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婚約者を溺愛したい次期公爵
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目当ての北の森に足を踏み入れて今日で3日目。未だ花を見つけることはできずにいる。ここに来る前は、1日で花を見つけて休日にはシェルの元へ行こうなどと楽観的に考えていた。入ってみれば分かる。木々が生い茂るせいで空は見えず、どこをどのように歩いているか分からない。コンパスも使い物にならない。強くは無いものの魔獣も蔓延っている。そのせいか、公爵家の影という隠密行動のスペシャリストたちを何度か目視してしまった。そのくらい、この森を迷わずに進むことは難しい。
道に印をつけながら森の奥を目指す。幸い、魔獣を仕留めれば食料に困ることはなかったが、三日三晩日の光すら当たらない森で歩み続けるのにはそれ相応の体力がいるようだ。微かに漏れていた上空の光が無くなる頃、ついに目の前に高い岩の壁を見つけた。おそらく、これがリリーの言っていた崖だろう。
私のように少人数での行動ならまだしも、勇者一行のように大人数でこの森を移動し崖を登るとなるとかなりの時間を要す。私が今比較的簡単なようにこなしているこの花探しが、物語の主要なエピソードとなった所以はもしかしたら人数にあるのかもしれないな、と心の中で思った。早くシェルにあって癒されたいという一心で、崖を登り始める。こんな時も考えるのはシェルのことばかりだ。
「これを壊す訳には行かないから崖から落ちれないな」
独り言をつぶやく。服の内側にはシェルの魔石。ハンカチはとにかく丁重に扱ったが、魔石はシェルを傍に感じるために肌身離さず身につけている。魔力が込められているから、心做しかシェルの温もりを感じる。冬の凍てつく寒さも、掌にあたる岩の感触も、シェルの温もりに包まれればなんてことない。
かなりの時間が経過して、伸ばした指先に土を感じた。ありったけの力を振り絞って登りきる。少し高いところから見下ろした森は、まさに樹の海だった。遠くの空が白んでいる。朝日の予兆に背を向けて、さらに奥へと進んだ。
崖の上の森は不思議だった。足元には光るキノコ、その上を蝶が飛び回っている。異界を感じるような場所だった。気温はさらに下がっているんだろう。足先の感覚が麻痺してくる。見たことのない魔獣たちは、私を襲うでもなくただこちらに目を向ける。周りに目を取られてゆっくりと歩みを進めると、開けた場所に出た。
そこには、一面の暗い緑みの黄。私の首にぶら下がる魔石の色と非常に似ている。はるか遠くまで広がるオリーブ色は、よく見ると全て新芽だった。図鑑でも見たことの無いハート型の幼い葉だ。
「主のお探し物はこれでしょうか」
姿は見えないが、影の声がした。
「あぁ、間違いないと思う。シェルの色だ……。けど残念だな、まだ花をつけていない。」
王宮での勇者探しは始まったばかりで、まだ選定されていない。一行が各地の森を探してこの場所に辿り着く頃に花が咲いているとすると、ここの新芽が花開くのはまだ先だろう。子葉を1枚摘むが、途端に茶色く変色する。なるほど、液体への抽出方法に悩むものだな。
「今回の目的はこれで終わった。今後半年に一度様子を見に来るから、森に入ってからの最短ルートを調べておいてくれ」
リリーの前世の記憶のおかげで、思いの外早く見つけられたことに感謝する。すぐに王都へ戻ってシェルの匂いを思う存分吸い込んで癒されよう。まめの潰れた掌を握りしめ、オリーブ色に背中を向けた。
おまけ
リエル子爵領か……。なかなか来られる場所では無いし、国境も近く異国のものも多く入ってくる街だから何かお土産でも買ってかえってあげよう。
「会計を頼む」
「あんたこれ……こんな量のぬいぐるみ買い込んでどうやって持って帰るんだい……」
「馬車を頼むことにする、とにかく会計を」
「はいはいちょっと待ってね。あんた、奥さんに怒られやしないかい?こんなに子供のこと甘やかして」
シェルはなんだかんだいいつつ未だにぬいぐるみを綺麗に飾ったり、たまに抱いて寝ているから喜ぶと思ったのだが……数が多すぎたか? それに、子供用だと勘違いされている……。俺はそんなに老け顔なんだろうか……。
「会計を頼む」
「かしこまりました。わっ……恋人さんへのプレゼントですか? お包みいたしますね」
「頼む。この辺りではこのような耳のついたパジャマが流行ってるのかい?」
「えぇ……隣国からの輸入品で最近人気が出ていて……」
「良い文化だな」
「あ、ありがとうございます……?」
この街にはモコモコとした愛らしいパジャマがあるのか……。素晴らしい。フードにうさぎやネコなんかの耳がついている。こんなもの初めて見たが、シェルに似合わないわけないだろう。隣国に感謝だ。
「会計を頼む」
「はーい! ふふっ、あなた見かけによらず甘党なのね。おまけもつけておくわ」
「感謝する。それと、私用ではなく愛しの人へのプレゼント用だよ」
細かい細工のされた砂糖菓子は王都でも見たことの無いほどの代物だった。全て食べることは難しいかもしれないが、視覚的にも楽しめるだろう。一粒二粒なら調子のいい時に食べさせてあげられるかもしれないし。
結局、丸1日使ってシェルへのお土産を見て回っていたら馬車一台では済まない量になってしまった。
道に印をつけながら森の奥を目指す。幸い、魔獣を仕留めれば食料に困ることはなかったが、三日三晩日の光すら当たらない森で歩み続けるのにはそれ相応の体力がいるようだ。微かに漏れていた上空の光が無くなる頃、ついに目の前に高い岩の壁を見つけた。おそらく、これがリリーの言っていた崖だろう。
私のように少人数での行動ならまだしも、勇者一行のように大人数でこの森を移動し崖を登るとなるとかなりの時間を要す。私が今比較的簡単なようにこなしているこの花探しが、物語の主要なエピソードとなった所以はもしかしたら人数にあるのかもしれないな、と心の中で思った。早くシェルにあって癒されたいという一心で、崖を登り始める。こんな時も考えるのはシェルのことばかりだ。
「これを壊す訳には行かないから崖から落ちれないな」
独り言をつぶやく。服の内側にはシェルの魔石。ハンカチはとにかく丁重に扱ったが、魔石はシェルを傍に感じるために肌身離さず身につけている。魔力が込められているから、心做しかシェルの温もりを感じる。冬の凍てつく寒さも、掌にあたる岩の感触も、シェルの温もりに包まれればなんてことない。
かなりの時間が経過して、伸ばした指先に土を感じた。ありったけの力を振り絞って登りきる。少し高いところから見下ろした森は、まさに樹の海だった。遠くの空が白んでいる。朝日の予兆に背を向けて、さらに奥へと進んだ。
崖の上の森は不思議だった。足元には光るキノコ、その上を蝶が飛び回っている。異界を感じるような場所だった。気温はさらに下がっているんだろう。足先の感覚が麻痺してくる。見たことのない魔獣たちは、私を襲うでもなくただこちらに目を向ける。周りに目を取られてゆっくりと歩みを進めると、開けた場所に出た。
そこには、一面の暗い緑みの黄。私の首にぶら下がる魔石の色と非常に似ている。はるか遠くまで広がるオリーブ色は、よく見ると全て新芽だった。図鑑でも見たことの無いハート型の幼い葉だ。
「主のお探し物はこれでしょうか」
姿は見えないが、影の声がした。
「あぁ、間違いないと思う。シェルの色だ……。けど残念だな、まだ花をつけていない。」
王宮での勇者探しは始まったばかりで、まだ選定されていない。一行が各地の森を探してこの場所に辿り着く頃に花が咲いているとすると、ここの新芽が花開くのはまだ先だろう。子葉を1枚摘むが、途端に茶色く変色する。なるほど、液体への抽出方法に悩むものだな。
「今回の目的はこれで終わった。今後半年に一度様子を見に来るから、森に入ってからの最短ルートを調べておいてくれ」
リリーの前世の記憶のおかげで、思いの外早く見つけられたことに感謝する。すぐに王都へ戻ってシェルの匂いを思う存分吸い込んで癒されよう。まめの潰れた掌を握りしめ、オリーブ色に背中を向けた。
おまけ
リエル子爵領か……。なかなか来られる場所では無いし、国境も近く異国のものも多く入ってくる街だから何かお土産でも買ってかえってあげよう。
「会計を頼む」
「あんたこれ……こんな量のぬいぐるみ買い込んでどうやって持って帰るんだい……」
「馬車を頼むことにする、とにかく会計を」
「はいはいちょっと待ってね。あんた、奥さんに怒られやしないかい?こんなに子供のこと甘やかして」
シェルはなんだかんだいいつつ未だにぬいぐるみを綺麗に飾ったり、たまに抱いて寝ているから喜ぶと思ったのだが……数が多すぎたか? それに、子供用だと勘違いされている……。俺はそんなに老け顔なんだろうか……。
「会計を頼む」
「かしこまりました。わっ……恋人さんへのプレゼントですか? お包みいたしますね」
「頼む。この辺りではこのような耳のついたパジャマが流行ってるのかい?」
「えぇ……隣国からの輸入品で最近人気が出ていて……」
「良い文化だな」
「あ、ありがとうございます……?」
この街にはモコモコとした愛らしいパジャマがあるのか……。素晴らしい。フードにうさぎやネコなんかの耳がついている。こんなもの初めて見たが、シェルに似合わないわけないだろう。隣国に感謝だ。
「会計を頼む」
「はーい! ふふっ、あなた見かけによらず甘党なのね。おまけもつけておくわ」
「感謝する。それと、私用ではなく愛しの人へのプレゼント用だよ」
細かい細工のされた砂糖菓子は王都でも見たことの無いほどの代物だった。全て食べることは難しいかもしれないが、視覚的にも楽しめるだろう。一粒二粒なら調子のいい時に食べさせてあげられるかもしれないし。
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