてくれるシェル。少し噛んでしまったことを恥ずかしがっている姿も含め、全てが私の心をくすぐる。
はじめての"友達"である私に緊張することもなく、とても楽しいと全身で訴えながらお喋りをしているシェル。たまに咳が出てしまうけれど、そんなこと気にしないとばかりに彼なりにものすごくはしゃいでいるのが伝わる。
はしゃぎ疲れたのか、眠ってしまったシェルをベットに寝かせ、私と侯爵は応接室へと戻った。
「レオン、シェルくんはどうだった?仲良くなれそうか?」
父上の言葉にもちろんだと頷く。
「えぇ。とても可愛らしくて、はじめて会う私ともとても仲良く話してくださいました。チャーミルスト侯爵殿、父上。私はぜひシェル殿と婚約したいと思っております。必ず、二人で幸せになると誓います。ご許可を頂けますでしょうか?」
父上同士が仲がいいからでも、家格が釣り合うからでもない。あの可愛らしいシェルと、ずっと一緒にいたいと思った。
「「あぁ、もちろんそのつもりだったよ」」
仲のいい学友らしく、侯爵と父上の声が重なった。
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