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第一章
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誰にも認められず、誰からも必要とされず、俺がどんな血のにじむような努力をしたって誰の心にも響かない。俺は要らないんだと突き付けられても、耐えたつもりだ。牢獄みたいなあの場所から自ら這い出て、やっと掴んだ居場所は、品がないとよく知りもしない癖に否定された。俺の事なんて何も知らない、知ろうともしない。俺の知らない俺を勝手に作り上げて否定して否定して否定して、切り捨てるんだ。みんな。
なのに、なんで全て持ってるお前が俺を必要とするんだよ。意味わかんないよ。教えてくれよ。
ジョッキとジョッキが心地よくあたる音。煙草の匂い。巷で流行っている若者向けの音楽。ワルツとは違う、もっと軽快で自由なステップを踏む音。眩しすぎるスポットライト。
音楽に身を預けて踊る。頭の先から爪先まで神経を張り巡らせて、丁寧に表現を重ねる。指の角度、目線、なにもかも。終日がやがやと騒がしいチープな店内で仲間が奏でる音楽に合わせて踊る。褒められたいわけでも金が欲しいわけでもない。これが俺だ、俺はこういう人間だ、そう刻むために踊る。
媚びてたまるか。決まったスタイルなんて関係ない、世界中のいいものを全部詰め込んでやる。型にハマったアイツらとは違うんだ。サビに差しかかろうとした時。
「まさか本当にいらっしゃるとは……殿下、王がお呼びです」
やたら煌びやかに装飾された正装を身にまとった騎士たちが安っぽい扉を開け放ち、俺の元へズカズカと歩いてくる。腕を掴まれ睨みつけるが、そんなことお構い無しなようだ。楽器を演奏していた仲間も、酒呑んで騒いでいたおっちゃんも、店の店主もぽかんとしたまま固まっている。そりゃそうだろう。俺が王子だなんてことこいつらは知らないし。良い感じに平民の血が混ざった庶子の俺には、王族の品が醸し出されるような見た目は用意されていない。意図的に平民になりきればそこら辺の取るに足らない男にしか見えなかっただろう。
放り投げるように馬車に強制的に乗せられた。どうせいつもの様に、ちゃちい嘘で塗りたくった"愛ある説教"を永遠と食らわされるんだ。俺の事なんて気にしてないくせに。アイツらは王族としての品とか、世間体とか、威厳とか、そんな見えないものにいつまでも縋ってる。勝手にしてくれ。俺はアイツらがどんなに俺にバツ印を与えてきたって何度でも投げ捨てて踏んずけて俺の道を進んでやる。テキトーに返事してればいいだろうと、そう思っていた。
「第3王子、ヴァルシン・トレ・リナシメントは王位継承権を最下位に回すこととする。それに加え、来年度より隣国、マジアレーベへ留学にいき、深い学びを得てくるように。以上」
「は!? ちょ、親父っ……陛下、どういうことですか!?」
「言葉のとおりだ」
まさか、ほとんど廃嫡のような扱いを受けるとは想像もしていなかった。元々庶子なこともあって、王位につくことはほぼ無いに等しかったし、王位に執着もなかったが、継承権が最下位に回されるというのは想定外すぎる。結局、抵抗も虚しく、ほぼほぼ追い出される形で留学が決まってしまった。
唯一良かったことは留学が9月からということだろうか。年度の終わりを待たず、途中編入させられていたら酒も煙草も楽しめないところだった。リナシメントでは16で酒と煙草が許されるが、たしかマジアレーベは18からだったはずだ。俺は今17、誕生日が来る8月まで残り約半年。娯楽が無くならなくてよかった。
夜、部屋の窓からこっそりと抜け出す。右手には最近気に入っている酒のボトル。そのまま屋根の上にあがれば、全ての人に平等に降り注ぐ星空。ボトルの口を直に唇にあてる。
小さい頃から俺の面倒を見てくれていた使用人たちは、今回の親父の判断を随分と庇っていた。俺のことを考えて、庶子のまま不安定な立場にいるよりも安全だと思ってのこと……。んなの知らねえよ。国民に認められたいなんて誰も言ってない。そんな体裁ばっかり気にしやがって、一番大事なものをあいつらは見ていない。
でも、別の国に行ったら、もうそんなの気にしなくていいんじゃないだろうか。今まで、どこに行っても、踊り子の子供だと蔑まれた。勝手に腹違いの兄弟たちと比べられた。けれど、もしかすると、マジアレーベでは違うかもしれない。自分の国の王子ではないし、継承権最下位の王子なんてなんの影響力もない。勝手に評価して、勝手に蔑まれることは無くなるかもしれない。みんなが望むような、「平民王子」でいる必要も無くなるかもしれない。
もしそうなら、もう少し真面目に生きてみたい。周りに期待してもいいと思いたい。普通に暮らして、普通に友達が欲しい。
結局この国では、誰も俺に期待なんかしなかったし、俺が不良行為に走っても、厳しく注意するでもなく、体裁、体裁、体裁、そればっかりだった。最終的に捨てられて。俺はどうしたかったんだろう。どうして欲しかったんだろう。親や使用人からの愛情を確認したかったんだろうな。結局何も無かったということしか分からなかったけど。
マジアレーベに行ったら、不良行為はやめよう。この日、俺はそう決めた。酒と煙草は……法律違反じゃないし問題ないか。
なのに、なんで全て持ってるお前が俺を必要とするんだよ。意味わかんないよ。教えてくれよ。
ジョッキとジョッキが心地よくあたる音。煙草の匂い。巷で流行っている若者向けの音楽。ワルツとは違う、もっと軽快で自由なステップを踏む音。眩しすぎるスポットライト。
音楽に身を預けて踊る。頭の先から爪先まで神経を張り巡らせて、丁寧に表現を重ねる。指の角度、目線、なにもかも。終日がやがやと騒がしいチープな店内で仲間が奏でる音楽に合わせて踊る。褒められたいわけでも金が欲しいわけでもない。これが俺だ、俺はこういう人間だ、そう刻むために踊る。
媚びてたまるか。決まったスタイルなんて関係ない、世界中のいいものを全部詰め込んでやる。型にハマったアイツらとは違うんだ。サビに差しかかろうとした時。
「まさか本当にいらっしゃるとは……殿下、王がお呼びです」
やたら煌びやかに装飾された正装を身にまとった騎士たちが安っぽい扉を開け放ち、俺の元へズカズカと歩いてくる。腕を掴まれ睨みつけるが、そんなことお構い無しなようだ。楽器を演奏していた仲間も、酒呑んで騒いでいたおっちゃんも、店の店主もぽかんとしたまま固まっている。そりゃそうだろう。俺が王子だなんてことこいつらは知らないし。良い感じに平民の血が混ざった庶子の俺には、王族の品が醸し出されるような見た目は用意されていない。意図的に平民になりきればそこら辺の取るに足らない男にしか見えなかっただろう。
放り投げるように馬車に強制的に乗せられた。どうせいつもの様に、ちゃちい嘘で塗りたくった"愛ある説教"を永遠と食らわされるんだ。俺の事なんて気にしてないくせに。アイツらは王族としての品とか、世間体とか、威厳とか、そんな見えないものにいつまでも縋ってる。勝手にしてくれ。俺はアイツらがどんなに俺にバツ印を与えてきたって何度でも投げ捨てて踏んずけて俺の道を進んでやる。テキトーに返事してればいいだろうと、そう思っていた。
「第3王子、ヴァルシン・トレ・リナシメントは王位継承権を最下位に回すこととする。それに加え、来年度より隣国、マジアレーベへ留学にいき、深い学びを得てくるように。以上」
「は!? ちょ、親父っ……陛下、どういうことですか!?」
「言葉のとおりだ」
まさか、ほとんど廃嫡のような扱いを受けるとは想像もしていなかった。元々庶子なこともあって、王位につくことはほぼ無いに等しかったし、王位に執着もなかったが、継承権が最下位に回されるというのは想定外すぎる。結局、抵抗も虚しく、ほぼほぼ追い出される形で留学が決まってしまった。
唯一良かったことは留学が9月からということだろうか。年度の終わりを待たず、途中編入させられていたら酒も煙草も楽しめないところだった。リナシメントでは16で酒と煙草が許されるが、たしかマジアレーベは18からだったはずだ。俺は今17、誕生日が来る8月まで残り約半年。娯楽が無くならなくてよかった。
夜、部屋の窓からこっそりと抜け出す。右手には最近気に入っている酒のボトル。そのまま屋根の上にあがれば、全ての人に平等に降り注ぐ星空。ボトルの口を直に唇にあてる。
小さい頃から俺の面倒を見てくれていた使用人たちは、今回の親父の判断を随分と庇っていた。俺のことを考えて、庶子のまま不安定な立場にいるよりも安全だと思ってのこと……。んなの知らねえよ。国民に認められたいなんて誰も言ってない。そんな体裁ばっかり気にしやがって、一番大事なものをあいつらは見ていない。
でも、別の国に行ったら、もうそんなの気にしなくていいんじゃないだろうか。今まで、どこに行っても、踊り子の子供だと蔑まれた。勝手に腹違いの兄弟たちと比べられた。けれど、もしかすると、マジアレーベでは違うかもしれない。自分の国の王子ではないし、継承権最下位の王子なんてなんの影響力もない。勝手に評価して、勝手に蔑まれることは無くなるかもしれない。みんなが望むような、「平民王子」でいる必要も無くなるかもしれない。
もしそうなら、もう少し真面目に生きてみたい。周りに期待してもいいと思いたい。普通に暮らして、普通に友達が欲しい。
結局この国では、誰も俺に期待なんかしなかったし、俺が不良行為に走っても、厳しく注意するでもなく、体裁、体裁、体裁、そればっかりだった。最終的に捨てられて。俺はどうしたかったんだろう。どうして欲しかったんだろう。親や使用人からの愛情を確認したかったんだろうな。結局何も無かったということしか分からなかったけど。
マジアレーベに行ったら、不良行為はやめよう。この日、俺はそう決めた。酒と煙草は……法律違反じゃないし問題ないか。
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