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第一章
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真新しい制服に身を包み、鏡の前で髪を整える。俺の顔は王族らしい品や威厳は持ち合わせちゃいないが、なかなか整った方だろう。切れ長の目元に通った鼻筋、形のいい唇にシャープな輪郭。眉は少し弧を描いて、雄らしさの中に中性的な柔らかさを兼ね備えている……。と、俺は思っている。実際女にも男にもよくモテているからその評価は間違ってないだろう。ブロンドと言うには少し砂っぽい髪色と、庶民らしさを引き立てる黒い瞳だけが俺の完成されきった美しさを皮肉っているみたいだ。
まぁ、多少の文句はあれど俺は自分の見た目に自信があるし、親に感謝している点をあげるならば真っ先に顔だと言えるくらいには気に入ってる。肩まで伸びた砂色をハーフアップにして、前髪をセンターで分ければ準備は完了だ。
寮を出て教室まで向かう道すがら、同じ服を着た生徒からの視線を感じる。こちらもチラチラと周りを見て様子を伺う。こっちの国でも貴族のお坊ちゃん達はいいこちゃんが多いようだ。息苦しいからとシャツのボタンを開けているのは俺くらいなようだ。俺は少食な上に太りにくい体質でかなり細いから服の隙間もだいぶ空いているから、気怠い雰囲気を漂わせているようにでも見えているんだろう。目が合うと顔を赤くしたまま逸らされる。
教室に着く頃にはキャーキャーと噂する声も増えた。編入生とは言えど、新学年初日からの登校な為、普通に着席して授業の開始を待つ。育ちのいいヤツらだ、遠巻きにこちらを見てくる者は多いが、席を囲まれるようなことはなかった。
毎年クラスが変わるらしく、最初の授業はオリエンテーションのようなものだった。左側の席から順に自己紹介が始まる。ざっと聞いた感じだと、クラスの大半が伯爵家以下のようだ。それともうひとつ、男子生徒の割合が多ないと思った。
マジアレーベでは同性婚も主流であるから、下位貴族の家督を継がないような令息たちが、自身の成長と、高位貴族に見初められる可能性を求めて学園に通う選択肢を取る傾向にある。それが理由なのだろう。リナシメントでは同性同士の妊娠は可能なものの、基本的に異性婚がすすめられている。詳しい理由は知らないが、同性間の妊娠が極めて人為的であることが宗教観的に認められないんだそうだ。そうこう考えているうちに、自分の番が回ってきた。
「ヴァルシン・トレ・リナシメントだ。隣国の第三王子だが、気軽に接して欲しい。みんな遅かれ早かれ知ることだろうから俺から言うが、俺の母親は平民だ。だから余計に、みんなと普通の友人になりたいと期待してるんだ。急遽決まった留学なので少し言葉に慣れていないから、最初のうちはゆっくり話してくれると助かる。よろしくな」
羨望の眼差しを感じる。拍手の音がなり止む前に着席した。経験上、血筋については勝手に噂が広まるのを待つよりも先に行ってしまった方が楽だ。もっとも、既に知っている奴も多いだろうが。
自己紹介後の休み時間は、椅子から動けなかった。女、女、女みたいな男、男。クラスメイトに囲われ、質問攻めに合う。男からの熱の篭った視線と声に、この国の婚姻事情を実感した。
「なぜ留学に来られたのですか?」
「元々マジアレーベに興味があったんだ」
「ヴァルシン殿下は婚約されている方やお慕いしている方はいらっしゃいますの?」
「いないな」
「お、男も恋愛対象に入りますか!?」
「リナシメントでは同性婚は主流じゃなかったからあまり考えたことはないな。これから次第かな」
「本日のご予定は……!?」
「あぁ、今日は先約があって。また今度ね」
少し面倒に感じながらも、貴族としての"普通"を意識して受けこたえた。
まぁ、多少の文句はあれど俺は自分の見た目に自信があるし、親に感謝している点をあげるならば真っ先に顔だと言えるくらいには気に入ってる。肩まで伸びた砂色をハーフアップにして、前髪をセンターで分ければ準備は完了だ。
寮を出て教室まで向かう道すがら、同じ服を着た生徒からの視線を感じる。こちらもチラチラと周りを見て様子を伺う。こっちの国でも貴族のお坊ちゃん達はいいこちゃんが多いようだ。息苦しいからとシャツのボタンを開けているのは俺くらいなようだ。俺は少食な上に太りにくい体質でかなり細いから服の隙間もだいぶ空いているから、気怠い雰囲気を漂わせているようにでも見えているんだろう。目が合うと顔を赤くしたまま逸らされる。
教室に着く頃にはキャーキャーと噂する声も増えた。編入生とは言えど、新学年初日からの登校な為、普通に着席して授業の開始を待つ。育ちのいいヤツらだ、遠巻きにこちらを見てくる者は多いが、席を囲まれるようなことはなかった。
毎年クラスが変わるらしく、最初の授業はオリエンテーションのようなものだった。左側の席から順に自己紹介が始まる。ざっと聞いた感じだと、クラスの大半が伯爵家以下のようだ。それともうひとつ、男子生徒の割合が多ないと思った。
マジアレーベでは同性婚も主流であるから、下位貴族の家督を継がないような令息たちが、自身の成長と、高位貴族に見初められる可能性を求めて学園に通う選択肢を取る傾向にある。それが理由なのだろう。リナシメントでは同性同士の妊娠は可能なものの、基本的に異性婚がすすめられている。詳しい理由は知らないが、同性間の妊娠が極めて人為的であることが宗教観的に認められないんだそうだ。そうこう考えているうちに、自分の番が回ってきた。
「ヴァルシン・トレ・リナシメントだ。隣国の第三王子だが、気軽に接して欲しい。みんな遅かれ早かれ知ることだろうから俺から言うが、俺の母親は平民だ。だから余計に、みんなと普通の友人になりたいと期待してるんだ。急遽決まった留学なので少し言葉に慣れていないから、最初のうちはゆっくり話してくれると助かる。よろしくな」
羨望の眼差しを感じる。拍手の音がなり止む前に着席した。経験上、血筋については勝手に噂が広まるのを待つよりも先に行ってしまった方が楽だ。もっとも、既に知っている奴も多いだろうが。
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「あぁ、今日は先約があって。また今度ね」
少し面倒に感じながらも、貴族としての"普通"を意識して受けこたえた。
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