2 / 3
第一章
2
しおりを挟む
「はじめまして、マジアレーベ王国王太子、ラインハルト・マジアレーベだ」
「ヴァルシン・トレ・リナシメントだ」
「よろしく。年齢も同じだし、学園は身分関係なく学ぶ場だ。気軽に接してくれ」
差し伸べられた手を握る。学園への転入手続きが済み、新年度を明日に迎えた今日、一応は一国の王子を受け入れるということで、マジアレーベの王太子との挨拶の場が設けられた。場所はマジアレーベの貴族が通う学園。今日はこのまま案内をしてくれるらしい。
俺よりもほんの少しだけ高い身長。茶に近い金髪と深い緋色の瞳は、嫌味な程に王族の威厳を感じさせる。それでいて、どこか中性的で柔らかい印象を与える繊細な顔つき。極めつけは、嘘だらけの笑顔。
嫌いになるには充分だった。目に入れた瞬間に、祖国の家族の顔が思い出される。体裁を気にする奴。俺は、皮肉を込めて笑顔を浮かべた。どうせお前も、ガワに拘る能無しだ。
「あぁ、学友としてよろしく頼む、ラインハルト」
燻る火のような紅い瞳が、にぃっと弧を描く。ぞくりとした。背中をブスブスと刺されたような恐怖感。思わず手を話すと、大声で笑われる。
「あっははは! 力を入れすぎちゃったかな? ごめんね」
「い、いや、こちらこそすまない」
嫌いだ。どうせ俺の外側を見て、庶子だと見下しているんだろう。無駄にチャラけた口調。こいつはクソ王子だ。やっぱり、どこの国も王族なんてろくでなししかいない。こいつだけは嫌いだ。
心の奥が見透かされぬようにしながら悪態をつく。
「そうしたら、学園を案内させてもらうよ」
「あぁ、助かる」
クソ王子は広すぎる校舎を順に説明し始めた。あまりにも敷地が広いため、重要な施設を中心に回っていく。教室、食堂、図書館、俺の住むことになる学園寮。廊下を進む間も、終始あの気持ち悪い笑顔を貼り付けて、当たり障りない会話をしてくる。
「あぁそうだ、明日のパーティー、楽しみにしてるよ」
いきなりそう言われる。明日、新年度初日で学園の授業が午前で終わるため、夜に王宮で極小規模のパーティーを開くようだ。事前に招待があったから出席することになっているが、このなにか裏があるような含んだ笑みを見ると、取りやめてしまいたい気分になる。
「俺もだよ。俺の祖国は新しいものを取り入れたがるが、マジアレーベは伝統的な文化を大切にしていると聞いているから興味がある」
「そんな風に言ってもらえて嬉しいな。ただの時代遅れだと思われがちだからね」
「まさかそんなはずないだろう」
目の奥が笑ってねぇよ。こいつとだけは上手くやって行ける気がしない。何も考えておらず、無能で能天気に見えて、こちらを見透かしているような覇気を感じる。野生の勘とでもいうんだろうか。頭の奥でガンガンと警鐘がなる。
結局クソ王子は最後まであの気持ち悪い面をしたままだった。とんでもないバカなのか、腹黒なのか。どちらにしてもいい気はしないな、と寮のベットに仰向けになって考える。一応は一国の王子だから、王太子の案内も付くし、寮も一人部屋だ。王族が嫌いで嫌いで仕方が無いのに、その恩恵を受けている自分に腹が立った。
「ヴァルシン・トレ・リナシメントだ」
「よろしく。年齢も同じだし、学園は身分関係なく学ぶ場だ。気軽に接してくれ」
差し伸べられた手を握る。学園への転入手続きが済み、新年度を明日に迎えた今日、一応は一国の王子を受け入れるということで、マジアレーベの王太子との挨拶の場が設けられた。場所はマジアレーベの貴族が通う学園。今日はこのまま案内をしてくれるらしい。
俺よりもほんの少しだけ高い身長。茶に近い金髪と深い緋色の瞳は、嫌味な程に王族の威厳を感じさせる。それでいて、どこか中性的で柔らかい印象を与える繊細な顔つき。極めつけは、嘘だらけの笑顔。
嫌いになるには充分だった。目に入れた瞬間に、祖国の家族の顔が思い出される。体裁を気にする奴。俺は、皮肉を込めて笑顔を浮かべた。どうせお前も、ガワに拘る能無しだ。
「あぁ、学友としてよろしく頼む、ラインハルト」
燻る火のような紅い瞳が、にぃっと弧を描く。ぞくりとした。背中をブスブスと刺されたような恐怖感。思わず手を話すと、大声で笑われる。
「あっははは! 力を入れすぎちゃったかな? ごめんね」
「い、いや、こちらこそすまない」
嫌いだ。どうせ俺の外側を見て、庶子だと見下しているんだろう。無駄にチャラけた口調。こいつはクソ王子だ。やっぱり、どこの国も王族なんてろくでなししかいない。こいつだけは嫌いだ。
心の奥が見透かされぬようにしながら悪態をつく。
「そうしたら、学園を案内させてもらうよ」
「あぁ、助かる」
クソ王子は広すぎる校舎を順に説明し始めた。あまりにも敷地が広いため、重要な施設を中心に回っていく。教室、食堂、図書館、俺の住むことになる学園寮。廊下を進む間も、終始あの気持ち悪い笑顔を貼り付けて、当たり障りない会話をしてくる。
「あぁそうだ、明日のパーティー、楽しみにしてるよ」
いきなりそう言われる。明日、新年度初日で学園の授業が午前で終わるため、夜に王宮で極小規模のパーティーを開くようだ。事前に招待があったから出席することになっているが、このなにか裏があるような含んだ笑みを見ると、取りやめてしまいたい気分になる。
「俺もだよ。俺の祖国は新しいものを取り入れたがるが、マジアレーベは伝統的な文化を大切にしていると聞いているから興味がある」
「そんな風に言ってもらえて嬉しいな。ただの時代遅れだと思われがちだからね」
「まさかそんなはずないだろう」
目の奥が笑ってねぇよ。こいつとだけは上手くやって行ける気がしない。何も考えておらず、無能で能天気に見えて、こちらを見透かしているような覇気を感じる。野生の勘とでもいうんだろうか。頭の奥でガンガンと警鐘がなる。
結局クソ王子は最後まであの気持ち悪い面をしたままだった。とんでもないバカなのか、腹黒なのか。どちらにしてもいい気はしないな、と寮のベットに仰向けになって考える。一応は一国の王子だから、王太子の案内も付くし、寮も一人部屋だ。王族が嫌いで嫌いで仕方が無いのに、その恩恵を受けている自分に腹が立った。
40
あなたにおすすめの小説
巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
11月にアンダルシュノベルズ様から出版されます!
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
他サイトでも公開中
悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放
大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。
嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。
だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。
嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。
混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。
琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う――
「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」
知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。
耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。
待っててくれと言われて10年待った恋人に嫁と子供がいた話
ナナメ
BL
アルファ、ベータ、オメガ、という第2性が出現してから数百年。
かつては虐げられてきたオメガも抑制剤のおかげで社会進出が当たり前になってきた。
高校3年だったオメガである瓜生郁(うりゅう いく)は、幼馴染みで恋人でもあるアルファの平井裕也(ひらい ゆうや)と婚約していた。両家共にアルファ家系の中の唯一のオメガである郁と裕也の婚約は互いに会社を経営している両家にとって新たな事業の為に歓迎されるものだった。
郁にとって例え政略的な面があってもそれは幸せな物で、別の会社で修行を積んで戻った裕也との明るい未来を思い描いていた。
それから10年。約束は守られず、裕也はオメガである別の相手と生まれたばかりの子供と共に郁の前に現れた。
信じていた。裏切られた。嫉妬。悲しさ。ぐちゃぐちゃな感情のまま郁は川の真ん中に立ち尽くすーー。
※表紙はAIです
※遅筆です
オメガに転化したアルファ騎士は王の寵愛に戸惑う
hina
BL
国王を護るαの護衛騎士ルカは最近続く体調不良に悩まされていた。
それはビッチングによるものだった。
幼い頃から共に育ってきたαの国王イゼフといつからか身体の関係を持っていたが、それが原因とは思ってもみなかった。
国王から寵愛され戸惑うルカの行方は。
※不定期更新になります。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
愛人少年は王に寵愛される
時枝蓮夜
BL
女性なら、三年夫婦の生活がなければ白い結婚として離縁ができる。
僕には三年待っても、白い結婚は訪れない。この国では、王の愛人は男と定められており、白い結婚であっても離婚は認められていないためだ。
初めから要らぬ子供を増やさないために、男を愛人にと定められているのだ。子ができなくて当然なのだから、離婚を論じるられる事もなかった。
そして若い間に抱き潰されたあと、修道院に幽閉されて一生を終える。
僕はもうすぐ王の愛人に召し出され、2年になる。夜のお召もあるが、ただ抱きしめられて眠るだけのお召だ。
そんな生活に変化があったのは、僕に遅い精通があってからだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる